相川くんと吉田くん

高禄あみ

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噂の吉田くん

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 ──それから、彰は急速に吉田と仲良くなっていった。

 朝の自習時間、休み時間、放課後など、一緒にいられる時には常に行動を共にした。

 プライベートでも彰は吉田と過ごすようににり、他の誘いを断るほどに優先して吉田と一緒にいた。

 もちろん、周りからは付き合いが悪いなどと言われたけれど、彰は気にしなかった。

 今まで誰とでも平等に仲良くしていた彰だが、今は吉田一人いれば十分で、そんな自分に彰は驚く。


(人間って、変われば変わるもんなんだな)


 遊びは優先的に吉田と。休み時間は吉田の席で一緒に喋り。

 そんな彰に、仲のよい友人達は何があったのかと目を瞠った。

 何せ、黒マリモと異名高い吉田と、明るく人気者の彰の組み合わせだ。皆の注目を集めるのには十分だった。

 今まで彰が仲良くしていた友人達は、彰を吉田に取られた、と口を尖らせ不満を訴える。

 それを上手く宥めながら、彰は静かに生活の変化を感じていた。


(──もしかして、これが、し、親友ってやつなのかな…?)
 

 親友と心の中で唱えると、温かいものが胸に広がり、思わず口元を綻ばせる。

 斜め後ろの方に座る吉田をそっと盗み見て、彰はにやけた。


(うわ、俺キモイな…)


 すぐにハッとして、慌てて表情を引き締めるが、それを吉田に見られていた様でくすりと笑われた。 


(うわぁ、はずい……!)


 絶対今の顔キモかった! と内心のたうち回る彰は、慌てて前を向く。

 黒板の前では、数学の教師が教科書を片手に授業を進めていた。

 彰は羞恥心を抱えたまま、気を取り直して授業に集中しようとノートにシャーペンを走らせるが、ちっとも集中できない。

 後ろでは吉田が、そんな彰の背中を見詰めていた。






 そして、そんな毎日を繰り返し、季節は初夏に移り変わっていった。

 もうすぐで夏休みが始まろうとするこの時期、蝉の鳴き声と暑さが彰を攻め立てていた。


「──あーっ、もう、うるせーな! つうか暑い!」


 ──昼休み。


 吉田とお昼を食べていた彰は、第2ボタンまでだらしなく開けたシャツをぱたぱたと仰ぐ。

 気温が30℃を超える猛暑に、彰はうんざりしてうなだれた。

 そんな彰に、コロッケパンを手にした吉田が宥める様に笑いかける。


「まあ、しょうがないよ。今クーラー壊れてるんだし。扇風機があるだけまだマシじゃない?」
「でも、扇風機じゃ足んないって! 風ぬるいし!」


 そう言って悲鳴を上げた彰は、次に吉田に目を向けた。


「つうかさ、吉田暑くねぇの? その髪蒸れない?」


 見てるだけで暑いとげんなりする彰に、吉田は苦笑する。 


「うん、かなり暑いけど…」
「じゃあカットする? うちの親戚に美容師やってる人いるから、頼めるよ。多分、無料で切ってくれると思うけど」


 そう言って吉田の長い前髪を払いのけようとするけれど、吉田にすいとかわされてしまった。

 まるで触らないでくれ、と言われてる様な仕草に、ツキリと胸が痛んだ気がした。

 けれども、すぐに吉田は顔を見られるのが苦手なんだと思い出す。

 前にも一度、吉田の素顔を覗こうとして拒絶されたことがあった。

 何でも吉田は顔がコンプレックスらしく、人に、特に彰には見られなくないらしい。

 理由は教えてくれないけれど、とにかく顔だけは見られたくないそうだ。

 それを思い出した彰は、「ごめん」と謝って、慌てて手を引っ込めた。


「大丈夫。僕こそ、ごめん」


 何に対してのごめんなんだか、吉田はしょんぼりと言う。

 彰は、そんな吉田を見て苦笑した。


「でも、やっぱりその髪は暑いし衛生上もどうかなって思うから、しばったりしてみる?」


 吉田の髪は項を覆うほど伸びていて、全体的にもさもさしている。

 正直、夏場には近寄って欲しくない。

 吉田もそれには同感な様で、コロッケパンを一口咀嚼しながら頷いた。


「そうしようかなあ。大分暑い」


 うんざりした様に伸び放題の髪をいじる。
 
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