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南国編 二章:マシラの闘士

狂鬼乱舞

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大鬼族オーガとして覚醒したエリクは、
牛鬼ゴズヴァールと人狼エアハルトと激戦を続けた。

エアハルトが手足を素早く薙ぎ、
魔力の刃である魔力斬撃を飛ばし、
赤肌に変貌したエリクの皮膚を切り裂いた。

しかし、数秒後には裂かれた傷口は塞がり、
猛然とエリクはエアハルトを豪腕で襲った。
それを素早く飛び退き回避したエアハルトは、
ゴズヴァールと並び、呟くように愚痴を零した。


「オーガとは、これほど回復能力が高いのか?」

「赤肌のオーガは通常のオーガとは違う変異種だ。頭から叩き潰すか、首を飛ばすか、心臓を潰さない限りは止まらない」

「それが鬼神の血ということか?」

「そうだ。エアハルト、奴の首を狙え。俺は奴の心臓を潰す」

「了解した」


ゴズヴァールの指示にエアハルトは従い、
共に飛び出すように動き、エリクに迫った。
エリクは対峙する相手に対して構えは向けず、
ただ腕に異常な力を込め、近付く二人に腕を振った。

その行為に危険を感じた二人は左右に別れて飛び、
その間を何か巨大な圧が通過し、
凄まじい勢いで王宮を覆う壁の一部を破壊した。


「これは……!?」

「奴め。この短時間で魔力斬撃ブレードを真似てきている」

「幾度か見ただけの、俺の技を……!?」

「正気を失いながらコレか。鬼神の血は侮れない。これ以上の長期戦で学んでは厄介だ、一瞬で仕留めるぞ」

「ああ」


覚醒したエリクの危険性を改めた、
ゴズヴァールとエアハルトは共に動き、
暴走するエリクに対して攻撃を加えた。

ゴズヴァールが接近し正面で撃ち合う中、
中距離からエアハルトが魔力斬撃を飛ばす。
そしてゴズヴァールがエリクの手を撃ち払い、
更にエリクの顎を下から上へ殴り、
頭と顎を浮かせて野太い首を曝け出した。


「グガッ」

「エアハルト!」


ゴズヴァールの叫びが轟く前に、
既に構えていたエアハルトが気を見計らい、
全身の集中力と魔力を右脚に集め、
研ぎ澄ませた右脚の足刀をエリクの喉に向けながら、
大きく脚を振り抜き、魔力斬撃を放った。

凄まじい斬撃が飛ぶようにエリクの喉を襲い、
そして切り裂き、夥しい量の流血を起こさせる。

しかしエアハルトの渾身の攻撃は、
屈強となったエリクの首を跳ねるまでには至らない。


「クッ!!」

「首を跳ばすのは不可能か、ならば!」


エアハルトの激しい舌打ちと同時に、
ゴズヴァールが自らの巨体を前へ飛ばし、
赤肌のエリクの胸に渾身の力を込めた拳を放った。

エリクの肋骨は間違いなく砕け、
その下で守られた心臓を潰したことを、
ゴズヴァールは拳の感触で間違いなく捉えた。

しかし、エリクは停止しない。


「――……グ、ガァアアアアアアァァァアアアアアアアーッ!!」

「!」

「なに!?」


裂かれた喉を瞬く間に修復し、
砕かれた心臓と肺さえ一瞬で癒したエリクが、
目の前にいるゴズヴァールとエアハルトに向け、
渾身の叫びを浴びせた。

その叫びは目の前の二名の三半規管を狂わせると同時に、
魔力の波動としてその場に放たれる。
魔力の咆哮は物理的衝撃を伴いながら周辺を破壊し、
ゴズヴァールとエアハルトを巻き込んだ。


「グ、ゥアッ!!」

「口から、魔力そのものを!?」


エリクの咆哮と共に放たれる魔力に巻き込まれ、
エアハルトは吹き飛ばされ崩壊する建物に激突し、
その瓦礫の中に埋もれるように沈んでいく。

真正面に立っていたゴズヴァールは耐えながらも、
口から放たれるエリクの魔力を浴びて全身が焼け、
幾らかの距離まで吹き飛ばされて停止した。
焼けた毛から煙が立ち、
防ぐ姿勢で構えたままゴズヴァールは呟いた。


「鬼神の血め。不死身だとでもいうのか……ッ」

「グ、ガァ、ア……」

「……自分の咆哮で喉を焼いたか。だが、すぐ回復する。奴を殺すには……」


ゴズヴァールは視界を周囲に回し、
何かを探すように視線を送った。
そして目当ての物を見つけたのか、
すぐにその場から移動してソレを拾った。

拾ったのは建物の屋根に備え付けられた、
太く長い鉄の棒。
その先端を尖るように素早く削ぎ落とすと、
ゴズヴァールが抱え持つ一本の太い鉄槍が完成した。


「これを、心臓に突き刺す」


槍を扱うように鉄棒を振るいながら、
ゴズヴァールは駆け出してエリクに接近した。

焼けた喉を回復させたエリクが、
ゴズヴァールに向けて再び腕を振るって魔力斬撃を飛ばし、
それを回避されると口を向けて咆哮を飛ばした。

広範囲の咆哮を受けながら突き進む事を止めず、
耐えながらエリクの懐へ入ったゴズヴァールが、
その鉄槍を両手と体全体の膂力を乗せ、
エリクの心臓がある胸の中央へ突き刺した。


「グ、ガ……ゲハッ……」

「終わりだ、鬼神の子孫……ッ!!」


突き入れた鉄棒を捻るように回し、
ゴズヴァールはトドメを刺すように更に深く突き入れた。

エリクの口から夥しい血液が溢れ、
ゴズヴァールに対して降り注ぐ。
エリクの血に濡れたゴズヴァールが更に力を込め、
エリクの巨体を浮かす形で、
鉄棒がエリクの背中から突き出た。

最後にゴズヴァールの頭部を掴むように、
エリクが手を伸ばして触れながらも力を失い、
赤鬼と化したエリクが停止した。


「……死んだか」


心臓を突き刺し破ったエリクが停止した事で、
ゴズヴァールは目の前の相手が死亡したと確信した。
そのまま鉄棒から手を離したゴズヴァールが、
変貌し巨大化したエリクの巨体から逃れるように、
体の正面から離れようとする。

しかし、ゴズヴァールの頭部に触れていたエリクの手に、
再び力が込められ、ゴズヴァールの牛の角を掴んだ。


「!?」

「グ、ガァ……ッ」

「馬鹿な、心臓を破壊したんだぞ……!?」


再び動き出したエリクに、
ゴズヴァールは信じられずに驚きの声で怒鳴った。
しかしそれを無視するように、
ゴズヴァールの頭部の角を左手で掴んだエリクは、
凄まじい眼光をゴズヴァールに向けて、
その牛鬼の巨体を片手で浮ばせて、
自身の胸に突き刺さった鉄棒を右手で引き抜いた。


「この、化物め……ッ!!」


地に足を着けられず、
頭の角を持たれて浮んだゴズヴァールは、
鉄棒を引き抜かれ傷を瞬時に回復していくエリクを見て、
悪態にも似た弱音を初めて漏らした。

地面で足を噛み締めないまま、
踏ん張りが利かずとも腕と足を振ったゴズヴァールが、
エリクの顔面と体を狙って打撃を続ける。

それすら耐え抜くエリクが、
ゴズヴァールの角を持ったまま大きく腕を振り、
体全体を使ってゴズヴァールを振り回し、地面に叩きつけた。


「グ、グォ……ッ」

「ガァアアアアアアァァァッ!!」


何度もゴズヴァールを地面へ叩き付け、
数メートルのクレーターを地面に作ったエリクは、
そのままゴズヴァールの角を持って走り、
巨体のゴズヴァールを引き連れながら、
王宮を囲う内壁を叩きつけ、
更に振り回すように内壁を破壊していく。

そして全筋肉を更に膨張させたエリクが、
まるで砲丸でも投げるように振り被り、
ゴズヴァールを内壁に擦りつけながら移動し、
大きく投げ、掴んだ角を折って投げ捨てた。


「グ、ガアッ!!」


ゴズヴァールは内壁を破壊しながら、
撃ち捨てられるように地面へ巨体を転がした。

折られた角と体中の骨に響き砕くような衝撃を受け、
辛うじて足を震わせながらもゴズヴァールは身悶え、
再び立ち上がろうと腕と足を支えに巨体を起こす。

しかしそれより早く、
ゴズヴァールの巨体を支える足に向けて、
エリクがゴズヴァール自身の角を、
その足に突き刺すように投げ放ち、深く足を穿った。


「ゥ、グゥ……ッ!!」

「ガアアア……ッ」


互いに全身から血を流しながらも、
ゴズヴァールが自分の傷を癒すより早く、
エリクが正気を失いながらゴズヴァールを殺す為に動く。

エリクの瞳は赤い眼球のまま正気を失い、
全身から禍々しい魔力を放ちながら、
目の前のゴズヴァールに対して歩み寄り、
倒れたゴズヴァールに力強く拳を握り締めて向けた。


「ガア、ガアア――……」

「エリク!」

「――……ガァア……」


エリクがゴズヴァールにトドメを刺す時、
その横側から叫ぶ声が聞こえた。
エリクは正気を失った目を向け、そこに居る人物を見た。

そこには、アリアが立っていた。

白いワンピース姿は血に濡れボロボロながら、
確かに自分の足で、アリアは立ってその場に居た。



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