上 下
355 / 1,360
螺旋編 三章:螺旋の未来

港都市防衛戦

しおりを挟む

 魔導人形ゴーレムを投下させていた球形上の飛空艇自身も、港都市の上空へ降下する。
 そして魔導兵器の砲身が表面に出現させると、数十以上ある砲身それを港都市へと向けた。

「!!」

「け、結界を発動させろ!」

「急げ!!」

 飛空艇の狙いを察した上陸部隊の兵士は、通信越しにそう怒鳴る。
 そして港都市に張られていた結界の修復作業を命じられていた部隊は、急ぎ修復した結界を再稼働させた。

 そして次の瞬間、飛空艇の数十の砲身から魔導兵器が港都市へ降り注ぐ。
 それが発動した結界に接触すると同時に、様々な属性魔力で練り込まれた砲弾が凄まじい轟音を鳴らしながら結界に受け止められた。

「……ッ!!」

「あ、危なかった……」

 結界が無事に作動し、港都市の上空に覆われた事を兵士達は確認し、安堵を漏らす。
 第一射で放たれた砲弾は全て結界に吸収される光景を見て、エリクは思い出していた。

「これは、アリアの結界と同じモノか……」

 上空に出現した結界が、三十年前にアリアがルクソード皇国の皇都に施した結界と同じモノだとエリクは理解する。
 如何に強力な魔導兵器でも魔力を武器として放たれる限り、アリアの結界はその魔力を吸収して魔石に取り込み、逆に結界を覆い補う魔力へと変換させる効果があった。

 アリアが施した結界の技術がアスラント同盟国の時代でも流用され、見事に機能する光景にエリクは口元を微笑ませる。
 しかし兵士達と共に浮かべた安堵も、更なる飛空艇の変化によって消されてしまった。

「……!?」

「な、なんだ……?」

 飛空艇の中心部分が六角形を模るように開き始め、その中から横幅五十メートル以上の巨大な砲身が姿を現す。
 その異様に大きな砲身は港都市から見上げるエリク達と兵士達に驚愕を浮かび上がらせた。

 そして巨大な砲身の中心部から禍々しい程の巨大な魔力を感じ始めたエリクとマギルスが、身の毛を逆立たせる。
 膨大な魔力が練り込まれている事を察した瞬間、エリクは怒鳴るように兵士達へ声を向けた。

「――……お前達、今すぐに逃げろ!!」

「!?」

「あれは――……」

 逃げるように伝えた時、飛空艇の大型砲身に溜められている魔力の頂点に達する。
 そして僅かな耳鳴りを発生させた瞬間、大気を引き裂くような巨大な魔力が大型砲身から放たれた。

 白い閃光が港都市に迫り、それを守る結界に巨大砲撃が接触する。
 しかし魔力で生み出された砲撃ならば、結界が吸収し魔石へ魔力が変換されると兵士達は思っていた。

 しかしその予想にも似た期待は、見事に裏切られる。
 結界を修復し起動させた部隊が、結界を構築する魔法陣の中心に置かれた直径六十センチ程の魔石に亀裂が発生する光景を目にしたのだ。

「!?」

「魔石が……!?」

「ま、まさか逆流する魔力に、耐え切れずに……!?」

 魔石に亀裂が生まれた現象を見て、結界を修復していた兵士達の中にいる魔法師が呟く。
 魔力の砲撃は結界を通じて魔石に吸収されるが、今回の巨大な砲身から放たれた魔力があまりにも膨大であり、吸収している魔石がその許容量を超えてしまった事に気付いた。
 
「魔石が、耐えられない……!?」

「予備の魔石を、魔法陣内に! 急げ!!」

 一つの魔石で耐えられない事を悟った部隊は、すぐに予備の魔石を全て投じる。
 そして十秒にも満たない時間で最初に設置された魔石の容量が超えると、爆発するように割れ砕けた。

 それを手や腕で覆い守る兵士達は、急ぎながら新たな魔石を魔法陣に置く。 
 しかしそれすらも数秒後には亀裂が生まれ、すぐに新たな魔石を用意せざるを得なかった。

「こ、このままじゃ……」

「これも割れちまう……!!」

「魔石は、あと何個ある!?」

「もう、一個しか……」

 港都市の上空を丸ごと覆えるだけの結界を維持できる高純度の魔石は、かなり限られた数しか用意できない。
 本当であれば数十年以上は使える上級魔石が、この十数秒だけで二つも割れ砕けようとしている事実は、兵士達を戦慄させた。

 そしてついに、二個目の魔石も砕き割れる。
 兵士達は心に焦りを生みながらも、最後に残る魔石を使用する以外に選択肢は無かった。

「た、耐えろ……!!」

「耐えてくれ……!!」

 祈るように安置された魔石に祈る兵士達だったが、それにも数秒後には亀裂が生まれて始める。
 まだ続く砲撃と耐えられない魔石に、兵士達は絶望の表情を浮かべた。

 その時、二十秒ほど続いていた大型の砲身から放たれる魔力が止まる。
 それを知った兵士達は安堵の息を漏らしながらも、魔法陣に安置されている亀裂が入った魔石を見て表情を強張らせた。

「……もう一度、あの砲撃が来たら……」

港都市ここは、おしまいだ……」

 その最悪の結果を予想した者達の懸念は、悪い事に実現しようとしている。
 大型の砲身は収納されずに、新たな魔力を溜め始めていたのだ。

 それを魔力で感じ取ったマギルスは青馬を出現させて騎乗し、空を駆けながら結界が覆われていない横部分から港都市を出ると、上空に浮かぶ飛空艇に向かう。
 しかしマギルスの接近に気付いたのか、飛空艇の大型砲身とは別に数十の小型砲身がマギルスの青馬に照準を合わせる。
 そして魔弾と実弾を含んだ夥しい数の砲撃が、マギルスと青馬を襲った。

「うわっ!?」

『ブルルッ』

 凄まじい数の砲撃で生み出された弾幕が、飛空艇へマギルスが接近する事を阻む。
 魔力障壁バリアを足場にして空を駆けているマギルスでは、アリアのように空を飛びながら自分達を結界で覆い守る事は不可能だった。

 回避に集中する事になるマギルスは、青馬を駆けながら逃げるしかない。
 そのマギルスに向けて、下からエリクが大声で呼び掛けた。

「マギルス!!」

「!」

「俺も行く! 拾ってくれ!!」

「うん!」

 エリクが伝える言葉を聞き、マギルスはその意図を察する。
 砲撃を回避しながら再び結界内部へ戻ったマギルスは、建物の上に上がり高く飛んだエリクを青馬の後ろへ乗せた。
 そして今度は、二人で共に青馬に騎乗して空を駆けて飛空艇を目指す。

 しかし再び近付く青馬に照準を合わせた数十の砲身から、砲撃が向けられる。
 それの回避に専念するマギルスと青馬とは別に、エリクは手に握る大剣に赤い魔力を溜め込んだ。

 その赤く魔力に染まった大剣を見て、マギルスは回避しながら飛空艇に出来るだけ近付いて叫び伝えた。

「やっちゃって、エリクおじさん!」

「ああ!」

 エリクは大剣を横薙ぎにして振り、大剣から赤い魔力斬撃が飛空艇に向けて飛ぶ。
 その太く長い魔力斬撃の切っ先が砲撃を飲み込み、飛空艇に外装へ食い込むように損傷を与えた。 

「よし!」

「やった!」

 エリクが放つ赤い斬撃の射程と威力であれば、飛空艇に傷を負わせる事が出来る。
 それを試し成功した事で、マギルスは青馬に指示して大型砲身を破壊する為に回り込んで近付こうとした。

 しかしそれに対応し、飛空艇の表面に新たな小型砲塔が出現する。
 そして先程の数十の砲撃とは比べ物にならない、百から二百以上の砲撃が青馬に目掛けて襲い掛かった。

「クッ!!」

「うわぁ!!」

『ブルッ!!』
 
 凄まじい数の砲撃のせいで、青馬に騎乗した二人は飛空艇に赤い斬撃の射程距離内まで近づけない。
 しかし大型砲身に溜め込まれている魔力の量は更に多くなり、次の砲撃で港都市が壊滅する事を二人は察している。
 どうにかそれを防ぐ為に飛空艇を撃墜しようとする二人だったが、やはり回避するので精一杯で飛空艇に近づけなくなってしまった。

 その時、接舷していた戦艦内部で指揮をしていた司令官の男が、そのエリク達の行動と苦戦を確認する。
 そして意を決した表情を浮かべ、操舵室の兵士達と他の戦艦に指示を送った。

「――……全艦、接舷用の橋を切り離せ。これより艦隊を、沖側へ移動させる」

「!」

「我々が、彼等の道を作り出すのだ」

 その指示の意味を理解した操舵室の兵士は、司令官の命令に従い戦艦を動かす。
 絶望的な世界で生き抜き、守る為に戦ってきた者達は、既に覚悟を終えていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?

桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」 やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。 婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。 あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?

処理中です...