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初めての街 イーニフ

第15話

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少しの間お茶と他愛もない話をしたあと、完了報告書をもらい、ギルドへ戻る頃にはもう日が暮れていた。カウンターへ顔を出すと、最初に応対してくれた明るい職員さんがいた

「お疲れ様でした!依頼の報告ですね?こちらへどうぞ! …はい、確認しました!ではこれで依頼完了となります!こちらが報酬の銀貨5枚です!お受け取りください!」

「ありがとうございます…この辺りでオススメの宿ってありますか?」

「オススメの宿ですか…森とは反対側、正門の近くに何件か宿があるんですが、その中の『黒の夜明け亭』は、酒場もやっていて、料理も美味しい良いお宿ですよ!噂では勇者一行が入ったオンセンなる風呂があるとか!人で賑わっているかもしれませんが、ヴァルカンさんはマスターのお墨付きですからね、名前を出すと一室用意してくれるかもしれません!」

「黒の夜明け亭か…わかりました!ありがとうございます!行ってみます!」


街の中を進み、正門の近くに職員さんが言っていた『黒の夜明け亭』の看板が見えた。

「ここか…よし、入ろう。」
そう扉に手をかけた瞬間、

ドガァン!と扉を破壊しながら、宿の中から傷だらけの男が吹き飛んで来た。
続けて中から見覚えのある男の人が出て来て、吹き飛んだ男を一瞥してこう言い放った。

「うちの店で恫喝どうかつどころか暴れるとは肝が座ってんじゃねぇか、てめぇ…覚悟はできてんだろうなぁ?あ”ぁ!?」

慌てて回避したが、助けなくてよかったみたいだな…。

「ひぃ!すんません!酒を飲みすぎたんです!もう二度としません!許してください!」

「とりあえず、店の壊れた物の弁償代くらいは置いてってくれるんだろうなぁ?えぇ!?」

「も、勿論ですっ!ほんとすいませんでした!」

そう言うなり、男はお金の入った袋を置いて逃げ去っていく。

「わかったんなら良いんだよ!二度とすんじゃねぇぞ!…おっ?そこにいるのは今朝の森の!どうしてここに?」

「え、えぇ、どうもこんばんは。ラドロさんこそ、どうして黒の夜明け亭から?」

「ん?それはここがうちの家だからな!妻と娘、夜は俺も手伝って酒場と宿をやってんだ。…もしかしてギルドでうちを勧められたか?」

「そうです、まさかラドロさんの経営している宿とは…。」

「そうかそうか!今晩はまだ空室があったはずだ、中へ入ってくれ。」

「良かったです、ありがとうございます!」



中は酒場だからか、様々な人で賑わっていて、素朴そぼくな内装も味がある。

「おい、こっちだ、宿と温泉の受付も酒場のカウンターでやってんだ。えーっと…宿泊台帳は~っと…。」

「台帳はここだよ、あんたはもう…。」
悪態をつきながら奥から恰幅かっぷくのいい女性が現れた。

「あぁ…悪いな、ナタリー。紹介しよう、これがうちのカミさんで、ここの切り盛りをしてる。」

「いらっしゃい!貴方がヴァルカンね!私はナタリー。帰ってくるなり旦那がうるさくしてたから、どんな奴かと思ってたら、なんだい普通の旅人みたいじゃないか!」

「はぁ…こんばんは。昼間はラドロさんにお世話になりました。それはそうと一泊したいんですが…。」

「あぁ、そうだったね!宿泊は温泉・食事付きで銀貨2枚だよ!丁度上の階に空いてる部屋があるからそこへ荷物を置くといいよ!部屋の鍵はこれさ、うちの娘は今買い出しに出ててね、また明日にでも挨拶させるよ!」

「えぇ、お構いなく…。」

「荷物を置いたらまた降りてきな!夕食用意しとくからね!」

「はい!」

部屋に着き、中を見てみると木製だが頑丈な作りで安全に過ごせそうだ。窓から見える街の風景もとても良い。

「お腹空いたな…荷物の整理済んだら下に降りよう…。」


「お、待ってたよ!今日は端肉はじにくのおすそ分けを沢山もらってね!その肉を使ってシチューを作ったんだ!パンと果実のジュースもあるから、よく噛んで食べな!」

「うわぁ!ありがとうございます!いただきます!!」

木の器によそわれたシチューからはミルク、チーズの濃厚な香りがただよってくる。表面には肉から出たであろう油が輝いており、野菜や肉のいろどりが食欲をそそる。
もう我慢の限界だったのですぐさまシチューを一口食べた。
とろとろのシチューには、具材の旨みが凝縮ぎょうしゅくされていて、野菜のえぐみなども一切なく、味に温かみがあって、森で食べたどんなものより美味しかった。
ライ麦のパンも焼き直したのか、ほかほかで、固いものの香ばしい香りがシチューと合わせると絶品だ。
果実のジュースは新鮮な果物を使っているのか、甘み酸味が一気に口の中に広がるものの、後味もなく、口の中をさっぱりとしてくれ、更に料理への手が伸びる。
そこからは、もうただ食べることに集中してしまった。
最高の夕食だった。それだけで今日の疲労が軽くなる思いだった。

「ふぅ…ご馳走ちそう様でした!本当に凄く美味しかったです!また食べたいです!」

「あらあら!ありがとう!下処理に手間をかけた甲斐があるわ!料理には自信があるのよ!うちの名物の温泉入ってゆっくり休んでちょうだい!」

あれよあれよという間に温泉へ案内された。温泉に入りにくるだけの人もいるようで、何人か同じようにリラックスしている人がいた。

端の方で汗を流し、石鹸もあったので全身を洗い流し、温泉に浸かり、身体をほぐす。
料理も温泉も温かいというだけで安らぎになる…。ゴーレム任せとはいえ、森や洞窟では安らぎは遠いものだったから、今やっと休息を得たような気がする。

しばらく入って心地よくなっていたが、逆上せないよう早めに温泉からあがった。

部屋に戻った、今日は濃い一日だった。戦いもそうだが、衝撃的なことも沢山あったし、色んなことを知ることができた。記憶に繋がるようなことは、まだ何もわからないが、積極的に活動していこう。明日は街の外へ出れる依頼があれば良いけど…。

疲労からか、そんなことに頭を巡らしているうちに、寝落ちてしまった。
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