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第一章
魔法
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朝日が昇りかけているそんな時刻。
リーラは、自身の体の震えで目が覚めた。
冷や汗が背中をつたって、それからとてつもない疲労に襲われる。
幼い頃の夢を見たからだ。
ぎりぎり記憶が残る幼い頃。
祖父はリーラに魔法を出させようとした。
「どんなに小さくてもいい。蝋燭ほどの火でも、涙ほどの水でもいいんだ。魔法を見せておくれ。」
幼いリーラは懇願する祖父の気持ちに精一杯答えようとした。
それでも、魔法なんてどうやって出せば良いのかすら分からない。
「呼吸をするのと同じだよ。ただ思うだけで火が灯る、そういうものなんだよ。」
幼いながらに祖父が苛々していることは分かっていた。
だから、頑張って頑張って頑張って、魔法を出したかった。
しかし、風が揺らぐことも、物が浮かぶことも、体が透明になることも出来ない。
リーラが顔を上げて見たものは、諦めたように目を背ける祖父と。
深いため息をついて、冷たい目で見下ろす祖母だった。
目が覚めたリーラは深呼吸をして、それから目を閉じた。
この世界は魔法で成り立っている。
あらゆる生物は魔法を使うことができ、それを疑うことはない。
この世界に存在するたったひとつの宗教が崇め奉る神様の言葉がある。
魔法は平等に与えられる確かなものだ、と。
その言葉があるせいで、リーラは村の皆からおぞましがられ、蔑まれてきた。
「魔法が使えないお前は、神の怒りを買った化け物だ。」
化け物、というのは実際に存在していて、奴らは真っ黒でドロドロとしていておぞましい姿をしている。
その体自体が脅威であり、物を溶かす個体もいれば、触れた物体の水分を抜き取ってしまう個体もいるらしい。
そんな化け物は魔法を使ったという事例がなく、そのことから神に見放されたと言われているわけだ。
その存在の詳細は明らかになっておらず、見つけたらすぐに対処、処分するように義務付けられているという。
そして、魔法を使った事例がない点がリーラと共通するというわけだ。
とは言っても実際に目にしたことはない。
リーラは生まれてからこれまで、あの農家村を出たことが無かった。
どこに出しても恥ずかしい娘、だったからかもしれない。
もしくは、どこへ行っても生きられないからだったのかもしれない。
彼らなりに、孫である私を守ろうとしてくれていたのなら。
そこまで考えてリーラは乾いた笑みを溢す。
あの人たちが、私を守る?どんな目的があって?
そう思うほどにリーラの性格は歪んでいた。歪まされていた。
家に置いてくれたこと感謝してる。
この歳まで生きてることも、私と言葉を交わしてくれたことも感謝はしてる。
でも、あなたたちが死んでも涙は出なかったよ。
リーラは木の上から地面に飛び降りると、また地面を歩き出した。
お金が必要だ、そのためには仕事が必要だ。
ただ、存在している仕事は魔法によって成立している。
魔法を使って服を仕立てたり、魔法を使ってパンを焼いたり。
当然私には出来ない仕事だし、魔法が使えないとバレてしまうと厄介だ。
バレないためには単独で行える仕事であることが不可欠。
そんなことを考えながら歩いていると、向かいから飛んでいる馬車が走って来ていた。
農家村から見える道を通過する馬車を何度も見ていた。
だが、こんなに間近で見るのは初めてだ。
その馬車を引いている男性が、リーラを見て馬車を止めた。
「お嬢ちゃん、こんなところを歩いて移動しているのかい?見たところ、魔道具も持っていないね?」
男性が不審な目を向けるのも無理はない。
ここは村から離れた何もない道だ。
そんなところを歩いて移動するのは珍しいのだろう。
魔道具というのはおそらく、移動を補助するためのもの。
ただし、魔道具は魔法が使えない人は当然使えない。
「壊れてしまったんです。それに私、魔力が少なくて疲れてしまって。」
「そうか、それは大変だね。反対方向だから乗せてあげられないけど、気を付けるんだよ。」
そう言って馬車は走っていく。
今事なきを得たのは、魔法の性質を知っていたからだ。
魔法とは強弱が存在し、上手い奴も下手な奴もいる。
魔法を使用するための魔力量は個人差があり、得意な魔法も人それぞれだ。
それを補助するために存在する魔道具のおかげで、皆平等なフリが出来ている。
補助するための魔法が出せない私には、フリすらできないという話だ。
そのことを学んだのは、生きている中で目にしたもの聞いたものがすべてだ。
農家村で祖父母が使っていた魔道具や、他の住人の魔法を観察していたから気づけたこと。
だから私は知っている、魔法は疲れるってこと。
魔法で畑を耕していた隣のおばあちゃんは、何度も疲れたと言って休憩を取っていたから。
そして、私は知っている。魔法は得意不得意があること。
魔法で遊んでいた同じ歳の子供たちには優劣が存在していたから。
私には魔法がない、だからこそ魔法についての知識を得て嘘をつかなくてはならない。
そう思ったのは、子供の頃よそから来ていた商人にどんな魔道具が欲しいか聞かれた時。
馬鹿正直に使えないと答えた私の口を、祖父が塞いだからだ。
「この子の魔法はとても弱くって、魔道具を使ったところで大したものにはならないんですよ。」
焦ったようにそう答えた祖父が私を睨んだ顔が忘れられない。
そうか、私は私であることが許されないんだ、と。
子供ながらに思ったのだ。
リーラは思い出したくもない過去にため息をつきながら、仕事を探すために町を目指した。
リーラは、自身の体の震えで目が覚めた。
冷や汗が背中をつたって、それからとてつもない疲労に襲われる。
幼い頃の夢を見たからだ。
ぎりぎり記憶が残る幼い頃。
祖父はリーラに魔法を出させようとした。
「どんなに小さくてもいい。蝋燭ほどの火でも、涙ほどの水でもいいんだ。魔法を見せておくれ。」
幼いリーラは懇願する祖父の気持ちに精一杯答えようとした。
それでも、魔法なんてどうやって出せば良いのかすら分からない。
「呼吸をするのと同じだよ。ただ思うだけで火が灯る、そういうものなんだよ。」
幼いながらに祖父が苛々していることは分かっていた。
だから、頑張って頑張って頑張って、魔法を出したかった。
しかし、風が揺らぐことも、物が浮かぶことも、体が透明になることも出来ない。
リーラが顔を上げて見たものは、諦めたように目を背ける祖父と。
深いため息をついて、冷たい目で見下ろす祖母だった。
目が覚めたリーラは深呼吸をして、それから目を閉じた。
この世界は魔法で成り立っている。
あらゆる生物は魔法を使うことができ、それを疑うことはない。
この世界に存在するたったひとつの宗教が崇め奉る神様の言葉がある。
魔法は平等に与えられる確かなものだ、と。
その言葉があるせいで、リーラは村の皆からおぞましがられ、蔑まれてきた。
「魔法が使えないお前は、神の怒りを買った化け物だ。」
化け物、というのは実際に存在していて、奴らは真っ黒でドロドロとしていておぞましい姿をしている。
その体自体が脅威であり、物を溶かす個体もいれば、触れた物体の水分を抜き取ってしまう個体もいるらしい。
そんな化け物は魔法を使ったという事例がなく、そのことから神に見放されたと言われているわけだ。
その存在の詳細は明らかになっておらず、見つけたらすぐに対処、処分するように義務付けられているという。
そして、魔法を使った事例がない点がリーラと共通するというわけだ。
とは言っても実際に目にしたことはない。
リーラは生まれてからこれまで、あの農家村を出たことが無かった。
どこに出しても恥ずかしい娘、だったからかもしれない。
もしくは、どこへ行っても生きられないからだったのかもしれない。
彼らなりに、孫である私を守ろうとしてくれていたのなら。
そこまで考えてリーラは乾いた笑みを溢す。
あの人たちが、私を守る?どんな目的があって?
そう思うほどにリーラの性格は歪んでいた。歪まされていた。
家に置いてくれたこと感謝してる。
この歳まで生きてることも、私と言葉を交わしてくれたことも感謝はしてる。
でも、あなたたちが死んでも涙は出なかったよ。
リーラは木の上から地面に飛び降りると、また地面を歩き出した。
お金が必要だ、そのためには仕事が必要だ。
ただ、存在している仕事は魔法によって成立している。
魔法を使って服を仕立てたり、魔法を使ってパンを焼いたり。
当然私には出来ない仕事だし、魔法が使えないとバレてしまうと厄介だ。
バレないためには単独で行える仕事であることが不可欠。
そんなことを考えながら歩いていると、向かいから飛んでいる馬車が走って来ていた。
農家村から見える道を通過する馬車を何度も見ていた。
だが、こんなに間近で見るのは初めてだ。
その馬車を引いている男性が、リーラを見て馬車を止めた。
「お嬢ちゃん、こんなところを歩いて移動しているのかい?見たところ、魔道具も持っていないね?」
男性が不審な目を向けるのも無理はない。
ここは村から離れた何もない道だ。
そんなところを歩いて移動するのは珍しいのだろう。
魔道具というのはおそらく、移動を補助するためのもの。
ただし、魔道具は魔法が使えない人は当然使えない。
「壊れてしまったんです。それに私、魔力が少なくて疲れてしまって。」
「そうか、それは大変だね。反対方向だから乗せてあげられないけど、気を付けるんだよ。」
そう言って馬車は走っていく。
今事なきを得たのは、魔法の性質を知っていたからだ。
魔法とは強弱が存在し、上手い奴も下手な奴もいる。
魔法を使用するための魔力量は個人差があり、得意な魔法も人それぞれだ。
それを補助するために存在する魔道具のおかげで、皆平等なフリが出来ている。
補助するための魔法が出せない私には、フリすらできないという話だ。
そのことを学んだのは、生きている中で目にしたもの聞いたものがすべてだ。
農家村で祖父母が使っていた魔道具や、他の住人の魔法を観察していたから気づけたこと。
だから私は知っている、魔法は疲れるってこと。
魔法で畑を耕していた隣のおばあちゃんは、何度も疲れたと言って休憩を取っていたから。
そして、私は知っている。魔法は得意不得意があること。
魔法で遊んでいた同じ歳の子供たちには優劣が存在していたから。
私には魔法がない、だからこそ魔法についての知識を得て嘘をつかなくてはならない。
そう思ったのは、子供の頃よそから来ていた商人にどんな魔道具が欲しいか聞かれた時。
馬鹿正直に使えないと答えた私の口を、祖父が塞いだからだ。
「この子の魔法はとても弱くって、魔道具を使ったところで大したものにはならないんですよ。」
焦ったようにそう答えた祖父が私を睨んだ顔が忘れられない。
そうか、私は私であることが許されないんだ、と。
子供ながらに思ったのだ。
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