屑と謳われた者たちの英雄譚

yuzuku

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第二章

旅仲間

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クレイラー王国。
人間が多く生活するこの国を出るには船が必要だ。
それぞれの国は海に囲まれており、陸続きになっている国は少ない。
「言わずもがな、リーラちゃんもオレもあまり金が無いんだよね。」
アジュガはそう言って、木になっている実を手を伸ばし取ってリーラにも手渡す。
身長が高い分、高い木の実を取れるのは利点だ。
まぁ、リーラも木登りは出来るから木の実も簡単に取れはする。
「アジュガさんは、今までどのように移動していたの?自国から持ってきたお金で賄っていたとか?」
「まぁ、それもあるけどね。大抵は声をかければ何かくれるから。移動も、後ろに乗せてくれたりするんだよね。同じ方向なら、何も難しいことはないよ。」
ごく当たり前のように言うアジュガをリーラは横目で見る。
謙遜する必要のない美形な顔を有効利用することで、金が無くても移動手段を手に入れていたわけだ。
そのことに関して非難する必要はどこにもないし、使える物は使うべきだ。
だが、その方法これから使えるだろうか。
「もう一度言うけど、私といたら警備隊に追われることになるよ。あなた一人ならきっと不自由しないはず。でも、私といるだけで移動すら困難になるかも。」
「一人旅飽きたんだよね。だからそろそろ誰かと一緒にいるのもいいかなって思ってたんだ。そこに丁度良くリーラちゃんが現れた。きみがオレの彼女ってことにすれば多少は虫が寄ってこなくなるんじゃないかって思ってるんだ。」
木の実を頬張るアジュガの口の中が良く見える。
存外鋭い歯を持っている種族なのだと、木の実に突き立てられる白い歯を見て思う。
「お言葉ですが、私が彼女なんて務まると思う?そういうのってつり合いが取れてないと通用しないものでしょ。」
「つり合いの取れた恋愛ってなに?誰が決めるの?オレはリーラちゃんに決めたから離れる気ないよ。」

何がそんなにお気に召したのか。
いや、何かしらのメリットを見つけたというのが正解かもしれない。

「彼女なんて言ったら、移動で後ろに乗せてもらえなくなるんじゃない?」
「その時は妹って言えばいいんじゃない?」
「ご自分の容姿を鏡で見たことあります?私とは似ても似つかないでしょ。いじわるで言ってます?」
リーラが少し言葉を強めればアジュガはリーラの手首を掴んだ。
「いじわるなんて言ってない。世の中、色んな事情を持った兄弟はいくらでもいるよ。連れ子同士ってことにすればいいんじゃない?そもそもオレは、リーラちゃんのこと可愛いと思うけど・・・その顔なに。」
リーラは思いきり顔を顰めていた。
いくら世間知らずでも自分の容姿が良くないことは知っている。
優しくない目元、高くもない鼻、きしんだ髪に荒れた肌。
手には畑仕事のマメがたくさん出来ていて、日々の力仕事で筋肉だってあって華奢とはいえない。
「丸わかりの嘘を言われたら、こんな顔もするでしょ。」
リーラはそう言って、手を振り払おうとした。
だがこの男、通常時は本当に力が強い。
「オレ、嘘なんて言ってないけど?」
「それなら視力でも悪いのでは?」
「冗談やめてよ、エルフの視力は人間より何倍もいいよ。なんで、オレが言ったことを嘘なんて言うの?」
変な圧力を感じる。
嘘つきなんて言われるのが嫌だったのか?
「私は今まで人から可愛いなんて言われたことは一度もない。可愛げもないってよく言われるし。」
「へぇ。それならオレがリーラちゃんを可愛いって思った一番最初の男ってことだね。」
不敵な笑みはどこか怖い。
どこに彼の逆鱗があるのか分からないため、リーラはアジュガの考えを読むことは出来ない。
「・・・女なら誰でもいい人ですか?」
「オレの中で性別は関係ないよ。それにオレは好みで選ぶとしたら望みが高いんだ。誰でもいいなんて、思わないでね。」
リーラはやっとのことで腕を振りほどき、前を進む。
頭に乗っているパッポを鷲摑みにして、もふもふと両手で柔く握る。
「ポポッ。」
ふわふわが癒される。
森を歩いて数時間だが、アジュガは時折怖い笑顔を見せる。
その度にパッポを触ってストレスを軽減している。
パッポも最初は驚いていたがだんだんと慣れてきたようだ。
この得体の知れないエルフを旅を続けることになるのだろうか。
不安しか過らない今、リーラたちは船乗り場のある町へと向かっていた。


森を出ると広い道が広がっていて、魔道具を使って移動する人たちがちらほら見えてきた。
後ろからアジュガがリーラのフードを頭に深く被せてくる。
「オレが何とかするから、リーラちゃんは顔を見せないで。パッポはフードの中に入りな。」
警備隊に追われているからその対策だ。
大きな箱型の魔道具に乗った男性に対して、アジュガが手を挙げた。
顔を見ただけで停まらせるなんて、ある意味魔法みたい。
「どうしたんだ、エルフのお兄さん。」
「妹と二人で旅をしているんだ。魔道具が壊れてしまって修理したいんだよ。隣町まででいいから乗せてもらえないかな。」
「それは大変だ、二人くらいなら乗るスペースもあるよ。乗りな。」
あっさりと成功し、アジュガとリーラは男性の魔道具の後ろに乗せてもらう。
「妹さんは大丈夫かい?体調でも悪いの?」
「この子は人見知りで、オレにしか懐かなくて困っています。」
「そ、そうかい。お兄ちゃんも大変だね。」
アジュガの困ったような笑顔に男性は何も言えなくなる。
リーラはフードの中で、演技力も持っているなら最強だな、と思いつつ俯いていた。

「お金があまりなくて、こんなものしか・・・。」
アジュガが差し出したのは宝石のアクセサリーだ。
男性は首を振って、受け取らなかった。
「この町まで大した距離じゃなかったし、かまわねぇよ。それより、本当にこの町で降りるのかい?もっと乗せたっていいんだよ?」
「いえ、これ以上迷惑をかけるわけにはいきませんから。ありがとうございました。」
アジュガはフードを被るリーラの手を引いて、歩き出す。
「もっと乗せてもらえるなら乗せてもらった方が良かったんじゃ?」
「あのね、引き際が肝心なの、こういうのは。」
フードを被りつつ、リーラは振り返る。
送ってくれた男性は、まだこちらを見ていた。
「あの男性の魔道具は荷物を多く乗せられる箱型魔道具。あの大きさのものを動かすならそれなりの魔力も必要だ。そうして、オレたち二人を乗せたままもう少し進めるということはあの男性の魔力量は中級よりやや上かもね。まぁ、別の魔道具を使って魔力量を底上げしてる可能性もあるんだけど。そうなってくると、さらにあの男性は、金をそれなりに持っていることになる。オレの宝石を断ったことから、金には不自由していないことも分かる。」
「それならなおさら、まだ乗せてもえらばさらに進めたんじゃ?」
「金に不自由していない理由が、悪い仕事をしているからかもしれない。」
フード越しに見えたアジュガの顔は何かを真剣に考えていた。
「宝石を受け取ってくれるような奴なら、まだ乗ってても良かったかもね。でも、あの場面で受け取らないのは優しさを演出したい可能性もある。あのまま、別のところに誘拐される可能性もあるからね。」

エルフは誘拐されて奴隷にされる。
美のエルフならばなおさら。
だからこそ、アジュガはだれよりも警戒しているのだ。

「短い移動の方が相手に情報を深く与えずに済むからまた次の人を捕まえよう。どっちにしろ、アジュガさんにしか出来ない方法なんで私は任せます。」
リーラがそんなことを言えば、アジュガは安堵したように微笑んだ。
「うん、とりあえず、あの男性から離れよう。」

誰が信用できる人物かなんて分からない。
リーラとアジュガ、パッポは色んな人の魔道具の後ろに乗せてもらい移動を繰り返した。
そうしてようやく、船乗り場のある町の近くへと辿り着いたのだ。
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