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第4話
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翌日。
いよいよ、私に対するいじめが始まった。
内容は、クラスメイトの女子による無視だ。
挨拶しても返ってこない。
教室に入った瞬間、ピリッと空気が張り詰める。私に挨拶を返していいのかと問うような、視線での会話があちこちでされ、私は俯いた。
……あぁ、この感じは。
中学の頃と同じだ。私が、クラス中に無視されていた頃の……。
重い空気に耐えられず、視界が滲む。だけど、ダメ。泣いちゃダメ。だって、この状況を後悔したら、昨日の私が可哀想だ。
そのときだった。
「おはよー! 楓ちゃん!」
雲の切れ間からすっと射し込む、太陽の光のような声が響いた。
「!」
弾かれたように顔を上げる。そこには、笑顔の七南がいた。
教室に入るなり、七南は私に大きな声で挨拶をして、駆け寄ってくる。
「おはよ? 楓ちゃん」
となりの席に座り、もう一度私を見た。硬直したままの私を見て、首をこてんと傾げる。
「あ……七南。おはよ」
「ねぇねぇ、昨日のドラマ見た!? 私我慢できなくてリアタイで見たんだけどさぁ、あの展開はなくない!? ねぇ!」
「えっ……? あ……」
困惑していると、七南は再び首を傾げる。
「どしたの、楓ちゃん」
どうしたのって……。
この子はどれだけ周りを見ないのだろう。
「……あの、ちょっと、いい?」
私は小声で七南を呼び、教室を出た。人気のない中庭に入ったところで、私は七南を振り返る。
「あのさ、教室ではあんま私に話しかけないほうがいいよ」
「え? どして?」
「どして、って……七南、あの空気感じなかったの? 私、みんなに嫌われてるの。無視されてるの。だから……」
「だからなに?」
「え……」
あまりにまっすぐな瞳で見返され、息が詰まりそうになる。
「みんなが楓ちゃんをどう思ってるかなんてどーでもいいよ。私は好きだから話しかけてるんだよ、楓ちゃんに」
「……でも、私と関わったら、七南まで無視されるよ」
「べつにいいけど? だって、私が仲良くしたいのは楓ちゃんだもん」
七南はそう言って、私の手をぎゅっと握った。
「…………七南は、強いね」
私も七南のように生きられたら、どれだけ……。
「えーそぉ? ふつうじゃない?」
ふつうじゃない。少なくとも、私にそんな度胸はない。今も、昔も。
「……私、中学のときいじめられてたの。っていってもなにかされるとかじゃなくて、ただ無視されてただけなんだけど……だけど、あの空気は今もまだ怖い。だから高校では必死に居場所作ってたんだ。それで……自分のために七南のこと仲間はずれにしようとした……ごめん」
本当にごめんなさい。そう言って、私は七南に深く頭を下げた。
「……ねぇ、楓ちゃんは私のこときらい?」
七南の問いかけに、私は勢いよく顔を上げて、ぶんぶんと首を振る。
「きらいじゃない! 七南が転校してきたとき、すごく嬉しかったもん」
小さな声で言うと、七南は「なら許す!」と笑った。
そして、
「こんなにたくさんのひとが集まってるんだから、合わない子がいるのなんて当然だよ。そんな子たちにいちいち合わせてたらキリがなくない? ひとりに合わせたらどうしたってほかの子から反感買うんだし。そんなことに神経使うなら、私は好きな子とだけ遊んで笑ってたいな。実際今私、楓ちゃんと話してるだけですっごい楽しいもん!」
「……七南……」
私は込み上げるものをどうにか抑えながら、七南を見る。
「無理に全員と仲良くならなくてもいいのかな……? それでも私の居場所は、ある?」
「あるよ! 私が楓ちゃんの居場所になる! 楓ちゃんのことが大好きだから!」
屈託なく笑う七南は、あの頃と変わらず無邪気で可愛くて。その笑顔を見ていたら、私の中で澱んでいたなにかが溶けて流れていくようだった。
いよいよ、私に対するいじめが始まった。
内容は、クラスメイトの女子による無視だ。
挨拶しても返ってこない。
教室に入った瞬間、ピリッと空気が張り詰める。私に挨拶を返していいのかと問うような、視線での会話があちこちでされ、私は俯いた。
……あぁ、この感じは。
中学の頃と同じだ。私が、クラス中に無視されていた頃の……。
重い空気に耐えられず、視界が滲む。だけど、ダメ。泣いちゃダメ。だって、この状況を後悔したら、昨日の私が可哀想だ。
そのときだった。
「おはよー! 楓ちゃん!」
雲の切れ間からすっと射し込む、太陽の光のような声が響いた。
「!」
弾かれたように顔を上げる。そこには、笑顔の七南がいた。
教室に入るなり、七南は私に大きな声で挨拶をして、駆け寄ってくる。
「おはよ? 楓ちゃん」
となりの席に座り、もう一度私を見た。硬直したままの私を見て、首をこてんと傾げる。
「あ……七南。おはよ」
「ねぇねぇ、昨日のドラマ見た!? 私我慢できなくてリアタイで見たんだけどさぁ、あの展開はなくない!? ねぇ!」
「えっ……? あ……」
困惑していると、七南は再び首を傾げる。
「どしたの、楓ちゃん」
どうしたのって……。
この子はどれだけ周りを見ないのだろう。
「……あの、ちょっと、いい?」
私は小声で七南を呼び、教室を出た。人気のない中庭に入ったところで、私は七南を振り返る。
「あのさ、教室ではあんま私に話しかけないほうがいいよ」
「え? どして?」
「どして、って……七南、あの空気感じなかったの? 私、みんなに嫌われてるの。無視されてるの。だから……」
「だからなに?」
「え……」
あまりにまっすぐな瞳で見返され、息が詰まりそうになる。
「みんなが楓ちゃんをどう思ってるかなんてどーでもいいよ。私は好きだから話しかけてるんだよ、楓ちゃんに」
「……でも、私と関わったら、七南まで無視されるよ」
「べつにいいけど? だって、私が仲良くしたいのは楓ちゃんだもん」
七南はそう言って、私の手をぎゅっと握った。
「…………七南は、強いね」
私も七南のように生きられたら、どれだけ……。
「えーそぉ? ふつうじゃない?」
ふつうじゃない。少なくとも、私にそんな度胸はない。今も、昔も。
「……私、中学のときいじめられてたの。っていってもなにかされるとかじゃなくて、ただ無視されてただけなんだけど……だけど、あの空気は今もまだ怖い。だから高校では必死に居場所作ってたんだ。それで……自分のために七南のこと仲間はずれにしようとした……ごめん」
本当にごめんなさい。そう言って、私は七南に深く頭を下げた。
「……ねぇ、楓ちゃんは私のこときらい?」
七南の問いかけに、私は勢いよく顔を上げて、ぶんぶんと首を振る。
「きらいじゃない! 七南が転校してきたとき、すごく嬉しかったもん」
小さな声で言うと、七南は「なら許す!」と笑った。
そして、
「こんなにたくさんのひとが集まってるんだから、合わない子がいるのなんて当然だよ。そんな子たちにいちいち合わせてたらキリがなくない? ひとりに合わせたらどうしたってほかの子から反感買うんだし。そんなことに神経使うなら、私は好きな子とだけ遊んで笑ってたいな。実際今私、楓ちゃんと話してるだけですっごい楽しいもん!」
「……七南……」
私は込み上げるものをどうにか抑えながら、七南を見る。
「無理に全員と仲良くならなくてもいいのかな……? それでも私の居場所は、ある?」
「あるよ! 私が楓ちゃんの居場所になる! 楓ちゃんのことが大好きだから!」
屈託なく笑う七南は、あの頃と変わらず無邪気で可愛くて。その笑顔を見ていたら、私の中で澱んでいたなにかが溶けて流れていくようだった。
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