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131 求婚
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ピーピング……ではないだろう。
元々この部屋で被召喚者が宴をしていたところにクリソプレーズが乱入してきたのだ。
しかし、こうも空気扱いされているとハニー・ビーらはどうしていいのか分からない。そうこうしているうちに、二人の世界はは痴話喧嘩からのイチャイチャを経て、いよいよ……とばかりにクリソプレーズが希の前に膝を付き、彼女の手を取って口づけを落とした。
「ノゾミ……俺と結婚してほしい」
「うん、レーズのお嫁さんになりたい。幸せにするから」
求婚を受け入れられたことが嬉しいのだろう。破顔したクリソプレーズは立ち上がって希を抱きしめる。
「俺がお前を幸せにするんだよ」
「馬鹿。一緒に幸せになろ?」
「ああ、そうだな。一緒に幸せに……」
そして、二人の顔がゆっくりと近づいて……
「ゴホンッ」
甘い雰囲気を壊すのは忍びないと思いつつ、さすがにキスシーンまで見せられてはたまらない。華がわざとらしく空咳をすると、希とクリソプレーズはギョッとした様に傍観者たちの方を振り返った。
「いっ……いつからそこに!?」
「覗き!?覗きね!?」
「……」
いつからと言えば最初からだ。
そもそも、後からやってきたのはクリソプレーズである。希は最初から被召喚者チームの一員として別れの宴を楽しんでいた筈である。
傍観者たちは覗きと言われて甚だ遺憾であった。
そのような説明をされ、正座して頭を下げた希とクリソプレーズには先ほどの続きをする気はなさそうだ。当然であるが。
「ははは、いいねぇ若いってのは」
「いえいえ、おばあちゃん。ここまで周りが見えなくなるのは珍しいと思います。幾らリア充爆発しろと願っても、ちっとも爆発しませんし」
「本当に爆発したら、後片付けが大変だからヤだなぁ、俺」
「大丈夫です。ビーちゃんは洗浄の魔法が使えるから、血の跡は残りませんよ、きっと」
「え?あたしが掃除すんの?」
復活した翔馬を交えて軽口を叩く面々の前で身の置き所の無い筈のバカップルは、俯き気味の状態で見つめ合っている。恋愛が始まったばかりの若者は手の施しようがないらしい。
それを見て苦笑いした華が、二人をソファに座らせてお茶を淹れた。
「希さん、結婚するんですね。おめでとうございます」
「あ、うん、アリガト」
「ノゾミねーさん、リーズにーさん、おめでと」
「ああ、ありがとう、魔女殿」
「式はいつ?」
「まだ、そういう事はこれからだよ、翔馬」
お別れの会の筈が結婚祝いムードになっている。
「式に参列はできませんけど、日本からでもお祝いの気持ちだけは贈りますからね」
「うん、本当にありがと。華ちゃんも、日本で元気に華ちゃんらしく過ごせるようにランティスで祈ってるから」
「聖女同士が祈り合うってご利益ありそー」
「だね」
「で、揉めた原因のアレはどーすんの?」
求婚のインパクトで忘れられてしまっているが、話の元は希が日本に行くときにクリソプレーズが付いてくると言ってきかなかったことにある。
ハニー・ビーに問われて「あっ」と顔を見合わせた二人は、そのことを忘却の彼方に捨て去っていたようだ。
「あー、積み荷はもういいや。レーズをヤキモキさせてまでしなきゃいけない事でもないし。……う、うん。私がそのこと自体を記憶から抹殺すればいい、だけ、だから……」
だんだんと弱く、怪しくなる言葉にクリソプレーズが慌てたように言う。
「いや、行ってこい。俺は待ってるから。お前が、俺のことを好きだって言ってくれて結婚の約束までしたんだ。もう、不安に思ったりしない。ちゃんとここでお前を待つ」
「レーズ……」
「あー、そこのお二人さん。いい雰囲気だすのは人目のないところで宜しく」
「あっ……」
このバカップル、すぐに二人の世界に入ってしまうのが困りものである。
「あー、ゴホン。そういう訳だからノゾミ、行ってこい。それでニホンへの未練とか心残りとが全部なくして、それで、結婚しよう」
「うん、ありがとう、レーズ」
「希ちゃんがそれほど囚われてる積荷って一体……」
「翔馬、女の秘密を探る男はモテないよ?」
「ハイ、スミマセン」
翔馬の素朴な疑問も、希の睨みで追及を諦めることとなる。力関係は最初からそれほど変わらないが、それは求められた聖女とそうでなかった勇者という関係性からではなく、本人たちの資質のせいだ。日本で出会って、勇者や聖女などと言う肩書が無くとも、希と翔馬の立ち位置はあまり変わらなかっただろう。
「じゃ、明日はハナねーさんとノゾミねーさんとショーマにーさんがニホンに行くって事でいいね?」
「うん、お願いします、ビーちゃん」
「ちゃんと、ノゾミを連れて帰って来てくれよ、魔女殿」
「ん、ダイジョブ」
被召喚者組の別れの宴という事で、クリソプレーズはここで失礼するという。
去り際に希の髪に口づけを落として去っていった彼は、来た時の慌てようが嘘のように満ち足りた顔をしていた。
まだ宵の口。
希の結婚を祝ったり、華の前途に幸多かれと祈ったり、産婆の仕事を始めたい樋口の相談に乗ったり、ヴェーリオス国の話で盛り上がったりと、まだまだ宴の幕が下りる様子は無かった。
元々この部屋で被召喚者が宴をしていたところにクリソプレーズが乱入してきたのだ。
しかし、こうも空気扱いされているとハニー・ビーらはどうしていいのか分からない。そうこうしているうちに、二人の世界はは痴話喧嘩からのイチャイチャを経て、いよいよ……とばかりにクリソプレーズが希の前に膝を付き、彼女の手を取って口づけを落とした。
「ノゾミ……俺と結婚してほしい」
「うん、レーズのお嫁さんになりたい。幸せにするから」
求婚を受け入れられたことが嬉しいのだろう。破顔したクリソプレーズは立ち上がって希を抱きしめる。
「俺がお前を幸せにするんだよ」
「馬鹿。一緒に幸せになろ?」
「ああ、そうだな。一緒に幸せに……」
そして、二人の顔がゆっくりと近づいて……
「ゴホンッ」
甘い雰囲気を壊すのは忍びないと思いつつ、さすがにキスシーンまで見せられてはたまらない。華がわざとらしく空咳をすると、希とクリソプレーズはギョッとした様に傍観者たちの方を振り返った。
「いっ……いつからそこに!?」
「覗き!?覗きね!?」
「……」
いつからと言えば最初からだ。
そもそも、後からやってきたのはクリソプレーズである。希は最初から被召喚者チームの一員として別れの宴を楽しんでいた筈である。
傍観者たちは覗きと言われて甚だ遺憾であった。
そのような説明をされ、正座して頭を下げた希とクリソプレーズには先ほどの続きをする気はなさそうだ。当然であるが。
「ははは、いいねぇ若いってのは」
「いえいえ、おばあちゃん。ここまで周りが見えなくなるのは珍しいと思います。幾らリア充爆発しろと願っても、ちっとも爆発しませんし」
「本当に爆発したら、後片付けが大変だからヤだなぁ、俺」
「大丈夫です。ビーちゃんは洗浄の魔法が使えるから、血の跡は残りませんよ、きっと」
「え?あたしが掃除すんの?」
復活した翔馬を交えて軽口を叩く面々の前で身の置き所の無い筈のバカップルは、俯き気味の状態で見つめ合っている。恋愛が始まったばかりの若者は手の施しようがないらしい。
それを見て苦笑いした華が、二人をソファに座らせてお茶を淹れた。
「希さん、結婚するんですね。おめでとうございます」
「あ、うん、アリガト」
「ノゾミねーさん、リーズにーさん、おめでと」
「ああ、ありがとう、魔女殿」
「式はいつ?」
「まだ、そういう事はこれからだよ、翔馬」
お別れの会の筈が結婚祝いムードになっている。
「式に参列はできませんけど、日本からでもお祝いの気持ちだけは贈りますからね」
「うん、本当にありがと。華ちゃんも、日本で元気に華ちゃんらしく過ごせるようにランティスで祈ってるから」
「聖女同士が祈り合うってご利益ありそー」
「だね」
「で、揉めた原因のアレはどーすんの?」
求婚のインパクトで忘れられてしまっているが、話の元は希が日本に行くときにクリソプレーズが付いてくると言ってきかなかったことにある。
ハニー・ビーに問われて「あっ」と顔を見合わせた二人は、そのことを忘却の彼方に捨て去っていたようだ。
「あー、積み荷はもういいや。レーズをヤキモキさせてまでしなきゃいけない事でもないし。……う、うん。私がそのこと自体を記憶から抹殺すればいい、だけ、だから……」
だんだんと弱く、怪しくなる言葉にクリソプレーズが慌てたように言う。
「いや、行ってこい。俺は待ってるから。お前が、俺のことを好きだって言ってくれて結婚の約束までしたんだ。もう、不安に思ったりしない。ちゃんとここでお前を待つ」
「レーズ……」
「あー、そこのお二人さん。いい雰囲気だすのは人目のないところで宜しく」
「あっ……」
このバカップル、すぐに二人の世界に入ってしまうのが困りものである。
「あー、ゴホン。そういう訳だからノゾミ、行ってこい。それでニホンへの未練とか心残りとが全部なくして、それで、結婚しよう」
「うん、ありがとう、レーズ」
「希ちゃんがそれほど囚われてる積荷って一体……」
「翔馬、女の秘密を探る男はモテないよ?」
「ハイ、スミマセン」
翔馬の素朴な疑問も、希の睨みで追及を諦めることとなる。力関係は最初からそれほど変わらないが、それは求められた聖女とそうでなかった勇者という関係性からではなく、本人たちの資質のせいだ。日本で出会って、勇者や聖女などと言う肩書が無くとも、希と翔馬の立ち位置はあまり変わらなかっただろう。
「じゃ、明日はハナねーさんとノゾミねーさんとショーマにーさんがニホンに行くって事でいいね?」
「うん、お願いします、ビーちゃん」
「ちゃんと、ノゾミを連れて帰って来てくれよ、魔女殿」
「ん、ダイジョブ」
被召喚者組の別れの宴という事で、クリソプレーズはここで失礼するという。
去り際に希の髪に口づけを落として去っていった彼は、来た時の慌てようが嘘のように満ち足りた顔をしていた。
まだ宵の口。
希の結婚を祝ったり、華の前途に幸多かれと祈ったり、産婆の仕事を始めたい樋口の相談に乗ったり、ヴェーリオス国の話で盛り上がったりと、まだまだ宴の幕が下りる様子は無かった。
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