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結社編 三章:神の兵士
皇都襲撃
しおりを挟む夜の皇都から見える星空に、一つの大きな白い光が出現する。
不自然なほど大きな見える星の光は夜の皇都を歩く者達に気付かせ、気付いた者達が他の者達にも囁き教えた。
そして家の中でその光を覗き込んでいるのは、グラドの家族である息子ヒューイと娘ヴィーダだった。
「お姉ちゃん、大きなお星様だよ!」
「本当? 流れ星?」
「ううん、止まってるよ」
「本当だ、なんだろうね?」
二人は自室の窓から夜空を見て、大きく輝く星を見る。
そこにグラドの妻カーラが部屋に入り、子供達を怒鳴った。
「こら! また夜遅くまで起きて――……」
「お母さん、変な星が見えるよ」
「そんなのいいから、さっさと寝なさい!」
「でも、大きなお星様が止まってるの。お母さんも見て見て!」
「……まったく。じゃあアタシが見たらさっさと寝なさ――……!?」
カーラは子供達に促され、窓から見える夜空を見る。
そして子供達の言う通り、皇都の上空で不自然な光が留まり、巨大な星のように光り輝いている姿が見えた。
「……なんだい、あれは?」
「おっきなお星様だよ!」
「星……? ……おかしいね。あの光、中に人が……」
カーラは光の中心に人の姿を確認する。
しかし空を人が飛べるわけがないという先入観が邪魔をし、自身で確認した光景を錯覚だと思った。
その浮かぶ光の中に居る人影が手を掲げる動作を浮かべ、別の光球が生み出される。
新たに生まれた光球が大きく膨れ上がり、遠い距離ながらも巨大な光球へ変化した事を皇都の夜空を見ている人々に気付かせた。
そして、光球が膨れ上がるのを止めた数秒後。
その光球が皇都へ向けて降り注がれる瞬間を目にしたカーラは、初めて異常な事態が起きている事を察した。
振り向いたカーラは焦りを見せながら、子供達の手を引いて子供部屋から出ようとする。
「外へ、いや地下室へ逃げるわよ!!」
「お母さん?」
「どうしたの?」
「いいから急いで!!」
子供達の手を引き、カーラは階段を降りて魔石で光るカンテラを持ち、地下室の入り口がある部屋に入り地下室に続く床扉を開ける。
そして子供達を先に降ろし終えてカーラ自身も降りようとした時、凄まじい振動が家を襲った。
「きゃあ!?」
「うわあぁぁ!!」
凄まじい振動が家全体を揺らし、地下へ降ろされていた子供達は揺れに襲われて転倒する。
その振動は十数秒後には収まり、子供達は起き上がり出入り口である床扉を見た。
「……いたぁい。……お母さん?」
「……お母さん、どこ……?」
子供達は母親を地下室で探す。
光るカンテラを手に持った娘ヴィータは母親を探すが、地下室の中にはいない事を確認する。
そこで二人は出入り口の床扉は見て扉が閉ざされいる事を確認すると、それを開けようと押した。
しかし床扉は開けられず、二人は母親を呼ぶ。
「お母さん? お母さん!」
「そっちにいるの? 何かあったの? お母さん……」
子供達は母親であるカーラを何度も呼ぶが、返事はない。
床扉を押しても、何か重い物が上に置いてあるせいで子供達の力だけでは開けられない。
「お母さん、お母さん?」
「お母さん、いるんでしょ? 開けてよ……」
「ねぇ、お母さん?」
「お母さん……?」
子供達は何度も呼ぶが、カーラは何も反応を返してくれない。
子供ながらにようやく事態を察し始めた二人は顔を見合わせ、必死に床扉を開けようと協力して押した。
それでようやく床扉が僅かに開き、その隙間から子供達は外の様子を窺う。
子供達が目にしたのは、家の壁や家具が崩れてしまっている光景。
家全体が先程の振動で崩壊し、室内を酷い惨状へと陥らせていた。
そして子供達は、重量のある棚に押し潰されて倒れる母親の姿も見てしまう。
「お母さん!?」
「お母さん!!」
「……」
子供達が何度も呼ぶが、棚や壁の一部が体に圧し掛かり頭から血を流すカーラは返答しない。
何度も呼ぶ子供達は母親を呼び、そして誰かに助けを求め始めた。
「お母さん! お母さん! ……誰か、誰かお母さんを助けて!!」
「お願い! お母さん死んじゃう! 誰かぁ!!」
二人は泣きながら助けを求める。
しかしこうした惨状にも関わらず、外からは騒ぐ人々の声さえ聞こえない。
皇都は突如として現れた光で、凄惨な状態へと陥っていた。
そしてその惨状を生み出したのは、空から皇都を見下ろすランヴァルディア。
自身が生み出したオーラの弾を皇都に向けて放ち、その攻撃は皇都を覆う結界によって阻まれながらも結界を消失させる。
更にその衝撃と振動が皇都全体を揺らし、皇都内の建物に甚大な損害を与えていた。
そんな皇都の光景をランヴァルディアは冷たく見つめ、皇城が存在する中心区へと目を向ける。
「……さて。あの女皇に復讐するとしよう。ネリスを殺した償いをしてもらわないと」
ランヴァルディアはそう呟き、皇城のある中心区へ飛んで行く。
白く堅牢な皇城は先程の攻撃でも外観は崩れておらず、ランヴァルディアは皇城の大門の前に辿り着いた。
その訪問を察していたかのように、兵士や騎士、そして魔法師の集団が待ち構えていた。
そして騎士の格好をした一人の男が、ランヴァルディアに対して勧告する。
「ランヴァルディア=ルクソード! これ以上の凶行は止めろ!!」
「……凶行か。どっちが凶行なんだか」
「!?」
「無知とは人間にとって最大の罪と言われているが、君達はあの女皇こそが狂乱していることを知らないらしい。それが君達の行動に正当性を無くしていると、自分でも気付かずに……」
「何を言っている……!? とにかく、大人しく投降しろ! お前もルクソード皇族の端くれならば――……」
「――……ルクソードの血も、それを無知故に庇う貴様等も、私の敵だ」
ランヴァルディアは癪に触れる言葉を聞いた瞬間、自身が纏うオーラを高めて鋭く睨みながら歩み始める。
そして普通の人間である者達はランヴァルディアの敵意と殺気に満ちたオーラに触れ、その場で萎縮し腰を引かせた。
中にはオーラに触れただけでヘタリと座り、失禁さえする者も出ている。
抗おうとする兵士や騎士は、ランヴァルディアに対して武器を向けて襲い掛かった。
それにランヴァルディアは腕を動かす事も無く、自身の纏うオーラを一瞬で収縮させ爆散させたオーラを当てて跳ね除ける。
オーラを浴びた者達はどれだけ重装備でも吹き飛び、無惨に転がり壁に激突するなどの光景となった。
それに対して一瞥すらせず、ランヴァルディアは皇城に侵入する。
そして襲い掛かる者達を次々とオーラのみで吹き飛ばし、皇城の内部を登り続けた。
そして何かを感じ取ったランヴァルディアは、庭園のある中庭を見て口元を吊り上げる。
そちらの方角から複数の気配が動き、まるで隠れるように脱出する動きをランヴァルディアは察した。
「……皇国貴族は常に人心と共に前へ出て戦う。そうでなければ皇国貴族とは成り得ない、か。……この教え通り、本当に貴方は貴族としても失格らしい」
ランヴァルディアは皇城の壁をオーラで破壊し、中庭の方へ飛び着く。
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今回の事件に起因する二人が、この場で対峙する事となった。
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