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南国編 四章:マシラとの別れ

訪問

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会話も少なく昼食を終えたアリアとエリクは、
いつものように皿を戻しに行くエリクと、
静かな部屋でいつものように毛布を被り、
ベットの隅でアリアは座っていた。

その時に、アリアは静か過ぎる周囲に気付いた。


「……外から、人の声がしない……?」


アリアは部屋の外で今まで聞こえていた音が、
静か過ぎるほど聞こえていない音に気付いた。
アリアは窓のカーテンを久し振りに開け、
外の様子を確認する。

そこから見た景色は街並みは映りながらも、
普段は賑わい通る道には人が通っておらず、
露店や出店等が開いている様子が無い。

昨日まで普通だった日常の生活音が消え、
人すら消失したような風景に、
アリアは周囲に起こっている異常を感じた。


「!」


エリクに伝えるべきかを一瞬迷ったアリアだったが、
階下で何かしらの物音が聞こえた。

恐らく下に降りたエリクも外の異変に気付き、
しかもアリアでは気付けない何かに気付いた上で、
行動に移した事を部屋に篭っていたアリアは察した。


「……」


アリアは異変を察知しつつも、
その場を動けなかった。

思考は働きながらも、
判断と決断が身体の動きを鈍らせ、
自分自身の行動に結び付かずにいる。

それでもこの異常事態に、
自分自身も対処しなければと、
毛布を剥がしてベットの上から動き、
荷物にある杖を持ったアリアは、扉と窓に意識を向けた。

それから数分後。
宿の階段を複数の人間が登る足音が聞こえた。

アリアの耳に聞こえるのは、最低でも三人の足音。
その足音にいつも訪れるエリクの足音は無く、
エリクより軽いだろう体重の足並みが聞こえた。

アリアは警戒し、扉の前に杖を向ける。

複数の足音は階段を登り終え、
廊下を少し歩き、立ち止まった。

足音が立ち止まったのは、アリアの部屋の前。

そして部屋に居るアリアは緊張を強め、
相手がいつ乗り込んできても対応できるように、
魔力を杖に集め、魔玉に刻んだ術式を展開させ、
魔法を行使する準備を行った。

迎撃の準備が整ったアリアだったが、
予想外に部屋の扉をノックする音が聞こえた。

警戒したまま息を潜めるアリアは、
何度かノックする音を聞くだけに留めていたが、
扉の前に居る人物の一人が、
中に居るアリアに聞こえる程の大きな溜息を吐き出し、
大きな声でアリアの名を呼んだ。


「アリア、起きてるんだろ!」

「……ケイル?」


ケイルの声を聞いて驚きながらも、
アリアは息を吐き出し安堵を漏らす。
そうした中でもケイルは扉の前で話し掛け、
アリアの反応を窺っていた。


「アリア、アタシの客を連れて来た。お前も会え」

「……客?」

「一応お前は、元貴族の御嬢様だからな。ふしだらな格好で客と一緒に部屋の中に入られるのは嫌だろ」

「……」

「少しは時間をやるから、身嗜みを整えろ。嫌なら、無理矢理部屋を抉じ開けて、部屋に入るからな」

「……」

「結界で扉を閉じようとすんなよ。結界破りはお前の十八番じゃねぇんだ。もしやったら、傭兵ギルドの魔法師共を雇って結界を抉じ開けて中に押し入ってやる」


アリアがやりそうな事をケイルは先読みし、
先読みして当てられたアリアは苦い表情を浮かべ、
部屋の扉の前に居るケイルに声を掛けた。


「……ケイル」

「やっぱり起きてたかよ。早く客に会う準備をしな」

「私、今は誰とも会いたくない」

「引き篭もりが我侭を言ってるんじゃねぇ。いいから会え」

「……なんで、会わなきゃいけないの?」

「ここの宿はな、アタシの名前と金で部屋を借りてんだ。借り主の言う事を無視して引き篭もってるようなら、さっさと部屋から出ていきな」

「……じゃあ、私が部屋の代金は払うわ」

「残念だったな。荷物にあった金貨とお前等の預けてた金は全部、傭兵ギルドが使っちまったよ」

「!?」

「当たり前だろ。お前等が破壊した王宮の修理額と、怪我させた兵士と闘士の治療費や慰謝料分の金額は、全部お前等の預金から差し引いて傭兵ギルドが国に違約金として支払ってるんだ。つまりお前等は今現在、無一文でタダ飯喰らいの、アタシのヒモになってんだよ」

「ぅ……」

「アタシの客に会え。それが嫌なら今すぐに部屋から出ろ。そしてアタシに今までの宿代と食事代を全部、耳を揃えて返してもらおうか」

「……ッ」

「それが出来ないってんなら、今すぐアタシの客に会え。さぁ、選べよ。ヒモ生活のアリア様よ」


今まで引き篭もっていた負い目と共に、
自身がケイルの金銭で生活していた事実から、
アリアはぐうの音の出ずに悔しそうな表情を浮かべ、
杖を下げて諦めたように気を落とし、ケイルに告げた。


「……少し待って」

「念押ししとくが、窓から逃げようとか思うなよ。その時はアタシが依頼して、お前を傭兵ギルドに指名手配させるからな。詳細部分には『借金ヒモ女』って書き込んでやるか覚悟しとけ」

「分かった。逃げないから、ちゃんと会うから。それやめて」

「そうだ、アタシから逃げられると思うなよ」

「……分かった」


徹底して逃がそうとしないケイルに、
初めて仲間にした事をアリアは後悔しつつ、
身嗜みを整える為に服を着替え、
カーテンを開けて窓の光を差し込ませた。

首都に向かう時に購入した灰色の服を着込み、
金色の髪を梳かし後ろに束ねたアリアは、
ある程度まで身綺麗に整え、部屋の扉に向けて言った。


「……入っていいわ」

「よし」


入室を許可したアリアの声を聞き、
ケイルは扉を開けて姿を見せた。

アリアが疑問より怪訝に思ったのは、
ケイルらしからぬ格好で小綺麗に整えられた服装姿。
その後ろに黄色い生地で仕上げられた服が見えた。

アリアは一瞬、闘士の誰かがいるのかと疑ったが、
それは予想は外れる形で正体が明かされた。


「――……お久し振り、と言うべきなのだろうね。アルトリア姫」

「……お姉ちゃん」

「マシラ王、ウルクルス……。それに、王子も……!?」


生地は黄色に染められながらも、
祭事で着る神官を連想させる装束を身に纏うマシラ王と、
その息子であるアレクサンデル王子が、
アリアの部屋にケイルに伴われて訪れた。

一方で、外には殺気立った情景が見える。

十数日前に王宮で激戦を行った、
傭兵戦士エリクと闘士長ゴズヴァールが、
互いに敵意を隠さずに顔を合わせ
凄まじい形相のまま無言で睨み合っていた。


「……」

「……」

「……ゴクッ……」


ゴズヴァールの背後には数人の闘士達もおり、
その全員が嫌な汗を掻き唾を飲み込みながら、
二人が放つ敵意に耐えていた。

遠巻きでは兵士達が誘導するように人々を遠ざける。
周辺に人々が居ない原因は、
闘士達と兵士達がマシラ王から人を遠ざける為に、
ゴズヴァールの指揮の下で行われていたものだった。

こうした形でマシラ王に願ったケイルの要望は、
叶えられる事となった。



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