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結社編 三章:神の兵士

裏切りの再会

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 魔人と神兵の戦いが繰り広げられる中、皇都の避難状況はアリアの導きによって順調に進む。
 消火された皇都内の建物が幾つが崩れる危険性を有し、崩壊の規模が酷い西地区は完全に放棄され、人々は崩壊の少ない南・北・東地区に移動して軽傷者の治療や避難を行っていた。
 
 皇都に住んでいるのは約十数万人。
 第四兵士師団の研究施設所へ乗り込んだ兵団や騎士団を除き、予備兵力を差し引いても一般人の数は十万人規模となる。
 それでも兵士達は襲撃と崩壊の混乱から立ち直り、貴族街に住んでいる幾つかの皇国貴族達も自身の私兵と貯蔵物を使い避難民の誘導と助力を行っていた。

 救済したアリアの手から皇都の避難と救助の指揮が離れ始めると、役目を終えたアリアは内壁の上で降り立ち、膝を着いて息を切らしていた。

「――……ハァ……ハァ……ッ」

 息を乱すアリアは、鼻から血を流して大量の汗を掻き始める。
 今まで数多の古代魔法を使用し、皇都の状況を救済する為に秘術級に値する魔法を幾つも使用した為に、ゴズヴァール戦の時と同様に肉体的限界が訪れていた。

「……行かなきゃ……ッ」

 それでもアリアは内壁の内堀を歩き、エリク達が戦う西方の外壁まで移動する。
 エリクの願いを果たし、次はランヴァルディアを止める為に肩を壁に預けながら休み休みに歩き続けた。
 そして内壁から西地区の外壁の上に辿り着いた時、アリアが目にした光景は予想の範疇を超えていた。

「……何よ、あれ……」

 夜空の月と星々に照らされた外を見るアリアの瞳には、皇都の外壁の高さに匹敵する巨大な土塊人形ゴーレムが見える。
 それが凄まじい速さで動き、巨大な拳や足で何かを狙っていた。
 そして狙われているのは、赤い魔力を迸らせて戦う赤鬼と、青い魔力を迸らせて戦う馬に跨る騎士鎧を着込んだ人物。
 それを遠目で確認したアリアは、幾らかの状況を察した。

「……あのデカブツは、ランヴァルディアね……。赤鬼はエリクで、また暴走してる? 向こうの青いのは、マギルス……。二人共、魔人化して戦ってるのね……」

 状況を察するアリアは、酷い頭痛に襲われてその場に座り込む。
 新たに鼻血が出てそれを腕で拭うと、視界が霞み始める自分の状態を察して険しい表情で呟いた。

「……ッ。……もう、翼は出せない。体の回復も、しばらく休まないとダメ……。魔法も、あと一・二回が限度かしら……」

 自分の状態から限度を把握し、アリアは身体を壁に預けて立たせる。
 再び三名が戦う光景を霞んだ視界で捉え、戦況を把握した。

 ランヴァルディアが生み出した土塊人形ゴーレムは物理法則を無視した速度で動き、拳や足の踏み付けを主軸に戦う。
 更に各箇所からオーラと魔力を混ぜ合わせた光球や収束砲を放ち、周りを跳び回るエリクとマギルスを襲っていた。
 対するマギルスは襲って来る手足を迎撃し破壊に成功しながらも、マギルスに切られた部分は切り崩された直後に別の土塊が地面から吸収され付着していく。
 エリクは巨大な拳と衝突して破壊し、踏み鳴らす巨大な足に耐えながら押し返す様子も見せていた。

 二人は拮抗しながらも、土塊人形ゴーレムに対して致命的な損傷を与えられない。
 ランヴァルディア同様に無限の回復能力を有し、破壊される人形の部位は周辺に存在する自然物を取り込む事で補う事が出来ていた。

 土塊人形ゴーレム心臓部コアを目指そうとすれば、よじ登り踏み付けて駆け上がろうとする二人を土塊の肉体が飲み込み神経となる樹木が絡まるように襲い掛かる。
 そのせいで踏み込んで心臓部コアの破壊を行えない二人は、何度も落下し攻撃を耐えながら迎撃するしかない戦況だった。

「……土塊人形アレを、一瞬で破壊できる威力が無いと……」

 マギルスとエリクが魔人として卓越した能力を持っていたとしても、全長五十メートルの巨大な土塊人形ゴーレムを全て破壊できるだけの威力を持つ攻撃は確認出来ていない。
 ランヴァルディアが攻撃として使用しているオーラの光球並の威力で破壊しなければ、瞬く間に破壊された部分は補われてしまう。

 あの巨体を一瞬で破壊できる魔導兵器を幾つか考えながらも、今すぐ作り出せる物は無いとアリアが断念した時。
 アリアは外壁に敷き詰められた石壁を見て、思い出すように呟いた。

「――……そうだわ。確か、皇都を覆っている結界は幾つかの魔石で維持されていたはず。それを数十年以上も継続できる規模の魔石だったら……」

 アリアはふらついた足で体を運ばせながら、皇都西側の大門がある外壁へと向かった。
 皇都を覆う壁門は攻防戦に備えて兵士達が詰められる空間が存在し、その内部は各兵士が収容される軍施設でもある。
 そして各区画には皇都を守る為の結界を維持する魔法術式が描かれた場所が存在し、そこに魔石を安置して大門以外の部分を結界で覆い守っていた。

 それを思い出したアリアは、魔石が安置されている壁内へ上から入り込む。
 そして幾つの階段を降り、幾つかの部屋を覗き込みながら厳重に閉ざされた鉄扉を見つけた。

 それを開ける為になけなしの体力と魔法を使い、鉄扉を抉じ開けようとした瞬間。
 背後で金属音が鳴り、アリアが振り向より前に何者かが声を向けた。

「――……動くな」

「!」

「動けば、斬る」

 背後から聞こえるのは、アリアが久し振りに聞く女性の声。
 一呼吸だけ吐き出したアリアは、その人物の名を呼んだ。

「……ふぅ。久し振りね、ケイル」

「……」

 アリアの背後に現れたのは、黒模様が描かれた赤い仮面を被り、黒い外套を羽織る人物。
 一ヶ月前にアリアを裏切りバンデラスに引き渡した後、マギルスと行動を共にし研究施設で侵入していたケイルが、アリアの前に姿を現した。
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