鬼手紙一未来編一

ぶるまど

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嘘つき達の告白

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黒い海の深層から脱出した秋人達は井戸の外へと降り立った瞬間一一ライトの点灯する音と銃を構える音が聞こえた。

「くっ…!」

掌で光を塞ぐと「よくやってくれたね」と男の声が聞こえてきた。 男の声には聞き覚えがあった。


「遊糸…!!」
「父様…!」


声の持ち主は、遊糸だった。 遊糸の他には翔太、優斗、闇月がいた。 秋人と祈里の言葉に遊糸は口元に笑みを更に深くさせて言った。


「本当に…君達には驚かされたよ。 鬼人として《本来の力》を取り戻しただけではなく、黒い海から祈里を取り戻してくれたんだからね」
「黙れ…!! あんたのために祈里を助けたわけじゃない!!」
「アキ君…」

秋人は祈里の手を握ると、背中に隠した。 緋都瀬達も警戒し、それぞれの武器を出して構えると「まぁまぁ! 落ち着きたまえよ!」と遠野が口を挟んできた。

「我々は争いに来たのではないのだよ。 秋人君。 《取引》に来たのだ」
「《取引》?」
「あぁ…そうだ。 牧野君! 連れて来たまえ!」
「分かりました」

翔太が車の中から連れて来た人物に秋人達は目を見開いた。

「夕日兄ちゃん!?」
「…アキ…みんな……すまない…!」

連れて来られた人物は夕日だった。 夕日は両目を閉じて申し訳なそうに言った。 遠野はニヤニヤと笑いながら言った。

「《取引》しよう。 秋人君。 緋都瀬君達のリーダーとして選択したまえ」
「何が目的だ…!?」
「話は簡単だ。 我々が捕らえている夕日君と祈里ちゃんを交換しよう」
「!?」
「!」

秋人は遠野の言葉に目を見開いた。 遠野は続けて言った。

「条件を飲めば、今後我々は君達に一切関わらないと約束しよう。 しかし…交渉決裂となれば…夕日君の命はない」
「くっ…!!」
「アキ…! どうする…!?」
「アキ君…」

翔太に銃を突き付けられた夕日と祈里を交互に見つめる秋人。 緋都瀬は心配げに見つめ、祈里は秋人の服を握りしめた。 更に遊糸は秋人に追い打ちをかけるように言った。

「私たちにも《時間がない》んだ。 10秒数える。 その間に決めるんだ」
「!?」

遊糸はカウントダウンを始めた。 それは玲奈の両親を追い詰めた時にしていたものだった。 祈里を渡したくない。 かと言って夕日を見殺しにすることも出来ない。 考え込んでいる間にもカウントダウンは進んでいく。

「10…9…8…7…」

「…っ……」
(どうすればいい…!?)

「6…5…4…3…2…1一一」

「分かった!!」


カウントダウンをかき消すように秋人の大声が響き渡った。 引き金を引こうとした翔太の指が止まる。 翔太は秋人を睨み付けていると…秋人は小さな声で言った。


「…祈里……悪い…」
「ううん…アキ君…わたしなら大丈夫だよ」

秋人は祈里の手を強く握りしめた。 顔を下に向け、涙声で言ってきた秋人を祈里は責めることは出来なかった。 遊糸は安堵の息をつくと鬼越を仕舞うと片手を祈里に出しながら言った。

「おいで…祈里。 父様と仲直りしよう」
「はい…父様…」
「…祈里ちゃん…!」

名残惜しそうに祈里は秋人の元を離れると手を差し出してきた遊糸の元に向かった。 緋都瀬は祈里の名前を呼びながらも何も出来ない自分を情けないと感じた。 もう少しで祈里が遊糸の元に辿り着くと思った時だった。
祈里に赤色の守護結界が張られた。 秋人は顔を上げると叫ぶように言い放った。

「来たれ!! 《鬼烈の刃》よ!!」
「なに!?」
「!?」

赤色の守護結界から4本の小刀が現れると風船のように弾け飛んだ。 小刀が縦横無尽に動き回ると車のライトを消し去り、照明の電気を壊していった。遊糸は予想外の反撃に狼狽えているとの祈里姿が消えたことに気付いた。

「祈里!? どこに行った!?」
「祈里は渡せないって言っただろ!!」
「ぐはっ!?」

暗闇の中で秋人の声が聞こえたかと思えば、頬を力一杯殴られた。 吹き飛ばされた遊糸は木の幹に体を打ち付け、痛みに顔を歪めると唇を噛み締め、鬼越を構えた。 暗闇の中秋人の気配を探ったが、どこにもいなかった。

「遊糸さん! 大丈夫ですか!?」
「私は平気だ! 牧野君! その場で待機しろ!! いいな!? 」
「はいっ!」

「随分と余裕だな?」
「!」

突然目の前に秋人が現れた。 刀を首元に押し付け、睨み付けている。 遊糸も秋人の頭に向かって鬼越の銃口を向けていた。

「やられたよ……君が嘘泣きをするとはね」
「…嘘泣きじゃない。 本当に…祈里をあんた達に渡すのは嫌だったんだ」
「何故抵抗する?  《過去の世界》の人々と同じように…過ちを繰り返すつもりか?」
「違う…!! 父さん達は間違ってなかった…! あんた達が来てから…俺達の日常は崩れていったんだ!!」
「…っ…」

秋人が力を込めると方が首元の喉仏に当たりそうになった。 遊糸が顔を歪めると秋人は睨み付けながら言い放った。


「俺はあんた達を許さない」
「……」
「遠野の作ったRTEも…壊してやる…! 《確定された未来》なんかないってことを…俺が証明してやるよっ!!」
「ぐっ!?」

秋人の目に宿った赤色の光が更に強く輝いた。 片手で鬼越を遠くに弾き飛ばした。 さすがの遊糸も焦ってきたのか…額に汗を浮かべていた。 遊糸は両手で刀を押さえると自分から遠ざけようとした。 秋人は全力で抵抗した。 お互いに立ち上がると、刀を挟みながらの激しい攻防は続いた。

「あんたなんかに、負けるかァァ!!」
「!!」
(しまった…!!)

遠くに投げられた鬼越が目に入ったので、取りに行こうとした瞬間一一鬼人特有の衝撃波をまともに食らってしまった。 衝撃波で数キロ吹き飛ばされた遊糸は関節が外れる音がした。

「……っ……」
(この強さは…想定外だったな…!)

ようやく止まった遊糸は手首と片足の関節が外れたことに痛みに声を上げずに耐えた。 激痛が走る中、秋人の強さに唇を噛み締めていると瞬間移動で秋人が目の前にやって来た。

「どうせ…あんたの事だから…俺の強さは予想外だと思ってるんだろ?」
「!」
「俺達のことをナメるのもいい加減にしろ…!! 何も出来なかった頃の俺たちじゃないんだ…!」
「………」
「?」

秋人の言葉に遊糸は口元に微かな笑みを浮かべた。 折れた手首を支えながら、遊糸は秋人に言った。

「フフ…あぁ……そうだな…俺達はどこかで…君たちのことを《何も出来ない子ども》と思い込んでいたようだ」
「………」
「…自分のやったことが…どれだけ酷かったか…分かってるつもりだ。 許してくれとは言わない。 君に慈悲は期待しないよ

先祖の名の通り…私に《復讐》すればいい」

「……」

遊糸の目は《全てを諦めていた》。 秋人は遊糸に憤りを感じると刀を地面に刺して、遊糸の頬を力一杯ぶん殴った。地面に伏した遊糸を秋人は襟首を掴んで起き上がらせると服を掴みながら言った。


「ふざけんな!! お前なんかに復讐したって意味なんかないんだよ!!」
「………」
「俺は誰も傷つかないって秋声様と兄さんに誓ったんだ!! だが、あんたは別だ!! あんたのしてきたことを俺は許すつもりはないからな!!」
「……立派な誓いだ…きっと…秋世さんの育て方がよかったんだろうな…」
「母さんの名前を口にするな…! この外道が…!!」
「なら…私への罰はどうするんだ? 法で私の事は裁けないぞ…?」


遊糸の言葉に、秋人は一つ息を吐いてから言った。


「あんたへの罰は……《祈里と伊萬里の為に生きること》だ」

「一一一」

秋人の言葉を、遊糸は簡単には理解できなかった。 頭の中で何度も反復すると、祈里と伊萬里が笑っている姿が浮かんできた。 遊糸の目から涙が滝のように流れてきた。 1番戸惑っているのは遊糸自身だった。 これほど泣いたのは…両親を事故で亡くして以来だ。
秋人は泣いている遊糸から離れると刀を引き抜き、後ろを少しだけ向きながら呟くように言った。

「黒い海の深層で…志津子様に会った」
「!!」
「昔と…何も変わってなかったよ。 小さい頃…手作りの桜餅を食べさせてくれた…優しい志津子様のままだった」
「…志津子は…何か…言っていたのかい?」
「あぁ…けど…俺から言うべきことじゃない。 気になるんなら…祈里から聞けばいい」
「……そうだな…分かった……なぁ…秋人君…」
「なんだ?」
「私の仲間や…上司には…傷付けないでほしいんだ。 こんな頼み…君が聞いてくれるとは思わな一一」「分かった」

「!」

自分の言葉を遮った秋人に遊糸は目を見開いた。 秋人は続けて言った。

「さっきも言っただろ。 俺は…誰も傷付けないってな」
「…ありがとう…秋人君…」
「あんたのお礼なんかいらない。 そこで大人しくしてろ」
「分かった」

秋人の素っ気ない態度に遊糸は微笑んだ。 瞬間移動で秋人が姿を消すと、仲間達と合流するために動き出そうとした時だった。


一一腹部に黒い槍が三本突き刺さった。


「がはっ…! これは…!!」


遊糸は口から吐血すると黒い槍が引き抜こうとしたが、出来なかった。 すると背後に殺気と寒気を感じた。


《ユウシ……私ヲウラギルことは許シマセンヨ?》
「夜刀神様…! 違います…! 私は、貴方様を裏切るつもりなどございません…!!」
《あなたの言葉などシンジマセン!! 私の所へ来なさいっ!!》
「!?」

遊糸の真下に黒紫色の穴が空くと、遊糸は真っ直ぐに落ちていってしまった。


***


秋人が緋都瀬達の所に戻ってくると、最初に気付いた祈里が秋人に駆け寄ってくると抱き着いてきた。

「おかえりなさい…! アキ君…! 大丈夫だった?」
「ただいま…祈里。 俺は大丈夫だ」
「よかった…! あ…! 父様は…!?」
「…遊糸は…怪我してるけど、命に別状はない」
「よかった…ありがとう…アキくん…!」
「…何もしてないよ。 牧野達はどうしてる?」
「えっと…緋都瀬君達が、頑張って、捕まえてくれたよ。 『アキが帰ってくるまで酷いことはしない』って緋都瀬君が言ってたから、怪我はしてないよ」
「…そうか…さすがだ…緋都瀬…」

秋人はほっと息をつくと、祈里の手を握って、緋都瀬達の所に向かった。 秋人と祈里に最初に気付いたのは、緋都瀬だった。

「アキ!! 無事だったんだな!?」
「あぁ…まあな」

お互いに手を合わせると無事であることを喜びあった。縄で捕らわれている翔太は秋人を睨み付けていた。 翔太の視線に気付いた秋人は口元から笑みを消すと、無表情で翔太達の前へとやって来ると言った。

「…何か言いたいことがあるか?」
「遊糸さんは…本当に、無事なんだろうな…!?」
「何度も言わせるな。 俺は…誰も手にかけるつもりはない」
「はっ…! どうだか…!! 孝治と優太を殺したくせに…!!」
「…悪かった」
「?」

翔太から目を反らした秋人は小さな声で言ったが、聞き取れなかった。 秋人の顔は…悲しげな顔をしていた。 祈里は秋人の手を強く握り返した。

「孝治と優太のことは…本当に、悪かったと思ってる。 謝ったって…孝治と優太は帰ってこないって分かってる」
「………」
「………」

秋人は涙を流していた。 顔を翔太達の方に向けると深く頭を下げた。 秋人の言葉と態度に翔太と優斗は唖然とした。 いつまでも頭を下げている秋人を見ていられなかった優斗は「頭を上げてくれ」と声をかけた。

「優斗…お前…」
「…翔太さん…ごめんなさい…俺はどうしても…五十嵐君に聞きたいことがあったんです」
「え…?」

優斗の言葉に秋人はゆっくりと頭を上げた。 優斗は秋人を見つめながら言った。

「五十嵐君……優太は、君を…本当に虐めていたのかい? 弟は…友達を虐めるような子じゃなかったはずなんだ…! どうして…優太は……死なないといけなかったんだ?」
「……っ…」

一筋の涙を流しながら、聞いてきた優斗に秋人も貰い泣きしながらも答えた。


「…孝治に……無理やり誘われたんだと思う」

「え…!?」
「孝治が…!?」


秋人の言葉に、翔太と優斗は目を見開いた。 秋人は続けて言った。



「あんたの言う通り…優太はイジメをするような奴じゃなかった。 優しくて…友達思いの…良い奴だったよ」
「あ、あ…まさか…!」
「そう。 《友達思い》だからこそ…孝治の誘いを断れなかったんだと思う」
「……そうか…あの時の《電話》は…優太が助けを求めに来た電話だったんだ…!」
「電話…?」

優斗が体を震わせながら言った言葉に、秋人は首を傾げた。 優斗は大粒の涙を流しながら、言った。

「優太が行方不明になる前日に…電話があったんだ。 電話を貰った時…俺は……事件現場に行かなきゃいけなかったんだ」


***


『もしもし? 兄ちゃん?』
『どうした? 優太?』
『あの…さ…相談したいことがあるんだけど…』
『鬼塚! 何してる! 早くしろっ!!』
『すみません!! 今行きますっ!! ごめんな! 優太…! あとでかけ直すよ』

『……うん。 分かった。 気をつけてね…兄ちゃん…』

***

「…俺のせいだ。 俺が…あの時……優太からの相談をちゃんと受けていれば…!! 何かできたかもしれないのに…!!」
「……優斗…」

優太からの電話を思い出した優斗は自分を責めた。泣き崩れた優斗を翔太は悲しげに見つめていた。 秋人は翔太と目線を合わせるように屈みこむと、翔太を真っ直ぐに見つめながら言った。

「鬼塚さんの言葉が嘘だと思うか?」
「……っ…」
「自分の弟がイジメをやっていたなんて…信じたくない気持ちは分かる。 俺も同じ立場だったら、そうたったかもしれない」
「………」
「…どうしても…信じないと言うのなら…本人から直接聞けばいい」
「は…? 何言ってるんだ? お前…」
「?」

秋人の提案に翔太は戸惑いを感じた。 泣いていた優斗は秋人に聞いてみた。

「もしかして……優太に、会えるのかい?」
「!!」
「あぁ…会える可能性はある。 ただし…牧野だけだ。 鬼塚さんは…会えないんだ…」
「…いいさ。 君が気にすることじゃないよ」


優斗は落ち込んでいたが、すぐに持ち直すと翔太に微笑みながら言った。


「俺の代わりに…孝治君に会いに行ってあげてください」
「…分かった。おい…五十嵐」
「?」
「本当に…孝治に会えるんだろうな?」
「あぁ…本当だ」
「今だけ…お前の言葉を信じてやるよ…!」
「そう言ってくれると助かる。 じゃあ…あんたと鬼塚さんは解放してやるよ」

「……っ…」


交渉が成立した翔太と優斗を縄を切って解放した。 その姿を見て、静かにしていた遠野は何か言いたげな視線を秋人に向け、視線を彷徨わせていた。 そんな遠野を秋人は睨み付けると、刀を形成させ、遠野に突き付けた。

「ひっ!」
「…自分のした事が分かってるか? 遠野?」
「わ、分かっているとも! 君たちが恨むのは当然のことだ!! さぞや私のことを殺したくて仕方ないのだろう!?」
「否定はしない。 俺はあんたを……許すつもりはない」
「それでいい! 憎しみや恨みの力が復讐鬼の力を強めるのだ! 更に君は先祖の血を色濃く受け継いでいるからねぇ…!」
「………」
「アキ君…顔怖いよ…?」
「気のせいだ」
「あはは…」

追い詰められているのは遠野だというのに、言葉は昔と変わってはいなかった。 真顔で言った秋人な殺気を隠してきれていなかった。 遠野の処分をどうするか考えていると「秋人君、待って…!」と羽華が小走りでやって来た。


「羽華? どうした?」
「あ、あのね…わたし、美術部にいるんだけど…そこで『遠野』っていう苗字の女の子を知ってるの!」
「なに…?」
「なっ…!? よ、止せ! 羽華君!! あの子のことを言うんじゃないっ!!」
「…教えてくれ。 羽華」


遠野が慌て始めたことに羽華の言わんとしている少女が大切な人だと気付いた秋人は羽華に名前を言うのを促した。 羽華は勇気を振り絞って、遠野に言った。


「《遠野  美花》ちゃんは……あなたの姪御さんですよね…?  遠野博士?」
「一一一」

羽華の言葉に遠野は言葉を失った。 首を横に振り、否定していたが…秋人の目は誤魔化せなかった。

「嘘をつくな…遠野…! 」
「違う…!! 違うのだよ…!! 美花なんて子どもなど知らないなぁ!!」
「…それを…美花ちゃんが聞いたら…悲しむと思います」
「……っ…」

悲しげに言った羽華に遠野は目を反らした。 額や頬から大量の汗が吹き出してきている。 遠野が追い詰められているのは確かだった。 秘密を守ろうとしている遠野に秋人は苛つくと、遠野の前に行き、服を掴みながら言った。

「諦めろ…! 遠野…!! お前の負けだ…!」
「な、何を言ってるのか分からないな…! ましてや…我々はまだ負けてはいないのだよ…! 」
「その自信はどこから出てくる?」

中々認めようとしない遠野に秋人が苛立っていると…視界の端で《何かが》動いたのが見えた。

「?」
「はははは…! 君は何か勘違いしてるな! 我々は負けてなどいない!! 
私が諦めぬ限り…鈴鹿御前様と、夜刀神様の加護があるのだ!! 負けることなどありえんのだよ!!」

高らかに遠野が宣言した時だった。 遠野の腹部を5本の黒い槍が突き刺した。

「!?」
「!!」
「うっ…ふぐっ…!! これは…夜刀神様の…!?」

突然の出来事に秋人と羽華は唖然と見つめることしか出来なかった。 口から吐血した遠野も信じられない様子だった。

《私ヲウラギルことは…ユルサヌ》
「や、夜刀神様…!! 貴方様を裏切ることなどしません…!! お許しを…!」
《ユウシと同じことを言うのですね…? 私が確かめてあげますよ…!!》
「な、何をする気一一」

遠野が言葉を言い切る前に、黒い槍が触手へと変化すると遠野の体を包み込んでいった。 一部始終を見ていた闇月はぽつりと呟いた。

「夜刀神様の…祟りだ」
「祟り?」
「あの方は…お怒りになれば…贄の魂を引きずり出すまで止まらないだろう。 どうする? 五十嵐?」
「あんたにも言いたいことは山ほどあるが…今は遠野を助けるのが先だ。 緋都瀬! 優璃兄ちゃんに連絡してくれ!」
「了解!」
「祈里は危ないから、鈴白神社で待ってろ。 すぐにもど一一」「ううん! わたしも一緒に行くよ!」

秋人の言葉を遮った祈里は強い決意と共に言った。 しばらく考えたが、一つ頷いてから言った。

「そこまで言うなら…仕方ないな…俺の傍を離れるなよ?」
「はい!」
「アキ! 優璃兄ちゃんが先に行っててくれって! 先に俺達は牧野さん達を鈴白の森に連れて行くね!」
「分かった! 頼んだぞ!」
「おうよ!」

お互いに手を挙げると緋都瀬達は牧野達を連れて、鈴白神社方面へと向かって行った。 残された秋人と祈里は闇月を見つめながら言った。

「あんたも一緒に来てもらうぞ…闇月。  いや…《竜舞先生》」
「………」
「え…!? 竜舞先生…!?」

一一秋人は、闇月の前に行くとフードを取り、ガスマスクを外した。 そこには虚ろな目をした竜舞が秋人と祈里を見つめていたのであった。



END
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