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同族の中でわたしは異質だった。周りの仲間はなぜ殺されるのか、なぜ人は攻撃してくるのかなんて考えることもなく、ただ見つからないように隠れ、見つかったら逃げ、そして結局は殺されていった。考えるスライムを、わたしはわたしのほかに知らない。
同族の中でもひと際小さなわたしは弱さゆえに用心深く、異質ゆえに人の行動に疑問を持ち、同族を殺す人間を観察していた。今までは上手く逃れていたけれど……。
わたしに剣を振り上げたのは、まだ子供と言われる小さな人間。小さいといっても、わたしよりはずっとずっと大きい。光る剣はきっとよく切れるのだろう。わたしの脆い体なんて、抵抗すら感じられないほど簡単に裂いてしまうのだろう。
なぜ人はスライムを殺すの?なぜスライムは殺されても仕方ないの?そんな疑問ごとわたしは殺されるんだなぁ。わたしたちがいる森の奥まで勝手にやってきた人間は、きっと、わたしがそんな事を考えていることに気付きもしない。
そう思った時、剣を振りかぶった子供とは別の、もっと小さな子どもが剣を持った子供を制した。
「何故、このスライムを殺す?」
「んだよ、邪魔すんなよ」
「この小さなスライムからは使える魔石は手に入らない。殺す必要はないだろう」
「何言ってんだよ、てめー。スライムなんかどうせ幾らでも増えるんだ。だから俺が減らしてやるんだ。俺は大きくなったら魔獣退治をする第四騎士団に入ってバンバン魔物を殺して、英雄になるんだ!練習の為にスライムをやっつけるんだ!」
剣の子どもは練習の為に弱い者いじめをするんだね。練習の為に何もしていないわたしを殺すんだね。
「この小さなスライムを殺すことが訓練になると?ふふっ、君はその程度の腕なのに随分と壮大な夢を持っているんだね。僕には理解できないほどの人物らしい」
「うっ、うるせーっ。お前は何なんだよっ、カンケーねーだろ、放っておけよ」
剣の子どもは小さな子どもに向かって、私に振り上げていた剣を構えた。すると、いつの間にか傍に寄ってきた大きな人間たちが剣の子どもから剣を取り上げて、その体を拘束した。
「スタニスラス様、仰っていることは一々ご尤もですが、たかがスライムの為に剣の下を潜るような真似はなさらんで下され。スタニスラス様に傷でもついた日には奥さまと大奥さまに爺がどやされます」
「父上が抑えて下さるよ。……多分」
「それはどうでしょうなぁ」
私を助けてくれたスタニスラス様?が、しゃがみこんで私をそっと撫でてくれた。
「こんなに小さな子に剣を振りかぶるような子どもは、弱い者を使って力を証明しようとする卑怯者だから質が悪い」
「子どもとおっしゃいますが、スタニスラス様はまだ五つでございましょう。あの少年は十は超えていそうですぞ」
「そうだね。十を超えているような子どもが、スライムを倒して自己陶酔に浸るのは情けないよね」
「――スタニスラス様は、本当に五つでしたかの。生まれたときから存じておりますが、それでも年齢を謀っているのではないかと思う時がございます」
酷いな、とスタニスラス様が笑う。
「大体、この辺りは我が家の敷地内だ。有事ならともかく、平時にここまで侵入してくる方が悪い」
「あの子どもは知らなかったのでしょうな」
「知らなかったからと言って良しとは出来ない。示しがつかないからね。境界の柵を設けたいところだけれど、この森は大きすぎるから難しいね」
「左様ですな。さ、そろそろお茶の時間でございましょう。森の散策はここまでにして屋敷に戻りましょう」
同族の中でもひと際小さなわたしは弱さゆえに用心深く、異質ゆえに人の行動に疑問を持ち、同族を殺す人間を観察していた。今までは上手く逃れていたけれど……。
わたしに剣を振り上げたのは、まだ子供と言われる小さな人間。小さいといっても、わたしよりはずっとずっと大きい。光る剣はきっとよく切れるのだろう。わたしの脆い体なんて、抵抗すら感じられないほど簡単に裂いてしまうのだろう。
なぜ人はスライムを殺すの?なぜスライムは殺されても仕方ないの?そんな疑問ごとわたしは殺されるんだなぁ。わたしたちがいる森の奥まで勝手にやってきた人間は、きっと、わたしがそんな事を考えていることに気付きもしない。
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「この小さなスライムを殺すことが訓練になると?ふふっ、君はその程度の腕なのに随分と壮大な夢を持っているんだね。僕には理解できないほどの人物らしい」
「うっ、うるせーっ。お前は何なんだよっ、カンケーねーだろ、放っておけよ」
剣の子どもは小さな子どもに向かって、私に振り上げていた剣を構えた。すると、いつの間にか傍に寄ってきた大きな人間たちが剣の子どもから剣を取り上げて、その体を拘束した。
「スタニスラス様、仰っていることは一々ご尤もですが、たかがスライムの為に剣の下を潜るような真似はなさらんで下され。スタニスラス様に傷でもついた日には奥さまと大奥さまに爺がどやされます」
「父上が抑えて下さるよ。……多分」
「それはどうでしょうなぁ」
私を助けてくれたスタニスラス様?が、しゃがみこんで私をそっと撫でてくれた。
「こんなに小さな子に剣を振りかぶるような子どもは、弱い者を使って力を証明しようとする卑怯者だから質が悪い」
「子どもとおっしゃいますが、スタニスラス様はまだ五つでございましょう。あの少年は十は超えていそうですぞ」
「そうだね。十を超えているような子どもが、スライムを倒して自己陶酔に浸るのは情けないよね」
「――スタニスラス様は、本当に五つでしたかの。生まれたときから存じておりますが、それでも年齢を謀っているのではないかと思う時がございます」
酷いな、とスタニスラス様が笑う。
「大体、この辺りは我が家の敷地内だ。有事ならともかく、平時にここまで侵入してくる方が悪い」
「あの子どもは知らなかったのでしょうな」
「知らなかったからと言って良しとは出来ない。示しがつかないからね。境界の柵を設けたいところだけれど、この森は大きすぎるから難しいね」
「左様ですな。さ、そろそろお茶の時間でございましょう。森の散策はここまでにして屋敷に戻りましょう」
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