鬼手紙一過去編一

ぶるまど

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手探りの逢瀬

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【奈多野家*奈多野 美弦編】一第三話一





「あんた…何やったか分かってるんでしょうね?」
「……」

一一奈多野家では重苦しい空気が漂っていた。 玲奈と真樹絵と共に宝鬼の森へ宝探しをしに行ったのだ。 羽華は玲奈から『宝探しの事は絶対に秘密だからね!』と強く言われていた。 親友との約束は守らなければならないと思いつつも、両親には宝鬼の森に行くことは黙っていた。 唯一言ったのは羽星海だけであり『すぐに帰って来るから、お父さんとお母さんには言わないで!』と頼み込んだのだ。 優しい兄は戸惑いつつも、頷いてくれた。
その結果…両親や兄だけでなく、色々な人に迷惑をかけてしまった。
結花と美弦を向かい合わせに、羽華はずっと顔を下に向け黙っていた。 そんな羽華を心配そうな目を向けつつも、羽星海は羽華の手を握っていた。 柱時計の音だけが、沈黙の間に響き渡っていた。 いつまでも黙り続ける羽華に結花はため息をつくと、机を叩いた。

「何とか言いなさいよ!あんたには口がないの!?」
「っ!」
「結花ちゃん…そんなに強く言わなくても…」
「あなたは黙っててください!! 私は羽華と話してるんです!!」
「うーん…」
「羽華…? 話せるかい?」
「………」

長い沈黙を破ったのは結花の怒声だった。美弦は結花を宥めようとするが、強く言い返されてしまい、何も言えなくなってしまった。 羽星海は小声で羽華に聞いてみたが、彼女は首を横に振った。 しかし、涙は抑えることが出来なかった。

「分かったわ…そこまであなたが言いたくないなら、こうしてあげる!」
「結花ちゃん?」
「母さん…? 羽華をどこに連れて行くの!?」
「や、やだ!! 放して!! お母さん!!」

結花は立ち上がると、早足で羽華の元に行くと娘を抱き上げた。 そのまま部屋に行くかと思いきや、玄関の方へ向かって行った。 美弦と羽星海はお互いに顔を見合わせると、結花のあとを追いかけて行った。 羽華は本能的に嫌な予感を感じると、母の腕の中で暴れたが一向に勝てなかった。 何度か羽星海が結花を止めようとしたが、それでも止まらなかった。
そして、玄関まで来ると結花は片手で鍵を開け、扉を開くと羽華を外へと放り出した。

「いたっ!」
「話す気になるまで、家にはいれないから!! しっかりと反省しなさい!! 」
「やだっ!! お母さん!! 開けてよ!! お母さぁぁん!! うわぁぁぁん!! うわぁぁぁん!!」

すぐに扉を閉めると、結花は鍵をかけた。 すぐに羽華は起き上がり、扉に駆け寄って開けようもしたが、開かなかった。 閉め出されたと気づいた羽華は大声で泣き始めた。 その声を無視して台所に戻ると、羽星海が血相を変えて玄関に向かおうとするのを腕を止めて、阻止した。

「放してよ! 母さん!」
「ダメよ」
「くっ…! あそこまでしなくてもいいじゃないか!」
「あなたや美弦さんが!!羽華を甘やかすからいけないんでしょうが!!」
「そ、それは…」
「言い訳なんか聞かないわよ!! ちょっとは私の気持ちも考えなさいよ!!」

「いい加減にしなさい!!」
「一一」
「父さん…」

羽星海と結花の言い争いを聞いていた美弦は、怒声を放った。 結花は言葉を失い、羽星海は目を見開いていた。
初めてだった。 結花は初めて…美弦が怒った所を見た。 いつもは穏やかで優しい夫が怒った事が衝撃的だった結花は瞳に涙が溢れ、流れ出すのを抑えることが出来なかった。
美弦は結花の涙を見ると、切なげで悲しそうな顔をすると額を掻くと言った。

「ごめん…怒鳴ったりして……でも、聞いてほしいんだ」
「……」
「俺が怒るのが苦手なのはね…親にいつも怒られたり、髪を引っ張れたり…虐待を受けてたからなんだ」
「そうなの…?」
「うん。 虐待してたことに気付いてくれたのは、泰ちゃんのお父さんと大婆様だった。 すぐに親を引き離してくれたけど、俺は両親が残した暴力の影響で、人のことが怖くなったんだ」
「……」
「そんな時に…結花ちゃんがね…手作りの四葉のクローバーのペンダントを俺にくれたんだ。 覚えてる?」
「えっ!? お、覚えてます…よ?」

美弦から笑顔で聞かれた結花は、顔を赤くすると、羽星海の後ろに隠れた。 羽星海は母が乙女のようになったことに驚いていた。 美弦は苦笑しながらも言った。

「すごく…嬉しかった。 俺も…誰かを幸せにしてあげたいと思ったんだ」
「……」
「………」
「結花ちゃん…羽華のしたことが許せない気持ちは分かるよ。 だからって外に出すのは、良くないんじゃないかな?」
「……」

美弦の言葉に、結花は羽星海の背中に爪を立てそうになることに気付いて、やめた。 羽星海も後ろにいる母を振り返ると言った。

「僕にも責任があるよ…羽華の面倒は、ちゃんと見るって約束したのに…守れなくて、ごめんなさい…!」
「羽星海…」
「母さんが…家を出て行けって言うなら、僕も出て行くよ」
「ま、待って…!」

羽星海が玄関に向かおうとするのを、結花は慌てて引き止めた。 美弦は事の成り行きを見ているだけで、止めようとはしなかった。 唇を噛み締めると、結花は大きく息を吸って吐くと、無言で玄関へと向かった。 その後を羽星海と美弦が追った。

「うぐ…ひっく…うぅ…! ごめんなさい…ごめんなさい…!!」
「……」

玄関に行くと、羽華が扉にもたれて泣いている姿が映った。 美弦が虐待の話をしたのは羽華にこんな思いをさせたくなかったからだ。 美弦の親がしていたことを私がしているから、みていられなくなってしまったのだろう。 情けない。 そんな事に気付くのに時間が掛かってしまった。
ゆっくりとした動作で、鍵を開けた。 音に気付いたのか羽華の泣き声が止まり、扉から離れた。 扉を開けると、涙の跡が残った羽華と目が合った。

「ごめんね…! 羽華…!!」
「…お母さん…?」

結花は羽華の事を娘を抱き上げると、中へと入り、扉を閉めた。 羽華に頬をすり寄せていると、羽華は恐る恐る聞いてきた。

「もう、怒ってない…?」
「ええ…もう、いいの…あなたに酷いことして…お母さん、悪い人になるところだったの…ごめんなさいね…羽華…」
「…わたしも…ごめんなさい…玲奈ちゃんが…話したらダメって言ったから…」
「そうなの…じゃあ、玲奈ちゃんのお母さんに私が聞いておいてあげるわ。 それで私が納得したら、仲直りしてくれる?」

「ううん! わたし…お母さんの事好きだから、嫌いになんてならないよ!」
「…羽華…」

「えへへ…」と照れくさそうに笑う羽華に、結花は愛おしさが増してくると、羽華の頭を優しく撫でた。 2人のやりとりを羽星海と美弦は優しげな瞳で見つめていたのであった。


END
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