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組織の調査1

闇の神官の条件

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「白銀の国のヒサメだ。ベルへがいたら話をしたいんだが。」
「これはこれはヒサメ様。王になられたとお聞き致しました。これからも、神のお導きがあらんことを。ベルへさんでしたら、宵の間でございます。」
「わかった、ありがとう。」
そう言ってヒサメが歩き出すので、私は受付の人に会釈してヒサメについていく。



長い回廊を進んでいき、とても広い部屋へとたどり着く。
「闇の神官になれる条件の話だったな。ひとつ、強い闇魔法を持っていること。ふたつ、人々の役に立つ功績を残していること。みっつ、強いこと。」
その大きな部屋の真ん中で二人の男が手合わせしている。
どちらも体格は良さそうだが、黒髪の方がやや華奢だ。
その黒髪の男が相手の蹴りを避け、懐に入り込み、鳩尾に拳を入れた。
その瞬間、相手の男は吹っ飛んで反対側の壁においてあるクッションにぶつかった。
え、あれって人が飛ぶから置いてあるクッションなの?
私が固まっていると、ヒサメが黒髪の男に声をかけた。

「相変わらず、容赦がないな、ベルへ。」
「!ヒサメ様、いらしていたんですね。前回の加護の時以来ですね。」
ベルへはそう言ってお辞儀をしてから、穏やかな笑みを見せた。
今まさに人をぶっ飛ばした人とは思えない。
クッションに横たわる男は起きてくる様子はない。気絶してる?
そうしてよそ見をしている私にヒサメが声を掛ける。
「リビ殿、彼はベルへ。白銀の国に加護を施す神官様だ。彼とは親交が長いから、話を聞きやすいと思ってな。」
ベルへはこちらを見てお辞儀をする。
肩までかかる髪はつやつやと輝いていて見とれてしまうが、私も慌ててお辞儀をする。
「初めまして、リビです。」
「こちらこそ、初めまして。貴女が闇魔法使いのお嬢さんですね?ヒサメ様お気に入りの。」
「え。」
私は思わずヒサメの顔を見上げたが、ヒサメは何食わぬ顔をしている。
「どんな噂を聞いたらそうなるんですか?」
「あ、いえ。私は定期的にヒサメ様と連絡を取っているのです。鉱石浄化の件は加護にも関係がありますから、そのことでリビさんのお話を聞かせて頂いていました。」
噂じゃなくて良かった。
それにしても、ヒサメ様はベルへさんに私のことを何と言っているのだろうか。
そんな顔をしているのが筒抜けだったのか、ベルへは微笑む。
「断ることを知らない女性が鉱石浄化を手伝ってくれている、と。ヒサメ様は鉱石を壊すことも考えてらっしゃったので、一時はどうなることかと思いましたが、貴女のおかげで考え直してくださってほっとしたんです。」
「いや、私のおかげじゃなくて、フブキさんのおかげというか。」
「ヒサメ様がフブキさんのこと以外を手紙に書くのが珍しくてとても驚いたんですよ。よほど凄い女性なのだと、会うのを楽しみにしておりました。」
ハードルが物凄く上がっている気がして、私は首を横に振っていた。
「いえ、たまたま私が適した魔法を持っていただけというか、私が凄いわけじゃ」
「リビ殿、過ぎたる謙遜は己を下げることにもなる。オレの部下ならば、そうであってはならない。胸を張り、気高く微笑むだけで良い。」
それってとてつもなく難易度高いんですが。
私はとりあえず胸は張った。
気高く微笑むのは無理。
あれ、そういえばこの人、白銀の国の神官様って言った?
私は思わず一歩ベルへに近づいていた。
「あの、ベルへさん。故郷はどこですか。」
「え、故郷ですか?〈清廉の海〉です。」
清廉の海ってたしか、ミーカさんやアイル先生が言っていた人魚の一族だ。
「人魚、ということですね。じゃあ、違うか。」
「すみません、何かご期待に添えなかったようですね。」
「いえ、こちらこそすみません。実は私、白銀の国に来ていた神官様に会いたかったんです。というのも、その人が私と同じ故郷である可能性があったからなんですけど。」

私の言葉に、ヒサメとベルへは顔を見合わせる。

「リビさんが会いたかったのは私の前の神官様ではないでしょうか。彼は随分前に神官を辞職なさっているので。」
「辞めてらっしゃったんですね。というか、辞めれるんですね。」
光の神官はやめることが出来ないという話だった。
何から何まで本当に違うんだな。
「闇の神官は任期があるのです。勿論、長く続けておられる方もいますが条件に見合わなければいけませんからね。歳を重ねるごとに魔力や体力は衰える場合が多い。自然と自分の力量を見極めて、辞職なさるのです。」
老齢の方が魔法使いとして強そうだが、それは磨かれたセンスやテクニックがあるからか。
魔力や体力は別という話だ。
「そうなのですね。その方がどこにいるか分かりませんか?ご健在であればお会いしたいのですが。」
「ここを辞職なさってからどこで何をなさっているのか分からないのです。私も親交の深い神官様だったので、できることならもう一度お会いしたいですが、生きているかどうかも分かりません。」
ベルへはどこか懐かしそうに目を細める。
「彼は不思議な方でした。どんな者にも分け隔てなく話しかけて、相手の言葉に耳を傾けて下さる。私のような清廉の海の人魚にさえ笑ってくださった。有名である彼はそれに驕ることもなく、謙虚に振舞っていました。」
「有名人、だったのですか?」
私の問いにベルへは頷いた。
「彼の書いた本により、多くの人が救われました。その功績が認められ、彼は神官様になりました。どの国にも置いてある植物図鑑は、その情報の精密さから薬品を作るのに役立てられたのです。彼のおかげで、治らなかった病を治すことにも繋がった。それほどの方が神官様になったことで、闇魔法への差別や偏見が少しずつ変わってきたと言っても過言ではありません。」
それは私でも知っている人だった。
「それって、ヒバリさんのことですか。」
「はい、ヒバリさんは私の前に白銀の国の神官を勤めていました。」
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