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螺旋編 四章:螺旋の邂逅
警戒の中で
しおりを挟む山中に棲み着く魔物化した山猫を討伐する為に遠征した黒獣傭兵団は、現地の町を拠り所にしている傭兵団と協力する事になる。
そして遠征の疲れを癒す為に到着したその日を休息にした一行は、それぞれに休息する事となった。
それには、協力する事を頼んできた傭兵団の準備を待つ意味も兼ねている。
その合間に、安宿の一室でワーグナーはガルドと打ち合わせを行う。
そこにはエリクも付き添い、二人の話を聞いていた。
「――……少し大人数になっちまったが。予定通り、明日には山に入る」
「山猫共を炙り出すなら、人数が多い方がいいっすよ。聞いてた話より、結構デカい山みたいっすから」
「開拓してるのは道の部分だけで、他の所は手付かずなんだろう。逆に言えば、それだけ多くの奴等が隠れられる可能性があるってことだ」
「……もっとこっちも、人数を連れて来るべきでしたかね?」
「いや、これ以上の人数だと率いるのに苦労する事になる。熟練ならともかく、未熟な奴等ばっかりだからな」
「確かにそうっすね。それで、向こうの傭兵団はどうするんで?」
「別行動の方がやり易いってのが本音だが、向こうもこっちと負けず劣らずで若い連中が多い。別に行動すると、逆に山から要らんモノを呼び寄せそうだ」
「え?」
「さっき言ったろ。アレだけデカい山だ、他にも何か棲み着いてる可能性は高い」
「じゃあ、一緒に?」
「そういうことだ。向こうに道案内がてら、先頭の索敵をやらせる。こっちは後方の索敵と、相手の傭兵団に対する警戒だ」
「……向こうの傭兵団を、警戒っすか?」
「この依頼自体が罠で、俺達を殺す為に傭兵連中が雇われている可能性も、あるってことだ」
「!」
ガルドが干し肉を貪りながら話す言葉に、ワーグナーは目を見開いて驚く。
それに呆れた様子のガルドは、改めてワーグナーに話した。
「やっぱり考えてなかったか。ここは王族が管理してる王都近辺じゃなく、離れた伯爵家の領地だ。何かしらの勢力争いで、俺達が邪魔だから始末するつもりで雇った可能性もあるだろうが」
「そ、そんな事があるんっすか?」
「最近、黒獣傭兵団の名前が売れ始めたからな。どこぞの勢力が厄介だと思えば、依頼に見せかけて殺すなんてことはよくある事だ」
「……じゃあ、向こうの傭兵団は?」
「その相手に雇われて、俺達を殺す為に協力を申し出た可能性はある。だから警戒が必要だって言ってんだよ」
「……」
「その場合、俺達がそいつ等を返り討ちにしたとしても、どうなると思う?」
「……俺等が犯罪者ってことっすね?」
「そうだ。……犯罪の証拠なんざ、消すのも作るのも簡単だ。そうなる前に、さっさと逃げる心構えはしとけ」
「分かりました。他の連中にも、それとなく伝えておきます」
「それでいい」
ガルドの考え方をワーグナーは理解し、自分がやるべき事を察する。
仮に山猫の話が偽情報であり、黒獣傭兵団を陥れる為に誘き寄せる依頼なのだとしたら。
その時には向こうの傭兵団との戦闘は免れず、また正当防衛として向こうを殺したとしても、領主の思惑次第でこちらが傭兵団を襲い殺した犯罪者に仕立てられてしまう。
そういう事態を予想できなかったワーグナーは悔やむ様子を見せ、ガルドの教えを深く覚えるように目を閉じて呼吸をした。
そうしたワーグナーの表情と行動に、ガルドは口元を僅かに笑みを浮かべて頷いた後、今度はエリクの方を見た。
「エリク、お前も向こうの傭兵団に注意しとけ。分かってるな?」
「殺すのか?」
「お前、また聞いてねぇな! 殺さずに逃げるんだよ!」
「そ、そうか。分かった」
「ったく、この馬鹿共は……」
ガルドは怒鳴りながらエリクにも厳しく伝え、今後の意向を伝える。
今回の依頼が山猫の討伐であれば、そのまま向こうの傭兵団と協力して討伐する。
仮に依頼が罠であり不穏な様子が見えれば、黒獣傭兵団は山を下りて逃げるという心構えをガルドは宿らせた。
あるいはこうした事を考え至っていたからこそ、ガルドは今回の依頼に同行したのかもしれない。
その時に考えていなかった事を、現在のエリクは考えながら思い出していた。
そして次の日、休んだ黒獣傭兵団は準備を終えた傭兵団と町の入り口で合流する。
相手は予定通り、十名の団員を選抜して来た。
しかし半分以上は若者であり、歳はワーグナーと近い者達が多い。
逆に熟練した傭兵は少なく、相手の団長を含めて三名程しかそうした傭兵はいなかった。
それを見たガルドは、相手の団長に聞く。
「――……それが、お前等の面子か?」
「ああ」
「随分と若い連中が多いな」
「熟練だった連中のほとんどは、前の反乱で死んだよ。引退した奴もいる。そっちも顔ぶれを見ると、同じようなもんだろ?」
「まぁな。……それじゃあ、道案内を頼む。まずは山猫共に襲われたってところからだ」
「ああ」
「ちなみに、山猫共が棲み処にしてそうな場所に心当たりは?」
「何箇所かあるが、どれも遠いぜ。かなり深くに山に潜る必要もあるかもしれない」
「そうか。まぁ、とりあえずは案内を頼む」
「分かった。んじゃ、付いて来てくれ」
ガルドと相手の団長はそう話し、町を歩き出て山中の道へと案内する。
それを追う形で歩くガルドは、ワーグナーに近付いて小声で伝えた。
「山中に、連中の仲間が潜んでるかもしれない」
「……待ち伏せっすか?」
「可能性としてはな。エリクには山の中で俺達以外の気配がしたら、まず俺やお前にこっそり伝えるように言え」
「分かりました」
小声で話すガルドとワーグナーは、前にいる傭兵団を見ながら歩く。
そして秘かに足を緩めたワーグナーが、エリクに先程の事を小声で伝え、他の団員達にも待ち伏せの可能性を知らせた。
その知らせを聞いた黒獣傭兵団の若者達は気を引き締め、唾を飲んで歩みを続ける。
しかしエリクは変わらぬ様子で、いつものように道中の周囲を警戒した。
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