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螺旋編 三章:螺旋の未来
港都市防衛戦
しおりを挟む魔導人形を投下させていた球形上の飛空艇自身も、港都市の上空へ降下する。
そして魔導兵器の砲身が表面に出現させると、数十以上ある砲身を港都市へと向けた。
「!!」
「け、結界を発動させろ!」
「急げ!!」
飛空艇の狙いを察した上陸部隊の兵士は、通信越しにそう怒鳴る。
そして港都市に張られていた結界の修復作業を命じられていた部隊は、急ぎ修復した結界を再稼働させた。
そして次の瞬間、飛空艇の数十の砲身から魔導兵器が港都市へ降り注ぐ。
それが発動した結界に接触すると同時に、様々な属性魔力で練り込まれた砲弾が凄まじい轟音を鳴らしながら結界に受け止められた。
「……ッ!!」
「あ、危なかった……」
結界が無事に作動し、港都市の上空に覆われた事を兵士達は確認し、安堵を漏らす。
第一射で放たれた砲弾は全て結界に吸収される光景を見て、エリクは思い出していた。
「これは、アリアの結界と同じモノか……」
上空に出現した結界が、三十年前にアリアがルクソード皇国の皇都に施した結界と同じモノだとエリクは理解する。
如何に強力な魔導兵器でも魔力を武器として放たれる限り、アリアの結界はその魔力を吸収して魔石に取り込み、逆に結界を覆い補う魔力へと変換させる効果があった。
アリアが施した結界の技術がアスラント同盟国の時代でも流用され、見事に機能する光景にエリクは口元を微笑ませる。
しかし兵士達と共に浮かべた安堵も、更なる飛空艇の変化によって消されてしまった。
「……!?」
「な、なんだ……?」
飛空艇の中心部分が六角形を模るように開き始め、その中から横幅五十メートル以上の巨大な砲身が姿を現す。
その異様に大きな砲身は港都市から見上げるエリク達と兵士達に驚愕を浮かび上がらせた。
そして巨大な砲身の中心部から禍々しい程の巨大な魔力を感じ始めたエリクとマギルスが、身の毛を逆立たせる。
膨大な魔力が練り込まれている事を察した瞬間、エリクは怒鳴るように兵士達へ声を向けた。
「――……お前達、今すぐに逃げろ!!」
「!?」
「あれは――……」
逃げるように伝えた時、飛空艇の大型砲身に溜められている魔力の頂点に達する。
そして僅かな耳鳴りを発生させた瞬間、大気を引き裂くような巨大な魔力が大型砲身から放たれた。
白い閃光が港都市に迫り、それを守る結界に巨大砲撃が接触する。
しかし魔力で生み出された砲撃ならば、結界が吸収し魔石へ魔力が変換されると兵士達は思っていた。
しかしその予想にも似た期待は、見事に裏切られる。
結界を修復し起動させた部隊が、結界を構築する魔法陣の中心に置かれた直径六十センチ程の魔石に亀裂が発生する光景を目にしたのだ。
「!?」
「魔石が……!?」
「ま、まさか逆流する魔力に、耐え切れずに……!?」
魔石に亀裂が生まれた現象を見て、結界を修復していた兵士達の中にいる魔法師が呟く。
魔力の砲撃は結界を通じて魔石に吸収されるが、今回の巨大な砲身から放たれた魔力があまりにも膨大であり、吸収している魔石がその許容量を超えてしまった事に気付いた。
「魔石が、耐えられない……!?」
「予備の魔石を、魔法陣内に! 急げ!!」
一つの魔石で耐えられない事を悟った部隊は、すぐに予備の魔石を全て投じる。
そして十秒にも満たない時間で最初に設置された魔石の容量が超えると、爆発するように割れ砕けた。
それを手や腕で覆い守る兵士達は、急ぎながら新たな魔石を魔法陣に置く。
しかしそれすらも数秒後には亀裂が生まれ、すぐに新たな魔石を用意せざるを得なかった。
「こ、このままじゃ……」
「これも割れちまう……!!」
「魔石は、あと何個ある!?」
「もう、一個しか……」
港都市の上空を丸ごと覆えるだけの結界を維持できる高純度の魔石は、かなり限られた数しか用意できない。
本当であれば数十年以上は使える上級魔石が、この十数秒だけで二つも割れ砕けようとしている事実は、兵士達を戦慄させた。
そしてついに、二個目の魔石も砕き割れる。
兵士達は心に焦りを生みながらも、最後に残る魔石を使用する以外に選択肢は無かった。
「た、耐えろ……!!」
「耐えてくれ……!!」
祈るように安置された魔石に祈る兵士達だったが、それにも数秒後には亀裂が生まれて始める。
まだ続く砲撃と耐えられない魔石に、兵士達は絶望の表情を浮かべた。
その時、二十秒ほど続いていた大型の砲身から放たれる魔力が止まる。
それを知った兵士達は安堵の息を漏らしながらも、魔法陣に安置されている亀裂が入った魔石を見て表情を強張らせた。
「……もう一度、あの砲撃が来たら……」
「港都市は、おしまいだ……」
その最悪の結果を予想した者達の懸念は、悪い事に実現しようとしている。
大型の砲身は収納されずに、新たな魔力を溜め始めていたのだ。
それを魔力で感じ取ったマギルスは青馬を出現させて騎乗し、空を駆けながら結界が覆われていない横部分から港都市を出ると、上空に浮かぶ飛空艇に向かう。
しかしマギルスの接近に気付いたのか、飛空艇の大型砲身とは別に数十の小型砲身がマギルスの青馬に照準を合わせる。
そして魔弾と実弾を含んだ夥しい数の砲撃が、マギルスと青馬を襲った。
「うわっ!?」
『ブルルッ』
凄まじい数の砲撃で生み出された弾幕が、飛空艇へマギルスが接近する事を阻む。
魔力障壁を足場にして空を駆けているマギルスでは、アリアのように空を飛びながら自分達を結界で覆い守る事は不可能だった。
回避に集中する事になるマギルスは、青馬を駆けながら逃げるしかない。
そのマギルスに向けて、下からエリクが大声で呼び掛けた。
「マギルス!!」
「!」
「俺も行く! 拾ってくれ!!」
「うん!」
エリクが伝える言葉を聞き、マギルスはその意図を察する。
砲撃を回避しながら再び結界内部へ戻ったマギルスは、建物の上に上がり高く飛んだエリクを青馬の後ろへ乗せた。
そして今度は、二人で共に青馬に騎乗して空を駆けて飛空艇を目指す。
しかし再び近付く青馬に照準を合わせた数十の砲身から、砲撃が向けられる。
それの回避に専念するマギルスと青馬とは別に、エリクは手に握る大剣に赤い魔力を溜め込んだ。
その赤く魔力に染まった大剣を見て、マギルスは回避しながら飛空艇に出来るだけ近付いて叫び伝えた。
「やっちゃって、エリクおじさん!」
「ああ!」
エリクは大剣を横薙ぎにして振り、大剣から赤い魔力斬撃が飛空艇に向けて飛ぶ。
その太く長い魔力斬撃の切っ先が砲撃を飲み込み、飛空艇に外装へ食い込むように損傷を与えた。
「よし!」
「やった!」
エリクが放つ赤い斬撃の射程と威力であれば、飛空艇に傷を負わせる事が出来る。
それを試し成功した事で、マギルスは青馬に指示して大型砲身を破壊する為に回り込んで近付こうとした。
しかしそれに対応し、飛空艇の表面に新たな小型砲塔が出現する。
そして先程の数十の砲撃とは比べ物にならない、百から二百以上の砲撃が青馬に目掛けて襲い掛かった。
「クッ!!」
「うわぁ!!」
『ブルッ!!』
凄まじい数の砲撃のせいで、青馬に騎乗した二人は飛空艇に赤い斬撃の射程距離内まで近づけない。
しかし大型砲身に溜め込まれている魔力の量は更に多くなり、次の砲撃で港都市が壊滅する事を二人は察している。
どうにかそれを防ぐ為に飛空艇を撃墜しようとする二人だったが、やはり回避するので精一杯で飛空艇に近づけなくなってしまった。
その時、接舷していた戦艦内部で指揮をしていた司令官の男が、そのエリク達の行動と苦戦を確認する。
そして意を決した表情を浮かべ、操舵室の兵士達と他の戦艦に指示を送った。
「――……全艦、接舷用の橋を切り離せ。これより艦隊を、沖側へ移動させる」
「!」
「我々が、彼等の道を作り出すのだ」
その指示の意味を理解した操舵室の兵士は、司令官の命令に従い戦艦を動かす。
絶望的な世界で生き抜き、守る為に戦ってきた者達は、既に覚悟を終えていた。
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