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結社編 二章:神の研究
墜ちる天使
しおりを挟む混乱が終息した後、『赤薔薇の騎士』達が溢れ出て来る魔物や魔獣に対処し、『赤』のシルエスカが直々に魔獣災害に対応する。
中には上級魔獣やそれ等が混じる合成魔獣も存在していたにも関わらず、赤い騎士達は個々の技量と連携で対応して魔獣達を退け、シルエスカは手に持つ槍の刃で体の部位と首を切り取り絶命させていく。
そして魔獣達が出て来る各所を押さえ、外に出て来る魔物と魔獣の討伐を行い続けた。
もう一つの『皇国騎士団』は基地の外施設を掌握し、大門を開けて非戦闘員を避難させる。
街の中に取り残された者達の避難誘導や救助を行い、山の麓に作った仮拠点にて全員を収容し、怪我人などの治療も行った。
しかし第四兵士師団の兵士達は、事情を知る者や知らぬ者も含めて拘束され、外に逃げ出した士官達も取り押さえに成功している。
そしてその中には、研究施設内部から脱出に成功したグラドを含めた訓練兵達と生存者達もいた。
「お、俺達は訓練兵で、違うんです!」
「ザルツヘルムの野郎に、キメラの実験体になれって言われて……!!」
「お願いだ! グラドの治療を!! 体の骨がほとんど折れてて、本当に重傷なんだよ!!」
「た、助けてくれた子がいたんだ! その子が、連れ去られた女の子を連れ戻すって、まだ中に……!!」
「お願いだ、信じてくれよ!!」
訓練兵達は脱出した後、精神的にも肉体的にも疲弊の頂点と達したところで皇国騎士団に拘束され、自分達が被害者である事を訴えた。
自分達を陥れたのが第四兵士師団長のザルツヘルムとその取り巻き士官達であること。
犯罪者を合成魔人へと変貌させ、兵士化するという実験に利用されたこと。
そんな自分達の窮地を助けてくれたのが、マギルスという魔人の少年であること。
その少年はまだ基地施設内の中で、誘拐された少女を見つける為に奔走していること。
その情報の中には首謀者たるザルツヘルムの死も報告され、皇国騎士団に拘束された訓練兵達はグラドの治療を懇願する。
そうした中で、拘束された訓練兵達の前に皇国騎士団を指揮する老執事が姿を見せた。
「――……君達が、今回の騒動に巻き込まれたという訓練兵かね?」
「そ、そうです!」
「俺達、ザルツヘルムの野郎に嵌められて、あの中から脱出してきたんだ!」
「信じてくれ! 頼むよ!」
「ほとんどが怪我人なんだ! グラドも死にそうで、頼むから治療してやってくれよ!!」
老執事が質問すると、訓練兵達は必死に自分達の無実を訴える。
それを聞いた老執事は少し考え、後ろに控える騎士の部下に命じた。
「……グラドという名には聞き覚えがある。……なるほど、確かにこの者達は先週に皇都を立ち、行軍訓練に参加していた訓練兵で間違いない。……拘束を解き、負傷者の治療をしなさい。責任は私が取る」
「ハッ」
老執事の命令で騎士達は治療が必要な者達を選び、担架を持って運んでいく。
拘束が解かれた訓練兵達は安堵する中で、老執事は訓練兵達に尋ねた。
「君達。訓練兵にはエリオという男もいたはずだが、彼はどうしたかね?」
「……そ、そうだ。エリオの奴、どうしたんだ? すっかり忘れてた……」
「いないのかね?」
「エリオは今朝になってたら姿を消してて。俺達が探したけど見つからなくて……」
「……ふむ。ならば彼は、まだあの中にいるということか」
老執事は基地のある山を見て、今回の施設内での騒動に何かしらエリクが関与していると察する。
「少々、予定とは違うが。こうして動けたのも彼のおかげだろうか」
予定通りにエリクが研究施設に侵入した事で今回の騒動が引き起こされたのだとしたら、こうして基地周辺で潜伏させていた皇国騎士団と、合流したシルエスカ達が踏み込む道理を得る事は出来なかっただろう。
老執事はそれを評価し、自分達の目的が達せられた事を確信した。
しかし、エリクが外に出ていないのだとすれば。
それは彼にとって大目標であるアリアの救出が出来ていないということ。
それも確信する老執事は、山を見ながら呟いた。
「……アルトリア。お前の選んだ『臣』がどれほどのものか。見せてもらうよ」
老執事がそう呟き、再び皇国騎士団の指揮へ戻る。
こうして第四兵士師団の基地は魔物や魔獣を討伐し沈静化を見せ、無事な者達の避難も完了するが、山の中で起こる地響きや地鳴りは止まない。
避難開始が行われて十数分後。
何かが山の内部から横を突き抜けて出てきた。
それを遠目から見て確認した者達は、辛うじて見えるその姿に驚愕する。
片や、白銀の光を纏う白い肌の男。
片や、六枚の白い翼を背負い羽ばたく金髪の少女。
その二つが光球を纏い雲が陰る空でせめぎ合い、互いの持つ力で衝撃を起こして大地を陰らせる雲を晴らしていく。
それを大地で見上げる者達は、こう呟いた。
「……天使が、戦ってる……」
全員が異次元の戦い方を目にし、空想劇に出てきそうな存在が戦う姿を目にしていると内心で思い抱く。
そして『赤』のシルエスカも何かが起こっている事を察して外に出ると、その光景を見て怪訝な表情を見せた。
「……あれは、ランヴァルディアか……? ……しかし、もう一人のアレは……」
シルエスカは空高くで戦う二人を完全に見分ける。
そして片方がランヴァルディアと察しながらも、もう一人が誰かが分からず眉を顰めた。
「……七大聖人の誰かか? ……いや、しかし戦い方が稚拙に過ぎる。オーラを制御も出来ていない……。だがあの魔法、あの威力は……」
空で行われる戦いを見ながら、シルエスカはもう一人が聖人だと察する。
それでも幾分か不可解な点を残したシルエスカは、下で二人の戦いの行く末を確認していた。
そして数分後。
何度と重なる二つの光が衝突と衝撃を起こすと、眩い光が空を満たした。
そして一つの光が地に墜ちていく。
墜ちていくのは、六枚の翼が砕かれた天使だった。
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