104 / 1,360
南国編 二章:マシラの闘士
なぞなぞ
しおりを挟む王宮からの脱出を図るアリアは、魔法を使用出来なくする魔道具を身に付けたまま、少年闘士に追い詰められる。
時には少年が持つ大鎌が投げ放たれ、アリアはそれを回避しながら転がり、地面や庭園の草や枝で擦り傷を増やすも、魔法で癒す事も出来ずに逃げるしかない。
「お姉さん、まだ逃げるの?」
「ハァ……ッ、ハァ……」
「僕、飽きてきちゃったよ。反撃してもいいんだよ? ……あっ、そっか。魔道具で魔法を使えなくなってるんだっけ?」
「……ッ」
「魔法師って不便だよね。魔法っていう力があっても日に何度も使えないし、使うとすぐ疲れて倒れちゃうし。でも魔法が使えないと、とっても弱い人と変わらないよね?」
「……ハァ。ハァ……」
王宮内の庭園を走り続けるアリアに、少年闘士は鎌を回収して歩くように後を追う。
二人の距離が離れない理由。
それはアリアが王宮内の地理を理解しておらず、進路を妨害する為に少年が大鎌を投げる、少年闘士の絶妙なタイミングのせいだった。
少年闘士は遊んでいた。
そして、とある場所へ追い詰めるように誘導する。
アリアはそれを自覚しながら、意思に反して袋小路に追い詰められていく。
そして庭園の端へと追い詰められたアリアは後ろを振り返り、歩き追ってくる少年闘士と向かい合った。
「……ハァ……」
「あーあ。追いかけっこ、終わっちゃったね。遊びは終わりかな? お姉さん」
「……元々、遊んでるつもりはないわよ」
「そうなんだ。でもね、僕もあんまり楽しくなかったんだ。だって、お姉さんがつまらないんだもん」
「……」
「メルクっておばさんを、お姉さんが倒したでしょ? あの人ね、僕達の中では一番弱い人なんだ。でも、闘士の中ではそれなりに強い人だから、お姉さんは強いのかなって思ったんだよね」
「……闘士の中で強くて、僕達の中では弱い?」
「うん、闘士には序列があるんだ。その中で序列十席までの闘士が、闘士達の隊長を務める事になってるんだよ。メルクおばさんは序列十位。闘士長のゴズヴァールおじさんが序列一位で、次長のエアハルトお兄さんが序列二位なんだよ。ゴズヴァールおじさん、とっても強いんだ。僕がもっと強くなったら、絶対に勝ちたい相手でもあるんだよね」
「……そういうアンタは、序列何位なのよ?」
「僕はね、序列三位だよ」
「!?」
「そう。僕は闘士の中で、三番目に強いんだよ。驚いた?」
「……」
「でもね。僕はまだ子供だから、ゴズヴァールおじさん達みたいに、部下はいないんだ。でも部下なんていらないよね。だって弱っちい人と一緒にいても、つまらないし面白くないもん」
「……そう。それで、アンタは私をどうするつもりなの?」
「うーん、ゴズヴァールおじさんの命令だとね。お姉さんが逃げたら、捕まえるか殺しちゃっていいんだってさ。……お姉さん、どっちがいい?」
「どっちも嫌ね」
「お姉さん、僕より年上なのにワガママだなぁ。大人なんだから、どっちか決めないといけないんだよ?」
「大人ってのはね、二択を迫られたら、三択目も考えて選ぶものなのよ」
「三択目?」
「アンタを倒して、この王宮から逃げる。それが三択目よ」
そう告げたアリアは、向かい合う少年闘士に対して走り出した。
少年闘士はそれを驚きながらも、すぐに冷やかな視線へ変化した。
「僕を倒す? ……そういう冗談、好きじゃない」
両手鎌を構えた少年闘士は、走って近づいて来るアリアに怒りを含む視線を向ける。
そして十メートルの距離に接近したアリアは、手錠で固定された両手の中に潜めていた何かを摘み、両手を振って何かを少年闘士に投げ放った。
「!」
少年闘士はそれを回避した時、投げられた物の正体に気付く。
アリアが秘かに持っていたのは、一本の鉄釘。
何処でそんなモノを得たのかを考えた時、少年闘士は最初に鎌を投げた時に破壊した、木製で出来た物置の事を思い出した。
「あの時に剥ぎ取ったのかぁ、でも残念。外れたね」
投げ放たれた釘を回避して余裕の笑顔を見せる少年闘士だったが、走り向かって来るアリアに対して溜息を吐き出した。
「もう武器も無いのに。つまらないなぁ」
そして少年闘士はアリアの首を両断する為に、躊躇も無く大鎌を振った。
確実に大鎌の刃はアリアの首と体を分断できた……と、思えた。
しかし、少年闘士の大鎌は思わぬ形で防がれた。
「!?」
「誰が、魔法を使えないですって?」
アリアの体の外側を纏う何かが大鎌の刃を防ぎ止め、攻撃を阻んだ。
そして少年の懐に入って力強く踏み込んだアリアは、手錠で不自由な両手を敢えて使い、少年の顎へ掌底を喰らわせた。
「ッ!?」
「ハァッ!!」
精神的な衝撃と顎へ直撃した掌底の攻撃で、脳を揺らされた少年闘士は肉体的にも思考的にも硬直し、更に追撃としてアリアの右蹴りを胴に受けた。
少年闘士の体は後ろへ傾き、手に持っていた大鎌を離して地面に倒れる。
そんな少年闘士を見下ろしながら、アリアは吐き捨てるように述べた。
「何よ、アンタも大したことないわね」
そう呟いた時、少年闘士は笑顔を見せながらすぐに立ち上がった。
アリアはそれを見て数歩下がり、少年闘士と距離を素早く広げる。
笑いながら大鎌を拾い上げた少年闘士は、不思議そうな声で聞いた。
「お姉さん。さっきの、魔法の物理障壁だよね?」
「……」
「手錠の魔道具で、魔法が使えなくなってるはずなのに。どうして魔法が使えるの?」
「さぁね」
「教えてよ。僕、お姉さんにすっごく興味が出て来たよ」
「私はアンタに興味なんて無いわよ」
「酷いなぁ。僕に教えてくれるまで、絶対に逃がさないからね?」
大鎌を再び構え直した少年闘士は、今度は自分からアリアに攻め入る。
少年の華奢な体と不釣合いな大鎌が素早い速度でアリアに迫り、下から上へと鎌の刃が薙ぐ。
アリアはそれを飛び退いて回避すると同時に、再び少年闘士との距離を保った。
それを見た少年闘士は、アリアを見て笑いながら聞いた。
「今度は、物理障壁で防がなかったね?」
「……」
「手錠を嵌めたままでも物理障壁を使えるなら、今度も防いで反撃したはずだよね?」
「……」
「ということは。さっきは使えて、今は使えない理由がある。そういう事だよね?」
「……ッ」
「当たりなんだ」
無邪気に微笑む少年闘士に不気味さを感じ、アリアは身構えながら前傾姿勢になる。
再び大鎌を構えた少年闘士は、微笑みながら攻撃を仕掛ける様子のアリアに尋ねた。
「あはっ。さっきは使えなかったけど、今は魔法が使えるの? それとも、ハッタリ? 教えてよ、お姉さん」
「教えないわよ、自分で考えなさい」
「ちぇ、ケチんぼ」
「謎ってのはね、人に教えられるより、自分で解くからこそ面白いんでしょ?」
「そっか、そうだね。じゃあ、お姉さんが死んじゃう前に、僕が絶対に解いてみせるからね」
そう微笑み伝える少年闘士に、身構えたアリアは再び突っ込んだ。
庭園で行われる二人の戦い。
この戦いの結末は、アリアが使う不可解な魔法が鍵を握ることになった。
0
お気に入りに追加
382
あなたにおすすめの小説
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜
秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』
◆◆◆
*『お姉様って、本当に醜いわ』
幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。
◆◆◆
侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。
こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。
そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。
それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?
桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」
やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。
婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。
あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる