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「私は君に名を呼ぶ事を許していない。ギーズ先生と呼ぶように。この注意も何度目なんだか……。学院内であるからこそ、講師である私に話しかけることを許されているが、子爵家令嬢が公爵家継嗣たる私に馴れ馴れしくしてもらっては困る。私は出向してきた臨時講師故に学院に籍を置く他の先生方とは立場が違う。そもそも魔術指導以外に生徒である君と関わる理由は無い。分かったらここから立ち去り給え。私は今、大事な人と話をしている」
「でも、私、スタニスラス様が……」
「名前を呼ぶなと言っている!」
ピンク頭さんはスタン様の言っていることを聞く気が無いんだろうか。ピンク頭さんがスタン様のお疲れの原因だという事は聞いていたけれど、この短い時間で私にもよくわかった。
目を潤ませてスタン様を見つめていたピンク頭さんは、私を一睨みした後で足音荒く去っていった。
「本当にしんどい……」
「お疲れ様です、スタン様。癒しが必要ですか?」
抱きしめると癒し効果が増えるようなので、両手を広げて問うてみた。
「カシ……」
同じく両手を広げたスタン様を、テオさんが物理的に止めた。襟首を掴んだのだ。外だからとさきほどまで従者然としていたのにいいんだろうか。
「お前、いい加減にしろ。注目集め過ぎ。カサンドラ嬢の醜聞になるだろうがっ」
テオさんはそのままスタン様の体の向きを変えて背中を押し、私を送ると言って門の方へとエスコートをしてくれた。スタン様を癒やせなかったけれど大丈夫かな。
「カサンドラ嬢も、もうちょい周りの目を気にしてくれないか」
テオさんが言う。
「ごめんなさい。それはできません。スタン様とお父様以上に優先するものはありませんから、周りの目とかはどうでもいいです」
「スタンもそうだけど、あんたも大概だよな……」
テオさんは必要以上に私に近づかない。エスコートと言っても手を取ったり背に手を当てたりはしない。初めて会った時から三年経っても、私はまだ彼に対する苦手意識が消えない。悪い人ではないことを知っていても、ふとした時に体が強張ったり震えたりするのだ。テオさんは「殺されかけた記憶があるんだから当たり前だ」と言って、距離を取りつつも忠告してくれる親切な人だ。
「テオさんはどうしてスタン様についているのですか?あの時は第四騎士団に入りたいと言ってましたよね?」
「あー、あの後さぁ、ギーズ家に連行されて、剣でスタン様にぼっこぼこにされたんだよ。自分の半分しか生きていない五歳の子どもにだぜ?いくら貴族で教育受けているからって言っても、まだたったの五歳だったんだぜ?俺の自信もプライドも一緒にぼっこぼっこのめっためたにされたさ」
しかも、とテオさんは続ける。
「後々、前世の記憶があると聞かされて、そのせいで経験値が違うのかと思っていたら、前世の記憶が戻ったのは七つの時だっていうじゃねぇか。つまり、俺はただの五歳の子どもにしてやれられたわけだ。天才という人種を見てさ、自分の身の程を知って、でもこの方の傍にいれば俺の夢が実現する光景を見れると思ったんだよ。自分で出来なくてもさ」
スタン様は剣もお強いのか、凄い。やっぱり格好いい。
「それなのに、スタン様は騎士団じゃなく地味な魔術省に入るしさぁ。俺の粉々にされた自尊心と夢の責任をどう取ってくれるんだって思ったさ。しかもやっぱり天才で、飛び級を重ねて14の時には学院を卒業するわ、魔術省がもろ手を挙げて歓迎するわで。もっとも、魔術省を選んだのは先生に影響されてだからさ、しょうがねーかなぁと。まあ、どんな道を選んだスタン様でも、おそばを離れるつもりは無いけどな」
「ふふふっ。つまりスタン様の事が大好きだからお傍にいるという事ですね。私たち、おんなじですね」
「……カサンドラ嬢と一緒にはされたくねぇなぁ」
おんなじだよ。私もスタン様が大好きだからお傍にいたいんだもの。ピンク頭さんが何と言っても。
魔術省へ戻りスタン様の伝言を伝えると、ジェシカ先輩は目に見えてがっくりと肩を落としていた。
「カサンドラちゃん、直したらもう一回、お使いを頼むわ」
「はい、喜んで」
「スタン君はまさか、カサンドラちゃんに会いたいがために粗を探して差し戻しにしたんじゃないでしょうね」
スタン様がそんな事をするとは思えないので「まさか」と首を振った私に、ジェシカ先輩はにやりと笑って肩をすくめ、仕事に戻っていった。ジェシカ先輩が書類の手直しをしている間に私も仕事に手を付け始めたけど、修正はすぐに終わったようで、またお使いに出ることになった。
「さっきのは訂正する。さすがスタン君だわ。私が見落としていた部分をしっかりチェックしてくれて助かった」
「そうです、スタン様はすごいんです!」
「カサンドラちゃんのスタン君への愛はぶれないねー」
「はい、一生ぶれません」
「……揶揄うとこっちにダメージが来るってどうなのよ。私は独り身で婚約者もいないってのに」
さっさと結婚しちゃえばいいのに、とジェシカ先輩に送り出されたが結婚なんてとんでもない。私はスタン様に恩返しをするために、お役に立つためにいるのだから。
「でも、私、スタニスラス様が……」
「名前を呼ぶなと言っている!」
ピンク頭さんはスタン様の言っていることを聞く気が無いんだろうか。ピンク頭さんがスタン様のお疲れの原因だという事は聞いていたけれど、この短い時間で私にもよくわかった。
目を潤ませてスタン様を見つめていたピンク頭さんは、私を一睨みした後で足音荒く去っていった。
「本当にしんどい……」
「お疲れ様です、スタン様。癒しが必要ですか?」
抱きしめると癒し効果が増えるようなので、両手を広げて問うてみた。
「カシ……」
同じく両手を広げたスタン様を、テオさんが物理的に止めた。襟首を掴んだのだ。外だからとさきほどまで従者然としていたのにいいんだろうか。
「お前、いい加減にしろ。注目集め過ぎ。カサンドラ嬢の醜聞になるだろうがっ」
テオさんはそのままスタン様の体の向きを変えて背中を押し、私を送ると言って門の方へとエスコートをしてくれた。スタン様を癒やせなかったけれど大丈夫かな。
「カサンドラ嬢も、もうちょい周りの目を気にしてくれないか」
テオさんが言う。
「ごめんなさい。それはできません。スタン様とお父様以上に優先するものはありませんから、周りの目とかはどうでもいいです」
「スタンもそうだけど、あんたも大概だよな……」
テオさんは必要以上に私に近づかない。エスコートと言っても手を取ったり背に手を当てたりはしない。初めて会った時から三年経っても、私はまだ彼に対する苦手意識が消えない。悪い人ではないことを知っていても、ふとした時に体が強張ったり震えたりするのだ。テオさんは「殺されかけた記憶があるんだから当たり前だ」と言って、距離を取りつつも忠告してくれる親切な人だ。
「テオさんはどうしてスタン様についているのですか?あの時は第四騎士団に入りたいと言ってましたよね?」
「あー、あの後さぁ、ギーズ家に連行されて、剣でスタン様にぼっこぼこにされたんだよ。自分の半分しか生きていない五歳の子どもにだぜ?いくら貴族で教育受けているからって言っても、まだたったの五歳だったんだぜ?俺の自信もプライドも一緒にぼっこぼっこのめっためたにされたさ」
しかも、とテオさんは続ける。
「後々、前世の記憶があると聞かされて、そのせいで経験値が違うのかと思っていたら、前世の記憶が戻ったのは七つの時だっていうじゃねぇか。つまり、俺はただの五歳の子どもにしてやれられたわけだ。天才という人種を見てさ、自分の身の程を知って、でもこの方の傍にいれば俺の夢が実現する光景を見れると思ったんだよ。自分で出来なくてもさ」
スタン様は剣もお強いのか、凄い。やっぱり格好いい。
「それなのに、スタン様は騎士団じゃなく地味な魔術省に入るしさぁ。俺の粉々にされた自尊心と夢の責任をどう取ってくれるんだって思ったさ。しかもやっぱり天才で、飛び級を重ねて14の時には学院を卒業するわ、魔術省がもろ手を挙げて歓迎するわで。もっとも、魔術省を選んだのは先生に影響されてだからさ、しょうがねーかなぁと。まあ、どんな道を選んだスタン様でも、おそばを離れるつもりは無いけどな」
「ふふふっ。つまりスタン様の事が大好きだからお傍にいるという事ですね。私たち、おんなじですね」
「……カサンドラ嬢と一緒にはされたくねぇなぁ」
おんなじだよ。私もスタン様が大好きだからお傍にいたいんだもの。ピンク頭さんが何と言っても。
魔術省へ戻りスタン様の伝言を伝えると、ジェシカ先輩は目に見えてがっくりと肩を落としていた。
「カサンドラちゃん、直したらもう一回、お使いを頼むわ」
「はい、喜んで」
「スタン君はまさか、カサンドラちゃんに会いたいがために粗を探して差し戻しにしたんじゃないでしょうね」
スタン様がそんな事をするとは思えないので「まさか」と首を振った私に、ジェシカ先輩はにやりと笑って肩をすくめ、仕事に戻っていった。ジェシカ先輩が書類の手直しをしている間に私も仕事に手を付け始めたけど、修正はすぐに終わったようで、またお使いに出ることになった。
「さっきのは訂正する。さすがスタン君だわ。私が見落としていた部分をしっかりチェックしてくれて助かった」
「そうです、スタン様はすごいんです!」
「カサンドラちゃんのスタン君への愛はぶれないねー」
「はい、一生ぶれません」
「……揶揄うとこっちにダメージが来るってどうなのよ。私は独り身で婚約者もいないってのに」
さっさと結婚しちゃえばいいのに、とジェシカ先輩に送り出されたが結婚なんてとんでもない。私はスタン様に恩返しをするために、お役に立つためにいるのだから。
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