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初めての街 イーニフ

第11話

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「ここだ、中で身分証を発行してもらうぞ。ついてこい。」

ギィと音をたてる扉を押し開き、付き添いの兵士さんが中へ入っていくので、それについて中へ。
中では大きな掲示板の周りに冒険者達が群がっていたようだ、カウンターの中では職員の人たちが黙々と作業をこなしていた。その職員の中には入ってきた自分たちに気づいたのか、こちらの様子を伺う者達もいる。

兵士さんに連れられカウンターへ。

「ようこそ、冒険者ギルドへ!本日はどのようなご用件ですか?」

「こいつの検査と臨時身分証の発行を頼む。事情はこの書簡に書いてある。私は一度兵舎へ戻るので、代わりの者が来るまでここで手続きを進めておいてくれ。」

「承りました!では、まず魔素の検査と精霊の検査をしますね!こちらへどうぞ!」


そういうと建物の奥の部屋へ案内された。
そこは100人くらいは簡単に収まりそうな程の大きな部屋で、部屋の真ん中に大きな装置と、床には意味ありげな模様がびっしりと描かれている。

「ここで検査をします!まずはこちらの装置に手を入れてください!ちょっと指先がチクッとしますが、一瞬ですので安心してくださいね!」

「えぇ…」

恐る恐る手を装置に入れる。すると装置が動き出したようで、差し入れた手が固定され、事前に説明されたように指先への一瞬の痛みと共に温かみが広がっていく。それと同時に装置の中へ傷口から流れた血が数滴垂れた。すると固定されていた手が外れ、ガチャガチャと怪しい音をたてて装置が一人でに動き出した。


「はい!ありがとうございます!では、次はこちらの水の中にある結晶を触っていただけますか?」

まだ装置は動き続けたままだが、そう言われるがままにその中へ両手を突っ込む。
その液体も結晶もなかなかに透き通っているが、結晶へ手が触れた途端に眩しいほどの光を放ち、思わず目を瞑ってしまった。
しばらくすると光は弱くなり、目を開けることができた。結晶は虹色の輝きを保っていたが、やがて元の透き通った結晶に戻った。

ふと目を向けると、目を見開いて驚いた顔のまま固まった職員の姿がそこにあった。

「あの~…これで検査終わったんですか?あれ?もしもーし?」

顔の前で手をぶんぶん振っていると、ようやく、

「…っ!!しばらくここで待っていてください!!すぐ戻りますので!!」

と言い残し、慌てた様子で部屋を出て行った。

しばらくしてバタバタと複数人の足音が響き、バタンと勢いよく扉が開いた。
そこから現れたのは先ほどまで担当してくれていた職員の他に、歴戦の猛者と言うべき大柄な男の人と、いかにも真面目そうなキリッとした女性がいた。

「精霊結晶を虹色に、更にとんでもない光量で光らせたというのは君か?本当か?ギルド登録は済んだのか?」

「えぇ!?」

「落ち着いてくださいギルドマスター、そんな大男に詰め寄られたら話せることも話せませんよ。ところで、もう一度だけその結晶に触ってみてもらってもいいかしら?」

「うっ…わかりました…。」

もう一度触るとさっきと同じように目が開けてられないほど虹色に輝き、やがて収まっていった。

「くっ…なんて光だ…しかし、本当のようだな。ここまで精霊に愛されているとは…。記憶を失う前は英雄でもしていたんじゃないか?身なりはそれっぽくはないが…。」

「…どうなんでしょう…それすらもわからないので、この街で商売でもして情報収集できればと思ったのですが…。」

「なるほど…それにしては身軽過ぎないか?売る者がまだ用意できてないなら、ここで冒険者をするのも良いかもしれないぞ。商人の情報力は確かに高いし、ここでなら商人からの依頼も多くある。顔つなぎにもなるかもしれんぞ。ギルド登録すれば、身分証も仮の物から、ギルドが身分を保証するギルド証というものへ変えることもできる。当然だがそちらの方が信用もあるからな。」

「そうですね。このギルドマスターがいうのも確かに一理あります。本来ならそうそう簡単にはできないのですが、事情も事情ですので、保護観察込みでうちのギルドが請け負ましょう。兵士長にも話を通しておきます。申し遅れました、私はこのギルドで秘書兼、副ギルドマスターを勤めているシノノメと申します。」

「おっと、俺がギルドマスターのガイルだ。ったく…ラドロがわざわざ書状なんて寄越すから、どんなやつかと思いきや…そういうことか、面白いな。で、どうする?登録していくか?検査終わりだからギルドカードもすぐに発行できるが。」

「そうですね…商人と兼業することもできますか?」

「ん?まぁ出来なくはないが…そんなやつはそうそういないぞ。どっちも中途半端になるからな。だがこなせるなら問題はない。説明はそこの職員からしてもらおう。」

「うぇ!?…はい!わかりました!では一度カウンターまで戻りましょう!」

「いや、空き部屋で応対してくれていいぞ。話を聞かれて他の冒険者に目をつけられても厄介だからな。」

「そ、そうですか…でしたらそっちで説明させていただきますね!」

口を挟むまでもなくどんどんと話が進んでいく…まぁ良いんだけど…。
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