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南国編 四章:マシラとの別れ
少年乱入
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アリアの後を追って来たのは、少年闘士の第三席マギルス。
それを見たアリアは顔を引き攣らせ、嫌な表情を見せた。
そしてマギルスは頭の無い馬から飛び降りると、
道の中央に大鎌を突き立てながら着地した。
「アリアお姉さん、酷いよ! 僕が謹慎してる間に、勝手に出て行っちゃうんだもん!」
「……」
アリアが隠れ潜む方角を見ながら文句を垂れるマギルスに、
周囲で隠れる視線がアリアに集まる。
溜息を吐き出したアリアが隠れるのを止め、
エリクと抱えられたケイルと共に姿を現した。
「なんでアンタがここに来るのよ。マギルス」
「酷い! 僕との約束、忘れたの!?」
「……何の話?」
「王様の所に行く為にお姉さん達に協力したら、僕とアリアお姉さんで遊んでいいよって、四番目の人が言ったんだよ!」
「……ケイルさん?」
マギルスの言い分に心当たりの無いアリアは、
元第四席ケイティルこと、ケイルの方へ視線を流す。
ケイルはエリクに抱えられたまま溜息を吐き出し、
白状して話し始めた。
「協力する条件に、お前と遊びたいって向こうが言い出したんだよ。出来ないならゴズヴァールに告げ口するって言われちゃ、しょうがないだろ?」
「……」
「そもそも、協力者に選んで勧めたのはお前だからな。だから責任持って遊べよ。アリア」
マシラ王と会う為に王宮に侵入する際、
マギルスを協力者へと推したのはアリアだ。
そのアリアと遊ぶ事を条件に協力者となったマギルスは、
約束を破られたと思い、必死に追って来たらしい。
事情を把握したアリアは自身の選択肢を再び後悔し、
追い付いたマギルスに視線を戻した。
「……はいはい、分かったわよ。で、何して遊ぶのよ?」
「うーんとね。えっとーね……」
遊ぶ内容を考えるマギルスを他所に、
周囲で隠れていた【赤い稲妻】傭兵団の面々は、
おかしな雰囲気に首を傾げていると、
ジョニーが代表して姿を見せてアリアに聞いた。
「お、おい。そいつ、第三席のマギルスだよな? 追っ手じゃないのか?」
「追っ手は追っ手だけど、さっきの奴等とは趣旨が違うわ。私に付き纏ってるのよ」
「そ、そうか……。第五席テクラノスといい、第三席マギルスといい、アリア嬢は凄いな……」
そうジョニーが尋ね聞く中で、
第五席テクラノスの名が出された事に反応したマギルスは、
アリアに尋ね聞いた。
「テクラノスお爺さんがどうしたの?」
「捕まえたのよ、さっき」
「へー、お姉さんが捕まえたんだ。やっぱり凄いね」
「他の元闘士達と一緒に襲って来たのよ。何人か逃げ出したけど。アンタの仲間だったんでしょ?」
「ああ。さっき会ったから、僕が殺したよ」
「!?」
それを聞いた全員が、驚きのあまり硬直した。
それに気付かずマギルスは淡々と話し始めた。
「ここに来る前に、何人か闘士だったおじさん達が馬に乗ってこっちに来てたんだ。ゴズヴァールおじさんに、そいつ等が居たら殺して良いよって言われてたんだよね。だから首をサクっと飛ばして来たよ」
「……!?」
「どうしたの? みんな、驚いた顔しちゃってさ」
全員が驚き絶句する中で、
不思議そうにマギルスがそう尋ねる。
目の前の少年が元闘士達を意図も容易く殺したという話に、
その場の全員が戦慄した面持ちを抱く。
そんなマギルスが改めてジョニーに顔を向け、話し掛けた。
「おじさん。テクラノスお爺さん捕まえたんだよね。どうするの?」
「あ、えっと。このまま首都まで戻して、政府に引き渡そうかと……」
「邪魔なら、僕が殺しちゃう?」
「い、いや。捕まえた連中は俺達を襲った重要な証人だから、出来れば殺すのは止めてもらえると……」
「そっか、じゃあいいや。それよりアリアお姉さん。僕と遊ぶ話なんだけどね?」
捕まえたテクラノスと闘士達から話題が逸れると、
再びアリアに顔を向けてマギルスは話し始めた。
「僕も、お姉さん達に付いて行くね」
「……え?」
「アリアお姉さん、この国からから居なくなるんでしょ? それだとつまらないし、僕も一緒に行くよ」
「……いや、アンタ。ゴズヴァールとかはどうするのよ?」
「ゴズヴァールおじさんは大好きだけど、そのおじさんが言ったんだもん。アリアお姉さんの所に行っていいぞって。だから付いて行くね。そうすれば僕とずっと遊べるでしょ?」
「……」
アリアはマギルスの提案を聞いた瞬間、
言葉は無くとも嫌だという表情を見せた。
マギルスはそれを知ってか知らずか無邪気な笑みを見せながら、
アリアの後ろで見ているエリクとケイルも見た。
特にエリクに熱い視線を向けるマギルスは、
高鳴りを抑えるような笑みで見ると、エリクに話し掛けた。
「おじさん、この前は凄かったよね。今度は僕とも遊んでよ!」
「……?」
「あれ。僕の事、覚えてない?」
「……ああ。何処かで会ったか?」
「酷いなぁ、でもいいかな。おじさんの方がエアハルトお兄さんなんかより、ずっと強そうだもん」
「……」
マギルスを覚えていないエリクは、
そのまま怪訝な表情を見せながらも警戒する。
そして抱えられているケイルを見ると、
マギルスは挨拶するように片手を振った。
「そっちは、四番目の人だよね。顔は見たから覚えてるよ!」
「あ、ああ。どうも」
「四番目のお姉さんも強いよね。前にエアハルトお兄さんと戦ってた時も、ゴズヴァールおじさんが止めなかったらエアハルトお兄さんの首を飛ばせてたでしょ?」
「……さぁ、どうだろうな」
「四番目のお姉さんとも、いつか遊んでみたいなぁ。これからよろしくね!」
「ちょっと待ちなさい! 誰もアンタを連れてくと言ってないわよ!」
エリクとケイルにも挨拶を済ませ、
然も当然のように仲間入りを果たすマギルスを、
アリアが横に割って入って止めた。
止めるアリアにマギルスは頬を膨らませ、
不平を漏らしながら聞いた。
「えー。いいじゃん。僕も連れてってよ!」
「嫌よ! なんで面倒そうなアンタを連れて旅しなきゃならないのよ!」
「えー、酷い!」
「第一、こっちは馬を失ってこれから徒歩移動してこの国から脱出しなきゃならないのよ! 食料も水も限られてるのに、人数増やせる余裕なんて無いわよ!」
「馬が欲しいなら、あげようか?」
「……は?」
そうマギルスが言いながら指し示す場所を見ると、
そこに青い毛並の首無し馬がいた。
今更になってそれを再確認する面々の中で、
アリアは目頭を抑えながら強張った声でマギルスに聞いた。
「……今更だけど。アレ、なに?」
「僕の馬だよ?」
「……なんで首が無いのよ?」
「知らないよ。僕が生まれた時からああだもん」
「……は?」
「僕が生まれた時から、ずっと一緒だったんだもん。でも僕しか見えなくて、誰も見えてなかったんだ。三年前にゴズヴァールおじさんに会ってから、魔力制御のやり方とかを聞いて、他の人にも姿を見せれるようになったりしたんだよ?」
「……まさか。あの馬って『精神体』?」
「アストラル? なにそれ?」
「魂と精神だけで現世で生きる生命体。魔力で形成した身体で生きる特殊な生物よ。普通の人間では見る事さえ出来ない、そういう生物。物語上の天使や悪魔、妖精もそうだと伝えられてる。幽霊もそういう生き物だと伝えられてるわ」
「そうなんだ。じゃあ、そうじゃないかな?」
「……自分でも知らないの?」
「だって、生まれた時から一緒なんだもん。そんなの気にした事も無かったよ」
頭を抱えるアリアはマギルスの話を聞き、
もう一度だけ首無し馬の方を見た。
幾らか思考を巡らせたアリアは、
それを否定するように首を横に振った。
「……やっぱり駄目。首の無い馬じゃ、明らかに悪目立ちするじゃないのよ。やっぱり連れていけないわ」
「じゃあ、首があったら良いの?」
「……は?」
「あそこで倒れてるお馬さん。僕達が貰っていい?」
「……どういうこと?」
笑いながら首無し馬に歩み寄るマギルスは、
倒れたアリア達の馬の死骸を見ながら首無し馬と話し、
馬は首を僅かに縦に振って答えると、
死骸となった馬に近付き、首無し馬の身体が青い魔力で発光した。
「!?」
周囲の者達はそれに驚き、
それぞれが身構えた動きをしながらも、
青い発光が収まると首無し馬の姿が消えた。
そして違う驚きが周囲を襲った。
首を斬られ死骸となったアリア達の馬が動き出し、
茶色の毛並が青い毛へ変色し、
魔力の揺らめきを宿しながら身体を起こし、
以前より逞しい身体付きとなって復活した。
その場の全員が驚きながら口を開けると、
マギルスが笑いながら話した。
「死んだ馬に乗り移れるんだよ、僕の馬。これで頭があるから、大丈夫でしょ?」
「……」
「ほら。首の傷も見えなくなってるし、問題は無いでしょ?」
「……」
「ねぇ、アリアお姉さん!」
問題部分が解消されてしまったアリアは、
苦悩の表情を浮かべて目頭を再び押さえ、
顔を手で覆いながら必死にマギルスを置いて行く口実を考えた。
しかし規格外の常識で付いて来ようとするマギルスに、
徒歩で振り切れる自身が無い事を察したアリアは、
顔を強張らせながらも、嫌々ながら首を縦に振った。
「……分かったわよ。連れてきゃいいんでしょ。連れていけば」
「やったー!」
「でも、私が言う事は絶対に聞いてもらうからね。好き勝手したら置いてくわよ?」
「分かった! でも僕と遊んでね?」
「分かったわよ。でも、マシラ共和国の勢力圏外に出てからね」
「やったー!」
喜ぶマギルスは大鎌を投げながら器用に掴み踊り、
頭を抱えたアリアがマギルスの同行を承諾した。
エリクとケイルはそれを見ながら、
新たな同行者となったマギルスを見て、
幾らかの不安を抱きながらも、
懸念していた馬の喪失を埋める為ならばと納得した。
その後。
【赤い稲妻】傭兵団と別れたアリア達は、
起こした荷馬車をマギルスの青馬に引かせて移動した。
傭兵団は元闘士達が乗って来たという馬を途中で発見し、
同時に首を切り落とされた元闘士達と、エアハルトの遺体も発見する。
元闘士達の馬を利用して首都まで戻り、ジョニー達は捕らえた者達を護送した。
一方その頃。
凄まじい速さで麓を通り越したアリア達は、
検問所を抜けてマシラ共和国の勢力圏内から脱出した。
当初予定していた三週間の道程は、僅か四日の道程に短縮された。
しかしマギルスの馬が尋常では無い速度で駆け抜け、
先に荷馬車の方が耐え切れず壊れてしまい、
アリア達は途中下車を余儀なくされながらも、
新たな追っ手に見舞われる事は無かった。
こうしてアリア達の新たな仲間に、
マシラ共和国の元闘士に所属していた第三席、
少年であり魔人であるマギルスが加わった。
それを見たアリアは顔を引き攣らせ、嫌な表情を見せた。
そしてマギルスは頭の無い馬から飛び降りると、
道の中央に大鎌を突き立てながら着地した。
「アリアお姉さん、酷いよ! 僕が謹慎してる間に、勝手に出て行っちゃうんだもん!」
「……」
アリアが隠れ潜む方角を見ながら文句を垂れるマギルスに、
周囲で隠れる視線がアリアに集まる。
溜息を吐き出したアリアが隠れるのを止め、
エリクと抱えられたケイルと共に姿を現した。
「なんでアンタがここに来るのよ。マギルス」
「酷い! 僕との約束、忘れたの!?」
「……何の話?」
「王様の所に行く為にお姉さん達に協力したら、僕とアリアお姉さんで遊んでいいよって、四番目の人が言ったんだよ!」
「……ケイルさん?」
マギルスの言い分に心当たりの無いアリアは、
元第四席ケイティルこと、ケイルの方へ視線を流す。
ケイルはエリクに抱えられたまま溜息を吐き出し、
白状して話し始めた。
「協力する条件に、お前と遊びたいって向こうが言い出したんだよ。出来ないならゴズヴァールに告げ口するって言われちゃ、しょうがないだろ?」
「……」
「そもそも、協力者に選んで勧めたのはお前だからな。だから責任持って遊べよ。アリア」
マシラ王と会う為に王宮に侵入する際、
マギルスを協力者へと推したのはアリアだ。
そのアリアと遊ぶ事を条件に協力者となったマギルスは、
約束を破られたと思い、必死に追って来たらしい。
事情を把握したアリアは自身の選択肢を再び後悔し、
追い付いたマギルスに視線を戻した。
「……はいはい、分かったわよ。で、何して遊ぶのよ?」
「うーんとね。えっとーね……」
遊ぶ内容を考えるマギルスを他所に、
周囲で隠れていた【赤い稲妻】傭兵団の面々は、
おかしな雰囲気に首を傾げていると、
ジョニーが代表して姿を見せてアリアに聞いた。
「お、おい。そいつ、第三席のマギルスだよな? 追っ手じゃないのか?」
「追っ手は追っ手だけど、さっきの奴等とは趣旨が違うわ。私に付き纏ってるのよ」
「そ、そうか……。第五席テクラノスといい、第三席マギルスといい、アリア嬢は凄いな……」
そうジョニーが尋ね聞く中で、
第五席テクラノスの名が出された事に反応したマギルスは、
アリアに尋ね聞いた。
「テクラノスお爺さんがどうしたの?」
「捕まえたのよ、さっき」
「へー、お姉さんが捕まえたんだ。やっぱり凄いね」
「他の元闘士達と一緒に襲って来たのよ。何人か逃げ出したけど。アンタの仲間だったんでしょ?」
「ああ。さっき会ったから、僕が殺したよ」
「!?」
それを聞いた全員が、驚きのあまり硬直した。
それに気付かずマギルスは淡々と話し始めた。
「ここに来る前に、何人か闘士だったおじさん達が馬に乗ってこっちに来てたんだ。ゴズヴァールおじさんに、そいつ等が居たら殺して良いよって言われてたんだよね。だから首をサクっと飛ばして来たよ」
「……!?」
「どうしたの? みんな、驚いた顔しちゃってさ」
全員が驚き絶句する中で、
不思議そうにマギルスがそう尋ねる。
目の前の少年が元闘士達を意図も容易く殺したという話に、
その場の全員が戦慄した面持ちを抱く。
そんなマギルスが改めてジョニーに顔を向け、話し掛けた。
「おじさん。テクラノスお爺さん捕まえたんだよね。どうするの?」
「あ、えっと。このまま首都まで戻して、政府に引き渡そうかと……」
「邪魔なら、僕が殺しちゃう?」
「い、いや。捕まえた連中は俺達を襲った重要な証人だから、出来れば殺すのは止めてもらえると……」
「そっか、じゃあいいや。それよりアリアお姉さん。僕と遊ぶ話なんだけどね?」
捕まえたテクラノスと闘士達から話題が逸れると、
再びアリアに顔を向けてマギルスは話し始めた。
「僕も、お姉さん達に付いて行くね」
「……え?」
「アリアお姉さん、この国からから居なくなるんでしょ? それだとつまらないし、僕も一緒に行くよ」
「……いや、アンタ。ゴズヴァールとかはどうするのよ?」
「ゴズヴァールおじさんは大好きだけど、そのおじさんが言ったんだもん。アリアお姉さんの所に行っていいぞって。だから付いて行くね。そうすれば僕とずっと遊べるでしょ?」
「……」
アリアはマギルスの提案を聞いた瞬間、
言葉は無くとも嫌だという表情を見せた。
マギルスはそれを知ってか知らずか無邪気な笑みを見せながら、
アリアの後ろで見ているエリクとケイルも見た。
特にエリクに熱い視線を向けるマギルスは、
高鳴りを抑えるような笑みで見ると、エリクに話し掛けた。
「おじさん、この前は凄かったよね。今度は僕とも遊んでよ!」
「……?」
「あれ。僕の事、覚えてない?」
「……ああ。何処かで会ったか?」
「酷いなぁ、でもいいかな。おじさんの方がエアハルトお兄さんなんかより、ずっと強そうだもん」
「……」
マギルスを覚えていないエリクは、
そのまま怪訝な表情を見せながらも警戒する。
そして抱えられているケイルを見ると、
マギルスは挨拶するように片手を振った。
「そっちは、四番目の人だよね。顔は見たから覚えてるよ!」
「あ、ああ。どうも」
「四番目のお姉さんも強いよね。前にエアハルトお兄さんと戦ってた時も、ゴズヴァールおじさんが止めなかったらエアハルトお兄さんの首を飛ばせてたでしょ?」
「……さぁ、どうだろうな」
「四番目のお姉さんとも、いつか遊んでみたいなぁ。これからよろしくね!」
「ちょっと待ちなさい! 誰もアンタを連れてくと言ってないわよ!」
エリクとケイルにも挨拶を済ませ、
然も当然のように仲間入りを果たすマギルスを、
アリアが横に割って入って止めた。
止めるアリアにマギルスは頬を膨らませ、
不平を漏らしながら聞いた。
「えー。いいじゃん。僕も連れてってよ!」
「嫌よ! なんで面倒そうなアンタを連れて旅しなきゃならないのよ!」
「えー、酷い!」
「第一、こっちは馬を失ってこれから徒歩移動してこの国から脱出しなきゃならないのよ! 食料も水も限られてるのに、人数増やせる余裕なんて無いわよ!」
「馬が欲しいなら、あげようか?」
「……は?」
そうマギルスが言いながら指し示す場所を見ると、
そこに青い毛並の首無し馬がいた。
今更になってそれを再確認する面々の中で、
アリアは目頭を抑えながら強張った声でマギルスに聞いた。
「……今更だけど。アレ、なに?」
「僕の馬だよ?」
「……なんで首が無いのよ?」
「知らないよ。僕が生まれた時からああだもん」
「……は?」
「僕が生まれた時から、ずっと一緒だったんだもん。でも僕しか見えなくて、誰も見えてなかったんだ。三年前にゴズヴァールおじさんに会ってから、魔力制御のやり方とかを聞いて、他の人にも姿を見せれるようになったりしたんだよ?」
「……まさか。あの馬って『精神体』?」
「アストラル? なにそれ?」
「魂と精神だけで現世で生きる生命体。魔力で形成した身体で生きる特殊な生物よ。普通の人間では見る事さえ出来ない、そういう生物。物語上の天使や悪魔、妖精もそうだと伝えられてる。幽霊もそういう生き物だと伝えられてるわ」
「そうなんだ。じゃあ、そうじゃないかな?」
「……自分でも知らないの?」
「だって、生まれた時から一緒なんだもん。そんなの気にした事も無かったよ」
頭を抱えるアリアはマギルスの話を聞き、
もう一度だけ首無し馬の方を見た。
幾らか思考を巡らせたアリアは、
それを否定するように首を横に振った。
「……やっぱり駄目。首の無い馬じゃ、明らかに悪目立ちするじゃないのよ。やっぱり連れていけないわ」
「じゃあ、首があったら良いの?」
「……は?」
「あそこで倒れてるお馬さん。僕達が貰っていい?」
「……どういうこと?」
笑いながら首無し馬に歩み寄るマギルスは、
倒れたアリア達の馬の死骸を見ながら首無し馬と話し、
馬は首を僅かに縦に振って答えると、
死骸となった馬に近付き、首無し馬の身体が青い魔力で発光した。
「!?」
周囲の者達はそれに驚き、
それぞれが身構えた動きをしながらも、
青い発光が収まると首無し馬の姿が消えた。
そして違う驚きが周囲を襲った。
首を斬られ死骸となったアリア達の馬が動き出し、
茶色の毛並が青い毛へ変色し、
魔力の揺らめきを宿しながら身体を起こし、
以前より逞しい身体付きとなって復活した。
その場の全員が驚きながら口を開けると、
マギルスが笑いながら話した。
「死んだ馬に乗り移れるんだよ、僕の馬。これで頭があるから、大丈夫でしょ?」
「……」
「ほら。首の傷も見えなくなってるし、問題は無いでしょ?」
「……」
「ねぇ、アリアお姉さん!」
問題部分が解消されてしまったアリアは、
苦悩の表情を浮かべて目頭を再び押さえ、
顔を手で覆いながら必死にマギルスを置いて行く口実を考えた。
しかし規格外の常識で付いて来ようとするマギルスに、
徒歩で振り切れる自身が無い事を察したアリアは、
顔を強張らせながらも、嫌々ながら首を縦に振った。
「……分かったわよ。連れてきゃいいんでしょ。連れていけば」
「やったー!」
「でも、私が言う事は絶対に聞いてもらうからね。好き勝手したら置いてくわよ?」
「分かった! でも僕と遊んでね?」
「分かったわよ。でも、マシラ共和国の勢力圏外に出てからね」
「やったー!」
喜ぶマギルスは大鎌を投げながら器用に掴み踊り、
頭を抱えたアリアがマギルスの同行を承諾した。
エリクとケイルはそれを見ながら、
新たな同行者となったマギルスを見て、
幾らかの不安を抱きながらも、
懸念していた馬の喪失を埋める為ならばと納得した。
その後。
【赤い稲妻】傭兵団と別れたアリア達は、
起こした荷馬車をマギルスの青馬に引かせて移動した。
傭兵団は元闘士達が乗って来たという馬を途中で発見し、
同時に首を切り落とされた元闘士達と、エアハルトの遺体も発見する。
元闘士達の馬を利用して首都まで戻り、ジョニー達は捕らえた者達を護送した。
一方その頃。
凄まじい速さで麓を通り越したアリア達は、
検問所を抜けてマシラ共和国の勢力圏内から脱出した。
当初予定していた三週間の道程は、僅か四日の道程に短縮された。
しかしマギルスの馬が尋常では無い速度で駆け抜け、
先に荷馬車の方が耐え切れず壊れてしまい、
アリア達は途中下車を余儀なくされながらも、
新たな追っ手に見舞われる事は無かった。
こうしてアリア達の新たな仲間に、
マシラ共和国の元闘士に所属していた第三席、
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