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海の王国

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『前に入ったとき、たくさん文字が書かれた紙があったの。たしかこの部屋よ』
 シュナがひとつの扉の前で立ち止まる。扉の上には、『ライブラリルーム』とある。
「たしかに図書館みたいだね」
「よし、行こう!」
 早速入ろうとするけれど……。
 ぐぬぬ。え、なにこの扉。
「ものすんごい重いんだけど……!?」
 歯を食いしばって力の限り扉を押すけれど。
 全然、まったく、ビクともしない。
 こうなったら魔法だ。私はステッキを取り出して、サッと振るった。
「マジカル・ロジカル! 扉よ、開けーっ!」
 ――ギィィ。
 水煙を上げて、ゆっくりと扉が開いていく。
「開いたっ!」
 光が差し込み、私たちは目を細めた。
 重たいドアの向こう側には、螺旋状の書棚が天高くどこまでも続いていた。
 本棚には階段は着いていない。沈没した影響で壊れてしまったのか、すべて一階部分に落ちてしまっていた。
 それにしても……。
 すいっと中に入る。
 とにかく、見渡す限り、本、本、本!
 ものすごい数の蔵書だ。
「わぁっ!」
 立派過ぎる図書館に、私もドロシーも驚きの声を上げた。
 図書館といえば少し独特な匂いがするけれど、ここは沈没船。水の中。匂いはしない。
 太陽の光に透けて、プランクトンたちがまるで埃のように煌めいている。
「ほわぁ。これ、学校の図書館よりすごいんじゃない……?」
『本当に、この中にグラアナの情報があるの?』
「うーん、あるかもしれないし、ないかもしれない。探してみないことには分からないけど。まっ! やるだけやってみよっ!」
 一番下の本棚の端から、沿って泳ぎながら海洋、マーメイド、魔女関連の本を探してみる。
 むむむ……。目がチカチカする。
 おとぎ話、海洋生物の論文、古文書、民俗学の教材……。
 並んでいるのは、豪華な装丁の表紙の本ばかり。
 中を開いても、古代の文字だったり一部破れていたりして全然読めない。
 こんなのいちいち魔法で直して読み直してたらキリがないよ~!
「こんなとき、ノアくんがいてくれたらなぁ……」
 ノアくんは本にも詳しいから、聞くとなんでも知ってるんだよね。やっぱりふたりと協力するべきだったかな……。
 しかしそのとき、ダリアンの高笑いが蘇った。
 ……いや! ダリアンをぎゃふんと言わせるためにも、ここは私たちだけで頑張らなくちゃ!
 絶対見直させてやるんだから!
 私は決意を新たに目の前にあった本を抜き取る。
「あっ、見てみて、火花ちゃん!」
 手分けして本を探していると、突然ドロシーが声を上げた。
「えっ、なに!? なにか見つけた!?」
 わくわくしてドロシーの元へ行くと、ドロシーが一冊の本を掲げてみせる。
 なになに……。
 表紙には、英語表記で『ザ・ラストブック』とある。
「ザ・ラストブック……?」
「この魔法の書、五世紀前に前王朝と現王朝とのごたごたの中で紛失したって話のめちゃくちゃ貴重なやつじゃない!?」
「え? そ、そうなの?」
 私にはなにがなんだかさっぱりだけど……って、マーメイド全然関係なくない!?
「ドロシー!! ちょっとは真面目に……」
 お説教しようと口を開くけれど、
「きゃーっ! こっちにはアンティーク魔道具事典!」
 ドロシーはあっちこっちの書棚に張り付き、本を漁りまくっている。
 あー……ダメだこりゃ。そういえば、ドロシーも本好きだったっけ。
 前ノアくんと月刊誌の小説の話で盛り上がっていたことを思い出す。
「あーっ!」
 ドロシーが甲高い叫び声を上げた。
「こ、今度はなに!?」
「これってもしかして、かの有名なゲラウェイが一番最初に書いたって噂の『ブルーマーメイド』!!」
「ゲ、ゲラウェイ?」
 なにそれ、誰それ。
「すごいすごい! なんて素敵な場所なの……私もうここに住みたい!」
 ドロシーのテンションは留まることを知らず、頂点を突き抜けてさらに上がっていく。
 ちょっと……うん。ついていけない。
 まぁ、本にあんまり興味もない私でさえビックリするほどだし、本好きのドロシーにとってこの空間は夢のような世界なんだろうね。
「シュナちゃん、すごいよ! ここにある本、めちゃくちゃレアなものばっかだよ! 私、いくつか欲しいものがあるんだけど、もらっていってもいいかなっ!?」
 に、してもですよ……。
『もちろんいいけど……』
 こくんと頷いたシュナだけど、若干困った顔をしている。
「いいってさ」とシュナの言葉を代弁する。
「ありがと~!!」
『ねぇ火花。ドロシーって、こんなに明るい子だったのね。少し意外だわ』
 と、シュナは私を見て言った。
「あはは。ドロシーは好きなものを前にしたり、怖過ぎて限界突破すると我を忘れるんだ。たまに毒舌になるからシュナも気を付けるんだよ。私なんてバカバカ言われてばっかり……」
『まぁ、そうなんだ』
 シュナはくすくすと笑っている。
「……でも、いい子なんだよ。すっごく」
『ふふ。それは見ててわかるよ。……とっても仲良しなのね、ふたりは』
 見ると、シュナは少し寂しげにドロシーを見つめていた。
「あ……もちろん、シュナのことも大好きだよ!」
 笑顔で言うと、シュナは嬉しそうに微笑んだ。
『ありがとう。私も火花とドロシーのこと、大好きよ』
 大好きだって。
 きゃ~なんか照れる。
「火花ちゃんっ! こっち来て~」
「はいはい~」
 仕方ないなぁ、もう。
「シュナも行こう」
『えぇ』
 私とシュナは苦笑して、ドロシーのもとに向かった。
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