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ショートショート
パーソナルライン
しおりを挟む人との距離感が目に見える。
私の生まれ持った能力だ。
パーソナルスペースと呼ばれる他人に近づかれると不快に感じる領域がある、
それが私の目には見えるのだ。
物理的な距離感だけではない、人との会話中に、それ以上踏み込まないでほしいと相手が思っているときには、赤いラインが出現して私に警告する。
この能力のお陰で人と喧嘩したり険悪になったり、一方的に嫌われたりといった経験がなかった。
私はこの能力を気に入っていたし、とても信頼しきっていた。
2年程前の事だ。
生まれて初めて赤いラインが見えない人に出会った。
彼女を同じカフェで何度か目撃し、いつのまにか私もそのカフェの常連になっていた。
何度目かのときに私から声をかけて仲良くなり、猛アタックの末に交際に発展した。
正直タイプという訳ではなかった。
共通の趣味も無ければ、価値観も多分合わない。
ただ、赤いラインが見えない。
その一点だけに惹かれていたのだ。
この人なら私の全てを受け入れてくれると感じていた。
ところがだ、付き合ってからというもの
どうも喧嘩ばかりなのだ。
確かに私の能力が通用しない相手であるので多少の揉め事なんかは覚悟していた。
むしろ、私はそんな事がしてみたかった。
しかし、ここ最近は明らかに許容外だ。
口を開けば喧嘩になる始末。
たった今も口論となり、彼女の家を飛び出て、こうして遠くの公園まで一人歩いてきた訳だ。
能力に頼り過ぎていたのか、
人との距離感ってこんなにも難しいものなのか、
そもそも、何で彼女のは目に見えないんだろうか、、、
ベンチに座って色々と考える。
ふと足元に目をやると、見慣れた赤いラインが見えていた。
パーソナルラインの主を探すが、
近くに人は見当たらない。
せいぜい領域が広い人物でも2メートルくらいが最大だ。
誰か近くにいるはずなんだが、、、
だが、そんな事を気にかけている心の余裕はない。
彼女としっかり話し合わなくては。
一歩一歩、来た道を戻る。
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