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第4章 一通の手紙と令嬢の定め

魔に落ちる斧

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「死んでくれや」

   ズドン

 斥候の男ーーリューと入れ替わりにガイルが戦斧を振りかぶりティナに迫る。間一髪で反応し後退したティナが寸前まで立っていた場所に戦斧の一撃が地面に突き刺さる。
 轟音を立てて斧が森の地面を陥没させる。


「すごいパワーですね……」
「ちょこまかと!」


 ガイルは突き刺さった斧を抜きすぐさま追撃する。ティナもすぐさま大勢を立て直し正面から迎え撃つ。
 風切り音を立てながら接近する戦斧をティナはしっかりと見切り、剣を合わせる。


「どおらぁっ!」
「きゃぁっ」


 斧を剣の腹で合わせ滑らせるように流すティナ、しかし受け止めた斧のパワーは想像以上であり、腕が痺れる。
 更に流れるように斧が回り、連撃を繰り出す。


 1度目でたたらを踏んだティナを追い詰めるように次々と斧を振り回すガイル。力任せに見えてその攻撃には技があり、おお振りながら隙はなく、受けづらい角度からの攻撃が散りばめられている。


「流石Aランクです……。パワーと技量も桁違いですね」
「お嬢様のくせにやるじゃねぇか、予想以上だぜ」


 おお振りの一撃の衝撃をティナが利用し、大きく後ろに飛ぶことで連撃が中断する。なんとか退避したがそのパワーを受けていた為かティナの息が荒くなる。
 対するガイルは余裕を見せ、まだ小手調べといった感じである。


「お前たち!なぜこんな事をする!これまで長い間我が家のお抱えとして仕事をしてきたじゃないか!」


 そのタイミングを待っていたように、傍観者となっていたオズワルドが怒声を上げる。
 その声にガイルがニヤリと口を歪める。


「別に俺たちは力と金さえあればなんでもいいんだよ。今まではあんたが一番高く俺たちを雇ってくれていた。そして今回依頼してきて奴があんたより羽振りがよかった、ただそれだけの事だ」
「なっ!?」


 ガイルの言葉に瞠目するオズワルド。長年戦力として抱えていたAランク冒険者のまさかの一言にこれ以上の言葉が出てこない。
 と、森の奥からヒュッと音を立てて何かが飛来し、オズワルドの太もも辺りに突き刺さる。


「な、んだ……?」
「あんたは一旦寝ててくれ」


 森から飛来したのは細い針状のものであり、太ももに深く突き刺さっている。どうやらその針には速攻性の麻痺毒が塗ってあるらしく、オズワルドの身体がガクンと揺れ、崩れた。


「お父様!……さっきの斥候ですか」
「ご明察、こういう森みたいな障害物がたくさんある場所はリューの庭だからなぁ」


 先程ガイルと入れ替わりに隠れたリュー。彼が木々の間を縫って移動しながら暗器を飛ばしてきている。気を抜けば毒つきの暗器で行動不能にされるのだろう。


「なるほど、スゥ……『天眼』」


 敵がどこから攻撃するかわからない。それを自覚した時点でティナは集中し、スキル天眼を発動する。
 ティナの目が淡く輝き、発動とともにティナの視界が全方位に拡大する。


「いきます!」


 そして今度はティナの突撃、数的有利と場のアドバンテージを取られている以上このままではジリ貧である。
 また、既に完了の伝令が出ている以上、しばらくは増援など望める様子はない。少なく残った人も「雷神の怒り」の最後の一人、魔法使いと互いに牽制しあっている。


 本来魔法使いは近距離に非常に弱いjobであるが、流石Aランクパーティの一員だけあり、ある程度の近接戦闘は習得しているらしく小剣で対応している。 
 また、速度を重視したのか小型の魔法攻撃を散発して接近を防ぐと共に離脱者を妨害している。


 時間はティナの味方ではない。故に先手必勝で落とすのが最も勝算が高い戦法であった。


 走りながら、ティナは手に持った精霊剣に魔力を流していく。時折狙ったように森の奥から飛んでくる暗器は、天眼で視認し回避する。
 授かった精霊剣は魔力親和性が段違いであり、ティナが流した全てを吸い込んでくれる。


「魔力剣・爆!」
「うぉ!?」


 剣に魔力を流したまま激突するティナ、受け止めようとしたガイルの斧にぶつかる瞬間、込めた魔力を放出する。
 前方に指向性を持たせた魔力の放出は受け止めようとしていたガイルに対し物理的な衝撃となる。


 精霊剣によりムラなく放たれた魔力剣・爆は、ガイルを後ろにのけぞらせるほどの威力を発揮する。


 もちろん使い手であるティナにもそれなりの反動は来ているが、ここを逃す手はない。 
 飛ばされようとする身体をぐっと抑え、強く踏み込む。


 そして剣線。精霊剣が描く軌跡は虹色に光り、ガイルの身体を何本も走る。踏み込みが浅く着ている防具を超えて大きなダメージは通らなかったものの、ガイルの勢いを殺し隙を作ることに成功する。
 そして、ティナは追うように精霊剣を走らせる。


 狙うは足。防御がしづらく、また負傷させる事が出来れば回復さえすれば冒険者生活には支障なく過ごせるし、それでいて行動を止めるには十分である。
 対冒険者の捕縛でよく使われる手である。

 
 ティナは精霊剣を低く滑らせ、のけぞった事で一瞬動きの硬直したガイルの脚の腱を狙う。


「ちぃっ!!」
「届かないっ」


 精霊剣がガイルの足を切る。と思った瞬間、ガイルが無理やり身体を捻り、斧を足と精霊剣との間に挟み入れる。
 ガチィと変な音が響き、ガイルが吹き飛ばされる形で再びティナと距離が開く。


「はぁはぁ……くそっ」
「チャンス、逃しました」


 先手必勝の機会を逃したティナは悔しげに、対するガイルは先程までの余裕は嘘のように息を荒げ、憎々しげにティナを睨む。


「Cランクの分際でっ!Aランク冒険者に対等にでもなったつもりになってるんじゃねぇぞ!」


 そしてガイルは懐から何かを取り出したと思ったらそれを一気に口に含む。
 そして直後、ドクンとガイルの身体が痙攣する。


 筋肉は更に盛り上り、大きな身体は更にもうひと回り大きくなる。
 目は血走ったように赤くなる。


「なっ!?なんですか、それは!」
「ははははははは!これだ!俺が求めるのは圧倒的な力だ!テメェなんて吹き飛ばしてやるよ!」


 そしてガイルの身体が消える。つぎの瞬間、ガイルの姿はブレ、そしてティナの身体が宙に浮いた。



(2話連続の遅れ申し訳ありません!次回はもう少し余裕を持って書きたいです!汗)
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