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102 お約束は!?

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 翔馬はギルドと言えば冒険者ギルドと認識していたが、実際の意味は「組合」である。

 なので、冒険者ギルド以外にも商人ギルド・農業ギルド・鍛冶ギルドなど数多のギルドが存在することも知った。

 異世界のお約束はやっぱり「冒険者ギルドでしょ!」と、彼の中の中学二年生が叫ぶとの事で、ハニー・ビーが付き添ってやってきたのは、翔馬お待ちかねの冒険者ギルドである。


「いらっしゃいませー」


 出迎えたのは狐獣人の受付嬢であった。翔馬はテンションが上がり過ぎて挙動不審にならないよう自制した結果、強張った無表情という残念っぷりだったので、受付嬢は「獣人種が嫌いな人間種」であると勘違いしたことも仕方ないと言えよう。


「ねーさん、このにーさんが新規登録したいってんで連れてきた。とうが立ってるけどそこそこ出来る」

「あら、魔女さんじゃないですか。随分とお姿を見ませんでしたけど、遠出のお仕事でした?」

「ん、ひさしぶり。暫くはこっちにいると思うけど、わかんない」


 ハニー・ビーと受付嬢が会話している傍で、翔馬の顔色は冴えない。


「……ビーちゃん」

「ん?」

「ビーちゃんと受付のお嬢さんの会話が分かんないんだけど……」

「ん?」


 翔馬とハニー・ビーの会話を聞いていた受付嬢が首を傾げて魔女に質問する。


「こちらの方、どちらのご出身です?共通語はお出来にならないのかしら。言葉が不自由だと難しいお仕事もありますし、聞いたことのない言語ですから知ってる子がいればいいんですけど」


 ハニー・ビーは、スキルのおかげで何処の言語でも意識せず使う事が出来る為に気付かなかった。


 受付嬢とはこの世界の共通言語で話していたこと。翔馬とはランティス語で話していたこと。


 そして、翔馬はこの世界の共通語が理解できない事に気付きがっくりと膝をつく。


「異世界転移のお約束はどうしたんだよーっ!!」


 ランティスでは全く問題の無かった言語把握問題に、第二の異世界転移でぶつかるとは思いもよらずに叫んだ翔馬の言葉を受付嬢は理解できなかったし、ハニー・ビーは意味を解さなかった。



 結局、冒険者登録をすることなく、肩を落とした翔馬を連れてハニー・ビーは冒険者ギルドを後にした。


「お約束なのに……だって、ランティスでは言葉に不自由しなかったよ?なんで駄目なんだろう」

「んー、理由は分からないけど、この世界でやってくなら選ぶ道は三つ」

「三つ?」

「ん。ひとつめ。これから共通語を勉強する。あたしはスキルのせいで相手に合わせた言語を使えるから、習うなら別の人がいい」


 自分が教えるのでは翔馬の為にならないだろうとハニー・ビーは言う。


「ふたつめ。言語翻訳の魔道具を付ける」

「そんなのがあるんだ?」

「みっつめ。あたしがにーさんを召喚する」


 ランティスで知った召喚陣をハニー・ビーが改良し、翔馬を被召喚者と指定して召喚すると言う。


「みっつめは、それで話せるようになるかは定かじゃない。ただ、ランティスでは言葉に不自由しなかったのに、こっちでは駄目ってことは召喚か転移かの違い、かもしれないから」

「あー、そっかぁ」


 確かに、今考えられる違いはそれだけである。もしかしたらもっと別の要因もあるかもしれないが、一番わかりやすい違いはそれだろう。


「あと、番外。ランティスに戻る」

「それは嫌だ。俺はこっちで生きていくって決意して来た」

「ん、それならそれでいい」


 どうするかとハニー・ビーに聞かれてしばらく考え込んでいた翔馬は、ふと疑問に思ったことを尋ねてみた。


「ビーちゃん、俺は今も勇者?」

「鑑定する?」

「お願いします」


 ハニー・ビーが鑑定した結果、翔馬はこの世界に来ても勇者の称号を持ったままであった。


「そっか。じゃ、ビーちゃんに召喚してもらうのは無し」


 勇者はランティスで召喚されたことによって得た称号だ。ここで、魔女に召喚してもらったとしてその称号がそのまま残っているかどうか分からない。

 それを失う可能性があるのなら、再度の召喚は危険だと翔馬は判断する。

 日本で平均的成人男性であり社畜であった翔馬にとって、勇者と言うアドバンテージは例え拾い物だったとはいえ手放すことは出来ないものだ。


「魔道具は有難い。けど、俺はこの地で生きていくつもりだからさ、勉強する」


 何から何までハニー・ビーにおんぶにだっこの状態の今ではあるが、翔馬はいつまでもそれに甘んじている訳にはいかないという意思がある。

 人と対立しないようにとだけ考えて流されていた日本での自分とは決別すると言う克己心もある。


 正直、この年で全く知らない言語を一から習得することに自信はないが、それでもやってやるという強い気持ちで「でも、先生の紹介はお願いね」とハニー・ビーに頼むくらいには、己の分を知っている翔馬であった。


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