上 下
2 / 24

02

しおりを挟む
 同族スライムの中でわたしは異質だった。周りの仲間はなぜ殺されるのか、なぜ人は攻撃してくるのかなんて考えることもなく、ただ見つからないように隠れ、見つかったら逃げ、そして結局は殺されていった。考えるスライムを、わたしはわたしのほかに知らない。

 同族の中でもひと際小さなわたしは弱さゆえに用心深く、異質ゆえに人の行動に疑問を持ち、同族を殺す人間を観察していた。今までは上手く逃れていたけれど……。


 わたしに剣を振り上げたのは、まだ子供と言われる小さな人間。小さいといっても、わたしよりはずっとずっと大きい。光る剣はきっとよく切れるのだろう。わたしの脆い体なんて、抵抗すら感じられないほど簡単に裂いてしまうのだろう。


 なぜ人はスライムを殺すの?なぜスライムは殺されても仕方ないの?そんな疑問ごとわたしは殺されるんだなぁ。わたしたちがいる森の奥まで勝手にやってきた人間は、きっと、わたしがそんな事を考えていることに気付きもしない。


 そう思った時、剣を振りかぶった子供とは別の、もっと小さな子どもが剣を持った子供を制した。


「何故、このスライムを殺す?」

「んだよ、邪魔すんなよ」

「この小さなスライムからは使える魔石は手に入らない。殺す必要はないだろう」

「何言ってんだよ、てめー。スライムなんかどうせ幾らでも増えるんだ。だから俺が減らしてやるんだ。俺は大きくなったら魔獣退治をする第四騎士団に入ってバンバン魔物を殺して、英雄になるんだ!練習の為にスライムをやっつけるんだ!」


 剣の子どもは練習の為に弱い者いじめをするんだね。練習の為に何もしていないわたしを殺すんだね。


「この小さなスライムを殺すことが訓練になると?ふふっ、君はその程度の腕なのに随分と壮大な夢を持っているんだね。僕には理解できないほどのらしい」

「うっ、うるせーっ。お前は何なんだよっ、カンケーねーだろ、放っておけよ」


 剣の子どもは小さな子どもに向かって、私に振り上げていた剣を構えた。すると、いつの間にか傍に寄ってきた大きな人間たちが剣の子どもから剣を取り上げて、その体を拘束した。


「スタニスラス様、仰っていることは一々ご尤もですが、たかがスライムの為に剣の下を潜るような真似はなさらんで下され。スタニスラス様に傷でもついた日には奥さまと大奥さまに爺がどやされます」

「父上が抑えて下さるよ。……多分」

「それはどうでしょうなぁ」


 私を助けてくれたスタニスラス様?が、しゃがみこんで私をそっと撫でてくれた。


「こんなに小さな子に剣を振りかぶるような子どもは、弱い者を使って力を証明しようとする卑怯者だから質が悪い」

「子どもとおっしゃいますが、スタニスラス様はまだ五つでございましょう。あの少年は十は超えていそうですぞ」

「そうだね。十を超えているような子どもが、スライムを倒して自己陶酔に浸るのは情けないよね」

「――スタニスラス様は、本当に五つでしたかの。生まれたときから存じておりますが、それでも年齢を謀っているのではないかと思う時がございます」


 酷いな、とスタニスラス様が笑う。


「大体、この辺りは我が家の敷地内だ。有事ならともかく、平時にここまで侵入してくる方が悪い」

「あの子どもは知らなかったのでしょうな」

「知らなかったからと言って良しとは出来ない。示しがつかないからね。境界の柵を設けたいところだけれど、この森は大きすぎるから難しいね」

「左様ですな。さ、そろそろお茶の時間でございましょう。森の散策はここまでにして屋敷に戻りましょう」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マグノリア・ブルーム〜辺境伯に嫁ぎましたが、私はとても幸せです

花野未季
恋愛
公爵家令嬢のマリナは、父の命により辺境伯に嫁がされた。肝心の夫である辺境伯は、魔女との契約で見た目は『化物』に変えられているという。 お飾りの妻として過ごすことになった彼女は、辺境伯の弟リヒャルトに心惹かれるのだった……。 少し古風な恋愛ファンタジーですが、恋愛少な目(ラストは甘々)で、山なし落ちなし意味なし、しかも伏線や謎回収なし。もろもろ説明不足ですが、お許しを! 設定はふんわりです(^^;) シンデレラ+美女と野獣ですσ(^_^;) エブリスタ恋愛ファンタジートレンドランキング日間1位(2023.10.6〜7) Berry'z cafe編集部オススメ作品選出(2024.5.7)

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

契約結婚!一発逆転マニュアル♡

伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉ 全てを失い現実の中で藻掻く女 緒方 依舞稀(24) ✖ なんとしてでも愛妻家にならねばならない男 桐ケ谷 遥翔(30) 『一発逆転』と『打算』のために 二人の契約結婚生活が始まる……。

処理中です...