スライムの恩返し

柴 (柴犬から変更しました)

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 わたしは人の領域に入っていたのか。人の住む地の傍は避けようとしていた筈なのに、失敗してしまった。森の奥へ奥へとどんどん進んでいくと森から外れてしまう事は知っていたのに。


「ああ、そうしよう。小さなスライムくん、人に見つからないように気をお付け。君たち”森の掃除屋”がいるから森の美しさが保たれているということを知っている人間は多いが、それでも魔石を狙われたり練習と称して殺そうとする人間はとてもとても多いからね。そんな輩を避けて、これからも森を宜しくね」


 ”森の掃除屋”

 これは初めて聞く言葉だ。人という種族はスライムをどう扱ってもいい魔物としか見ていないのだと思っていた。

 なんて嬉しい呼び名だろう。


 スライムは生き物を襲わない。糧とするのは死した獣や魔物、落ちた果実などだ。それをして”森の掃除屋”と呼ばれるのは、ただ生きているだけで褒めてもらえるような心持ちになる。存在を許されている気持ちになる。


 スタニスラス様、ありがとう。わたしはこれからも森を綺麗にするために頑張る。この小さな体ではあまり多くを食べられないけれど、それでも頑張る。わたしを助けてくれたスタニスラス様が喜んでくれるなら、いっぱいいっぱい食べる。


 去っていくスタニスラス様と大きな人間たちを見送って、わたしは森の奥へと戻る。

 その途中で、スライムなどどう扱ってもいい魔物としか見ない人間に見つかることも知らずに、幸せいっぱいの気持ちで。




 ◇◇◇




 私は昔、スライムだった。


 スライムとして死んだあとその記憶を持ったまま人間として生まれた。せっかくスタニスラス様に命を救ってもらったというのに、私は森の奥へ戻る途中で人間に殺されたのだ。


 あの時の私は小さな弱い生き物だったが、今も実はそうだ。


 貧しい村の貧しい夫婦。その夫婦の五番目の子として生まれた私は、生まれたときから体が小さかった。それは母親が栄養不足だったからかもしれないし、ただ単に私という個体が弱かったせいかもしれない。

 10歳になってもやはり小さいままだ。


 物心ついたときにはもう、人間として生まれる前はスライムだったことを自覚していた。大きくなってから「生まれ変わり」という言葉を知ったけれど、それはお兄ちゃんが死んだときに「いつかどこかで生まれ変わって、今度は幸せになって」というお母さんの言葉からだったので、私は「幸せになるために生まれ変わった」のだと思い込んだ。7歳の時だった。


 10歳の今はそうは思っていない。あれはお母さんが自分を慰めるために吐いた言葉だと理解したからだ。なら、私は何故生まれ変わったんだろう?


 11歳になっても12歳になってもその疑問に答えは出ないまま。生まれ変わりってなんなんだろう。

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