鬼手紙一古代編一

ぶるまど

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夢始まり

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一第1話一


我が子孫たちを見守ることにしたあの日…私は千年前に思いを馳せていた。千年前のことを思い出していたのは私だけではなかった。
氷見子、和華、氷雨、辰三郎、麗子、朱門、千里も私と同じく千年前のことを思い出していた。
夜神の町が見える所で、氷雨は小さな声で呟くように言った。


『不思議なものですね。千年前から現代に至るまで対立関係だった夜神の民達と一緒に過ごすことになるとは思いもしませんでした』
『私もだ。皆、考えることは同じか』


秋声は氷雨の言葉に頷いた。全員の顔を見渡していると麗子が扇子で顔を隠しながら問いかけてきた。

『あの…秋声様? 私達を呼ばれたのには、何か理由がありますの?』
『あぁ…あるよ』
『………』

隣にいる氷見子と氷雨に目を合わせる。2人は秋声が言いたいことを分かっているため、頷くだけであった。

『…秋人達は、過去と向き合い…未来に向けて生きる覚悟を決めた。ならば我々も…過去と向き合わねばならぬと思ったのだ』
『!』

瞳に強い光を携えながら言い放った秋声に麗子を息を飲み込んだ。朱門は1つ頷くと言った。

『私も同じことを考えていました。 良い考えだと思います』
『右に同じくです』
『私もです。まぁ…麗子様にとっては嫌だとは思いますが』
『ちょっと!!千里!!余計なことを言わないでくださる!?』
『事実を言っただけです』

朱門、辰三郎、千里は返事が返ってきた。 麗子は顔を下に向けていたが、千里の言葉に反応し、今にも殴り掛かりそうな勢いだった。朱門が麗子をやんわりと止めていると秋声が心配そうな眼差しを向けていることに気付いた。

『…千年前のことを思い出すのは嫌か? 麗子?』
『……少し…嫌ですわ』
『そうか…』
『ですが…いつかは向き合わねばならぬことだと思っておりましたの』
『!』
『…立ち止まっていたら、秋声様に置いていかれますでしょう…?』
『麗子…』

麗子の言葉に秋声は頷いた。 それと同時に見知った気配が屋上に近付いてくる気配を感じった秋声は振り返った。


「失礼します」
『来たか…秋人…』

屋上に姿を現したのは秋人だった。 秋人は各家の先祖達が集まっているのを見て、驚いていたようだった。 軽く目を見開いた秋人は秋声の前まで行くと尋ねてきた。


「秋声様…? 何か俺に御用ですか?」
『そうだ。過去を乗りこえたそなたには話さねばならぬと思っていたのだ』
「?」


『今から話すのは…千年前の私達の《過去》についてだ』
「!」


秋人は秋声の言葉に目を見開いた。 目を伏せながら秋声は言った。


『私には迷いがあった。 これ以上…そなたに重荷を背負わせることは酷なことではないかとな…』
「………」
『聞いている中で…そなたが嫌悪を感じるならば…すぐにやめ一一』「その心配は無用です。秋声様」
『!』


言葉を遮った秋人を見ると、彼は微笑んでいた。


「俺は…忘れていた《記憶》を思いだしても…今を生きています。 重荷になるからと心配される必要はありません。

俺も貴方も…《1人》ではありませんから」
『……秋人…』


秋人の言葉に秋声は頷くと『手を貸してくれるか?』と声をかけた。疑問に思いながらも、秋人は手を差し出した。掌に鬼灯の花石を握りしめられると秋声は言った。


『今から…我々の過去をそなたに語ろう。 この花石によって、そなたの意識は千年前へと飛ぶ。さぁ…目を閉じるのだ』
「………」

秋人は目を閉じた。 秋声は両手で秋人の手を握りしめると言霊を唱えた。 秋人の体から力が抜け、崩れ落ちそうになるのを秋声が抱き留めると意識のない秋人の顔を見つめていたのであった。


***



一一時は、千年前。 山々には神や妖怪が潜んでいると信じられた時代であった。緑豊かな山も海の恵みも神のおかげだと信じられてきた。
その為妖怪と神と人の距離は非常に近しいものだった。しかし距離が近いということは…その分悲劇も起こりうるということだ。

それでも…懸命に生き続ける人々がいることを私は知っている。だからこそ《鬼灯六人衆》を結集しようと思ったのだ。しかし《鬼灯六人衆》とは名だけが存在していた。氷見子の元に集まったのは3人だけであった。
五十嵐家の初代当主・五十嵐 秋声。 鏡野家の初代当主・鏡野 氷雨。 真戸矢家の初代当主・真戸矢   辰三郞が氷見子に《勇者》として認められたのだ。《勇者》とはその者を褒め称えると共に妖怪に立ち向かっていく戦士のことを指すのだと氷見子が言っていた。


「顔を上げなさい。 勇者達よ」
「………」


氷見子は祭壇への祈りを終え、頭を垂れている秋声達へと声をかけた。 ゆっくりと頭を上げると氷見子は両手に力を込めながら言った。


「鬼神様のお告げでは…3人の勇者が見えました。 3人の勇者の名は『レイコ』『シュモン』『チサト』と呼ばれているそうです」
「…分かりました。探してみます」
「よろしくお願いします」

《鬼灯六人衆》の長と巫女との会話は酷く冷めたものだった。だが、これでいい。私の想いを他者に悟られるよりはいいのだ。名が記された蛍石を袋に納めると赤い光放つ蛍が彼方へと飛び去って行った。
秋声達は立ち上がると蛍を追って、神社を後にした。


「………」


残された氷見子は強く手を握りしめながら、秋声達を見送ったのであった。


これが…私達の始まりの物語。 《夢の始まり》でもあったのだ。




END
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