13 / 15
噂の吉田くん
13
しおりを挟む彰は、吉田と本屋の前で分かれて、帰路に着いていた。
何度思い出しても、今日のチャック事件が恥ずかしい。
(もう最悪だよ……)
恥ずかしいし、吉田に格好悪いところを見せてしまった。
うう……と彰が弱っていると、不意にスマホが鳴った。
(誰だ……?)
訝しみながらスマホをズボンのポケットから取り出すと、ディスプレイには“吉田”と表示されていた。
「もしもし?」
『あ、もしもし、相川君?』
通話越しの吉田の声に何だかドキドキしながら、彰は落ち着いた声を出す。
「どうした?」
『いや、別に用があるわけじゃないんだ。ただ……その、今日楽しかったって言おうと思って』
「……お、おう。おれも……まあ、最後、ちょっとはずかったけど」
チャック事件のことを思い出し、苦笑いする彰に吉田も気付いた様で、吉田も小さく苦笑した。
『そうだね。いろいろあったけど……』
「……」
でも、ありがとう。楽しかった。
そう言われると何だか自然に笑みがこぼれてきて、ほこほこと胸に温かいものが広がっていった。
『また一緒に遊べるといいな。あ、もちろん、相川君がイヤじゃなかったらだけど』
照れくさそうに言った後、ハッとした様に慌てて付け足す吉田に、彰は笑う。
「イヤなワケないじゃん。またどっか行こうよ。今度はメシでも」
『う、うん』
嬉しそうな声を出す吉田は、きっと勢い良く頷いているに違いないと、彰は容易に想像できた。
帰っている間、結局吉田とはそのまま話し続けていた。
他愛ない、ごく普通の友人同士の会話。
「……ははっ、何だよそれ。……うん、……じゃあ、また」
通話を切って、ケータイをパクリと閉じる。
彰は、ふと思った。
(1ヶ月前の俺だったら、吉田とこんな風に話してるなんて夢にも思ってなかっただろうなぁ)
そう考えると不思議で、彰は改めて人生は何が起きるかわからないなと思った。
歩けば悪い意味で注目される。
代名詞が“黒マリモ”と“オタク”の吉田。
以前までは、きっと吉田のことを見かけたら引いていただろうし、ましてや友達なんて考えられなかっただろう。
黒くてもじゃもじゃした吉田。だけど今は苦手だなんて思わない。思えない。
むしろ、吉田とこうやって仲良くできていることが心地良いとすら思い始めている。
「ほんとに、何が起こるかわかんねぇなぁ」
ぼやき、彰は空を見上げた。
まるで絵の具を垂らしたような、朱く染まった夕焼けが、彰を優しく包み込んだ。
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ガテンの処理事情
雄
BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。
ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる