上 下
303 / 1,360
結社編 閑話:舞台袖の役者達

理想の王 (閑話その二十八)

しおりを挟む

 ガルミッシュ帝国とベルグリンド王国の和平調印が行われてから、更に一ヶ月以上の時が流れる。
 両国は和平に対する協定を取り決め、敵対していた二国間で交流と貿易が行われる事となった。

 それに伴い、双方の国境沿いに交流を行える都市を建設する。
 そこには帝国と王国の民が住み、文化交流の為に学園の設立や技術交流などを行う実験的な場所にする事が取り決められた。

 その都市建設資金として、今回の協定で賠償金として支払われる王国側の資金が多く使われ、資材と建築作業の人員はガルミッシュ帝国側で提供する事が決まる。
 それに伴う支援もベルグリンド王国側は約束し、双方の国に大使館を設けるなど、和平に必要な要素を盛り込んだ計画となった。

 そして調印と協定が正式に結ばれた後、一部の使者を残してウォーリス王は帰国する。
 その後、新たな人物がベルグリンド王国から来訪する事を告げた。

 その人物の名は、リエスティア=フォン=ベルグリンド。
 ウォーリス王の妹であり、王国からユグナリス皇子と婚姻を勧められている女性。

 しかし、その素性などの情報は帝国側は得ていない。
 というのも、ウォーリスという人物の情報自体が帝国には不明慮にしか届いておらず、ベルグリンド王国で第三王子だったという以外の情報を帝国は得られていない。
 その人物に妹が居たという情報も、和平の親書にて初めて明かされた情報になる。

 そうした理由で帝国側は、ウォーリス王と妹リエスティアに関する情報を王国側へ求めた。
 そこで得られた情報も、かなり限られた情報だけとなる。
 それに関してゴルディオスとセルジアスは、素性に関する報告書を手にして王室内で密談を行っていた。

「――……ウォーリス=フォン=ベルグリンド。十二年前、十五歳の時に養子として前王に引き取られ、第三王子に据え置かれた。その際に妹リエスティアも引き取られ、末席の姫君として扱われている。しかし王位継承権を持たず、ウォーリス王自身に保護され王国で生活していたか……」

「ウォーリス王にしろリエスティア姫にしろ、『引き取られた』と言うより『引き取らせた』と言うのが正しいでしょうね。彼が来てから枯渇していた王国の国庫が潤沢になったと聞きます。彼から齎される利益が王国を支えていたのは、間違いないかと」

「十五歳で、そのような商才に恵まれ成功していたと……?」 

「私の場合、出来の良い妹アルトリアを知っていますから。王国にも似た人材が居ても、不思議とは思いません」

「確かに、そうだな。……それから五年前、第一王子と第二王子が各派閥同士の内紛を起こし失脚。その際に多くの王国貴族達が粛清され、必然的に王国への貢献度を高めていた第三王子ウォーリスが第一継承権を得るか。……これについては、どう思うね?」

「第一・第二王子の失脚がウォーリス王による策略だったかと問われれば、間違い無くそうでしょう。元々、上の王子達は国庫や各派閥貴族達から貪る怠惰な生活を送っていたと聞きます。和平を望み国庫を補填していたウォーリス王からして見れば、王国側で真っ先に排除したい存在だったはずです」 

「なるほど。……そして一年前に前王が老衰。元王子達は僻地の開拓事業に追いやられ、ウォーリスが国王へと成るか……。僅か十二年で、一国の王へと成り上がるか。周囲は反発しなかったのだろうか?」

「王国側の官僚達とも話を交えましたが、彼等全員がウォーリス王に高い忠誠を示していました」

「ほぉ。僅か一年の即位で、それほどの信頼を臣下から得られていると?」

「五年前に継承権を得たウォーリス王子は、表立って国の改革活動を行い始めたそうです。国王になってからは国の改革を大きく進め、王族以外の貴族制を廃止し、貧困に悩む平民の待遇改善と生活改善を施行し、新たな事業や土地開発に力を入れています。旧王国体制を滅し、大きく国を潤している」

「五年前……。王国が各地から物流を多くさせた時期か?」

「はい。大量に仕入れていた輸入品も、国民の為にほとんどが使われていたそうです」

「……なるほど、あの王国騎士達や官僚達の態度も頷ける。ウォーリス王が首を差し出すと告げた時、かなりの動揺だったからな」

「彼等のほとんどが平民から当用した人材と聞きます。王国の民達から見れば、彼は救世主に等しい存在でしょう。失えば、王国は再び暗雲の時代に逆戻りです」

「民の信頼厚き国王か。ベルグリンド王国の民は、まさに理想の王を得たというわけだな」

「そうですね」

 ウォーリス王がベルグリンド国内で行った事を確認していく二人は、彼の人柄に関しての情報を固めていく。
 そして得られた情報を見た限り、ウォーリス王は王国にとって良い改革を行い続ける名君と呼ぶべき存在にも等しいと分かった。

 それを確認した上で、ゴルディオスはセルジアスに問いを投げ掛ける。

「ローゼン公爵。ウォーリス王をどう見る?」

「……表面だけを捉えれば、民に良き政策を行う人望の厚い名君でしょう。しかし、些か不明な点が多い人物です。昨年に起きた黒獣傭兵団の団長エリクの虐殺事件も、ウォーリス王が即位したばかりの時に起きている。向こうが何を考えているのか、まだ油断は出来ないかと」

「余もそう思う。今後は、王国とはどう対応すべきと考える?」

「和平に関する事には否定せず、こちらから積極的に推し進めて構わないでしょう。しかし交流や軍事に関する重要な部分は、帝国で手綱を握るべきと考えます。彼に主導を許した場合、何か事が起きるか分からない。下手をすれば王国の全国民が敵に回り、帝国を飲み込む可能性も否めません」

「ふむ……」

「我々はあくまでベルグリンド王国を同盟国として扱い、交流と信頼を深めるという形で政策を行う事が理想です。しかし王国との立場は一線を敷き、国として全てを併呑はせずに、互いに国の在り方を強調していくべきかと思われます」

「……そうだな。まだ信頼を置くには、王国もウォーリス王も危うい存在。和平を定めても、帝国は帝国として在り方を変えぬ」

「ハッ」

 ゴルディオスは帝国皇帝として、ベルグリンド王国に対しては密接にではなく、一線を画して接する事を決める。
 それを促すセルジアスは了承し、宰相として政策方向を固めて各方面へ指示を送った。

 そして件の姫君、ウォーリス王の妹リエスティアが帝都へ訪れる。
 それに連動して、とある人物も帝都へ戻されていた。

「――……帝都、懐かしく思えるな……」

 帝都へ戻ったのは、ローゼン領で謹慎を命じられていた帝国皇子ユグナリス。
 王国のリエスティア姫との婚姻を結ぶ事となったユグナリスは、新たな婚約者と会う為に訪れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

気づいたら隠しルートのバッドエンドだった

かぜかおる
ファンタジー
前世でハマった乙女ゲームのヒロインに転生したので、 お気に入りのサポートキャラを攻略します! ザマァされないように気をつけて気をつけて、両思いっぽくなったし ライバル令嬢かつ悪役である異母姉を断罪しようとしたけれど・・・ 本編完結済順次投稿します。 1話ごとは短め あと、番外編も投稿予定なのでまだ連載中のままにします。 ざまあはあるけど好き嫌いある結末だと思います。 タグなどもしオススメあったら教えて欲しいです_|\○_オネガイシヤァァァァァス!! 感想もくれるとうれしいな・・・|ョ・ω・`)チロッ・・・ R15保険(ちょっと汚い言葉遣い有りです)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
ファンタジー
第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。 「愛するアデラの代わりに生贄になってくれ」愛した婚約者の皇太子の口からは思いもしなかった言葉が飛び出してクローディアは絶望の淵に叩き落された。 元々18年前クローディアの義母コニーが祖国ダレル王国に侵攻してきた蛮族を倒すために魔導爆弾の生贄になるのを、クローディアの実の母シャラがその対価に病気のクローディアに高価な薬を与えて命に代えても大切に育てるとの申し出を、信用して自ら生贄となって蛮族を消滅させていたのだ。しかし、その伯爵夫妻には実の娘アデラも生まれてクローディアは肩身の狭い思いで生活していた。唯一の救いは婚約者となった皇太子がクローディアに優しくしてくれたことだった。そんな時に隣国の大国マーマ王国が大軍をもって攻めてきて・・・・ しかし地獄に落とされていたシャラがそのような事を許す訳はなく、「おのれ、コニー!ヘボ国王!もう許さん!」怒り狂ったシャラは・・・ 怒涛の逆襲が始まります!史上最強の「ざまー」が展開。 そして、第二章 幸せに暮らしていたシャラとクローディアを新たな敵が襲います。「娘の幸せを邪魔するやつは許さん❢」 シャラの怒りが爆発して国が次々と制圧されます。 下記の話の1000年前のシャラザール帝国建国記 皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません! https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952 小説家になろう カクヨムでも記載中です

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...