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結社編 四章:皇国の後継者
謀略の犠牲者
しおりを挟むルクソード皇国が建国される以前。
天変地異を生き延びた人々は初代『赤』の七大聖人ルクソードに率いられ、この大陸に訪れる。
そこでルクソードは、この大陸に住んでいる古い部族と知り合った。
遊牧民として大陸を駆け回るその部族は、移民して来たルクソードと人々に対して厚意的に接する。
そして交流を重ね、その大陸でルクソード皇国の起点となる町を築く事に力を貸した。
快く迎えてくれた部族に対してルクソードは感謝を伝えると、親しくなった部族長は自分の娘をルクソードに勧める。
そしてルクソードはその娘を妻の一人として迎え、その部族に子供を残した。
ルクソードはその生涯で、二人の妻を迎えている。
一人は移民の中に、そして一人は現地の部族にそれぞれ子供を儲け、自分の血を継ぐ者を残していた。
そして片方の子孫はルクソード皇国を建国し、ルクソード皇族を名乗る。
そしてもう一つの子孫は、大陸の遊牧民として南の草原地帯で暮らし続けた。
互いにルクソードの血が濃い子供には赤い髪が宿り、強い肉体に恵まれる事となる。
赤い髪を継ぐルクソードの子孫。
それは深い赤髪を宿す二人の姉妹にも共通している事に、ケイルは気付いた。
「……おい、まさか……」
そうして読み進めて行く事で、ケイルの気付きは確信に変わる。
ケイルと姉レミディアが生まれた部族こそ、ルクソードの血を継ぐ子孫達。
ルクソード皇族とは別の血脈である事を、この時にケイルは始めて知り得る事となった。
「そういえばアリアの奴、あの時に……」
皇都に訪れたばかりの頃、アリアが自分の故郷がこの大陸である事を知ると驚きを見せ、唐突に髪の話を訊ねて来た事を思い出す。
アリアはその時、ケイルがルクソードの血を引く部族出身である事に気付いていた。
謂わばアリアとケイルは、同じ七大聖人を祖とする遠縁の親戚関係になる。
アリアが驚きを見せた様子に納得したケイルは、更に書かれた内容を読み進めた。
そしてルクソード皇族とその部族に纏わる密約が述べられている箇所に目を通し、ケイルは口に出しながら確認する。
「……ルクソード皇国建国時、皇族とその部族は幾つかの盟約を結んだ。その中で最も重要だったのは、ルクソード皇族の皇位継承権をその部族から生まれる血族に与えないこと。その盟約が守られる限り、ルクソード皇国はその部族に対して法の縛りを設けず、大陸での自由を保証していた……」
初めて自身が生まれた部族とルクソード皇族が結んでいた盟約を知り、ケイルは表情を強張らせる。
更に読み進める中で、ケイルは捜し求めていた答えを得た。
「――……!!」
ケイルが読んでいる部分には、今から二十四年前に起きた出来事が書かれている。
その時のルクソード皇国内は、先皇エラクの義妹ナルヴァニアが画策した後継者争いが勃発しようとしていた。
その争いで皇国貴族達も各後継者派閥に分裂し、表立った後継者争いと同時に各皇国貴族勢力が潰し合いを裏側で行う真っ只中でもある。
そしてアリアの父クラウスを擁するハルバニカ公爵家と対立する大貴族が、一人の皇族を擁立し後継者争いに参加した。
その大貴族が治めてい領地こそ、ケイルが生まれた部族が暮らしていた大陸南側にあたる。
南方を治める大貴族はハルバニカ公爵家を討つという共通の目的でナルヴァニアと手を結び、後継者争いに挑んだ。
そしてナルヴァニアは南方領地に対する支援物資と傭兵の派遣を行う。
その中には【結社】と思われる構成員達も送り込まれていた可能性があると記されていた。
何故ここで【結社】の名が挙がったのか、ケイルは不思議に思いながら読み進める。
そしてその名が挙がった理由こそ、ケイルの部族に関わる事だとケイルは思い知らされた。
「――……南領地にルクソードの血を継ぐ部族が暮らしている秘匿情報を、ナルヴァニアは得ていた。仮に皇族全てを内戦で殺し尽くせたとしても、この大陸にはルクソードの血を継ぐ部族が残る。それを知るハルバニカ公爵家が候補者全てが亡き後に、その部族から血を継ぐ後継者を引き抜く事があれば……!?」
そこまで読んだ事で、ケイルは思わず立ち上がり表情を強張らせる。
皇族の血を絶やし皇王になる事を望んでいたナルヴァニアは、ルクソードの血が残らない為に徹底的に潰した。
部族が暮らす南領地の大貴族に手を貸し、候補者の一人を擁立させてハルバニカ公爵家と対立させる。
更に『青』のガンダルフを通じて【結社】の魔法師達を送り込み、その部族が住む土地に自然災害と思わせる大魔法での被害を与えた。
何も知らないまま追い詰められた部族は、その地を統べる領主がいる場所まで赴き、盟約に従いルクソード皇族に援助を乞おうとするだろう。
そこを一網打尽にし、ルクソードの血を引く部族全員を抹殺するという計画をナルヴァニアは実行させた。
「……アタシの一族は……父さんや母さんは……。この国の内乱に巻き込まれて、殺されたってのかッ!?」
ケイルは読み終えた紙を握り締め、床へ投げつける。
怒りを見せるケイルは壁を殴り、息を荒げながら拳を強く握り締めて、歯軋りを鳴らした。
それでもまだ見ていない数枚の紙を拾うケイルは、残りの内容を確認する。
その部族を殺し捕らえる事に成功すると、南領地の貴族は捕らえた生き残りを犯罪奴隷として【結社】に売り渡した。
その後、ホルツヴァーグ魔導国へと部族の生き残りは連れ去られ、聖人の血を引く者達としての生体実験が行う。
研究成果はナルヴァニアを通じて、元生物学研究機関にも届けられている事が情報として書かれていた。
「……ッ」
ケイルはそれが書かれた紙を握り潰して捨てると、次の紙を広げる。
そこに書かれていたのは、部族を捕らえ奴隷に墜とした大貴族の末路が書かれていた。
その大貴族は最後まで後継者争いを生き残り、ハルバニカ公爵家とそれを擁するクラウスの手で南領地ごと陥落する。
そして擁立していた後継者と共に死に、貴族家は取り潰しとなり、南領地はハルバニカ公爵家の傘下貴族が統べる事になった。
ハルバニカ公爵は占領から数ヶ月後に盟約の部族が滅ぼされた事を知り、生き残りが居るのかさえ分からないまま二十年以上の時が流れてしまう。
こうして多くの情報が今になって明かされた理由は、ナルヴァニアを幇助していた者達から供述とハルバニカ公爵が知り得ていた情報を纏められ、崩壊した第四兵士師団の研究施設内部の残骸から情報記録が出て来たからでもある。
そして書き記した最後の紙をケイルは握り潰し、影を落とした表情に鋭く光る眼光を揺らめかせ、怒りが篭る声を漏らした。
「……アリアの言う通りだった。全員、死んでたんだな……。アタシや姉貴以外は……」
ケイルは再び壁を殴り、その部分が割れ砕ける。
一族の死はルクソード皇国の謀略に巻き込まれた事が原因であり、また生き残りもガンダルフの生物実験に利用され処理されていた事を知ったケイルは、怒りが宿る拳を何度も壁に叩きつけた。
そうしている間に、皇都には夜が訪れる。
裏宿から出たケイルは持っていた調書を燃やし捨てると、影が落ちる表情でとある場所へと向かった。
ケイルが訪れたのは、貴族街のハルバニカ公爵邸。
不自然にも門番や警備となる従者達が見えない暗い公爵邸へ侵入し、とある部屋に辿り着く。
その部屋から人の気配を感じるケイルは扉を開けると、部屋の中には一つの光が灯っていた。
「――……来たかね、ケイル殿。……いや、リディア殿と言うべきだろうか」
「……」
部屋の中には、椅子に腰掛け杖を持つハルバニカ公爵が座っていた。
老人の迎えを受けるケイルは沈黙したまま鋭く睨む。
そして一族の死に深く関わる老人を前に、腰に携える小剣を抜き放った。
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