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77 寂れた町 3
しおりを挟む「でも、ただ働きはしないよ?あたしは正義の味方じゃないし」
ハニー・ビーに要求されても支払う金のないアリウスとフランネは困ったように顔を見合わせる。
それに、この人たちを信じても良いのかという不安もある。アリウスは全面的にこの二人を認めたようだがフランネはまだ懐疑的であるし、本当に信頼できる人たちだったとしても代官が搾取しているすべての町で何とかしようと動いている者がいるのに解決していないこの問題を、少女と青年の二人でどうにか出来るものであろうか。
本人の言う通り地位や権力など無縁の二人が、いったいどうやって代官を片付けるのだろう。もしや、うまい事を言って前金だけ搾取する詐欺師ではないかとフランネが考えたのも、仕方のない事だろう。
「成功報酬でいい」
フランネが考えていることを見透かしたようにハニー・ビーが言う。
「ってか、時間かかるだろうし、作るの」
「……作る?」
「ん。報酬にお金は要らない。持ってるし」
では何が望みかと聞けば、お茶を作れという。
「ここに来る途中で日陰に群生してた茶葉を見た。それの新芽を摘んで蒸して乾燥させて石臼でひいて」
「ビーちゃん、また、お茶……。あー、あのねー、ビーちゃんはお茶に目が無くてね?これまでも報酬にお茶を要求することがよくあってさー」
呆れたようにハニー・ビーに言ったあと、翔馬はアリウス達に向き直って説明した。
「ん。あたしの道楽なの」
アリウスとフランネは顔を見合わせて「お茶の木なんてあっただろうか?」「いや、知らねぇ」「だが、それを報酬とさせてもらえるなら」「そんなうまい話がある訳ねぇだろ」と小声で話し合っているが、すぐ目の前にいるハニー・ビーたちの耳にも当然聞こえている。
「あたしたちが失敗したら、お茶は自分たちで飲めばいいよ。とりあえず打つ手がないんでしょ?駄目元とでも考えておきなよ」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。おにーさん達に任せなさい!――って、まだ方策は立ってないけど」
「んーん。これからやることは決まってる」
乗り気の翔馬に腹案は無いのに、仕方なしに請け負ったハニー・ビーはすでに計画を立てたようだ。
「竜児欲しくば竜谷を攻めよ――って事で、代官のとこに乗り込もう」
「え?裏取りするんじゃないの!?あと、それ、虎穴に入らんずば虎児を得ずじゃなくて!?」
世界が違うのだから古事やことわざが違って当たり前であるのに、どうでもいい事が気になる翔馬である。
「この町はもう人が取られ尽しちゃってんでしょ?代官お使いが”召し上げ”に来るかどうかも分からない。分からないものをただ待ってるのは無駄。だから、義憤にかられた旅人が抗議をしに行く態にしよう。それで向こうの反応を見る。それなら億万が一失敗したとしてもこの町に迷惑は掛からないし、にーさんは実際にそういうキモチなんだし」
乗り込んで抗議した見目の良い少女と青年は、飛んで火にいる夏の虫だろう。徴収した人間の使い道はまだ不明だが、自分たちも行きつく先は同じと思える。そこでこの町の人間じゃないにしても、被害者に会えれば様子も探れる。
「そっか。ビーちゃんのことだから証拠集めとか立証作業とかすっ飛ばして代官をボコるのかと思った」
「ん。それが一番手っ取り早い」
「いやいやいや、じゃ、さっき話してたのは何だってことになるでしょー」
「…………面倒くさい」
ハニー・ビーの本音である。本音ではあるが、やると決めたことは何としてでも完遂する気質の彼女なので、翔馬はそれほど心配はしていない。
「と、言う訳で―、少年たちはビーちゃんの言ったお茶の準備宜しく。俺たちが帰ってくればラッキー、帰ってこなかったら失敗って事だけど、そちらの損はお茶を作るための労力位だから問題ないでしょ?あ、無理だろうって判断してお茶を作らないのはナシね。ビーちゃんが暴れちゃうから」
ビーちゃんが暴れちゃう――の辺りで自分の体を抱きしめて大袈裟なくらいに震えて見せた翔馬に、アリウス達は黙って頷いた。
翔馬の言う通り、こちらに損は無いのだ。お茶を作る労力など、損の内には入らない。
ハニー・ビーにお茶の木の場所を説明してもらって、言われた通りの作業をすることを二人は約束したのだった。
翔馬とハニー・ビーが善は急げと早々にアリウス宅を後にしたのを見送って、二人は早速茶葉の採取に向かう事にした。
本当に彼らに何とかできるのかは分からないが、もしもこの町を助けてくれるのならどれだけの量のお茶があっても、彼らの厚意の対価とはならないだろう。
金を出せば手に入る物を、素人の自分たちに要求してくれた少女はなんて優しいんだろう。
アリウスはハニー・ビーが聞いたら怖気を振るうようなことを考えながら、説明された場所で採取を始める。いつも町の中心部に向かう道からややそれてはいるが、それでも道すがら目に入る位置に確かに数十本のお茶の木があった。
「ホントにこんなトコにお茶の木があったんだなー」
「だね。ほぼ毎日あの路を通ってるのに、全然気が付かなかった」
アリウスとその父があの家に移り住んだのは2年前のことである。
その頃に変わった領主と代官のせいで人が減っていった町では、労働力の不足があり、当然のこと食糧も不足する。
森に分け入ってまず探すのは果物のなる木や食べられる野草、そして小動物を獲る為に罠を張る場所だ。アリウスは散策などの余裕もなく、日々父と自分の口を糊することばかりを考え四苦八苦していた。
「なぁ、あの人ら、ホントに大丈夫かな」
疑問の目を向けてはいたが、無関係のハニー・ビーらが代官に掴まってひどい目にあわされるのではないかと心配する気持ちはあるフランネがアリウスに問うた。
「うん……。人任せにしちゃいけないし、あの人たちに何かあったらと思う気持ちもあるけど……僕はああの二人ならきっと大丈夫だと思うんだ」
それは願望かもしれない。
しかし、アリウスにとってはかそけくとも確かに光明に見えていた。
「うん、そっか、お前がそう言うならそうかもな」
「うん。だから、頑張ろう、お茶づくり」
「おう、ここにある木を丸裸にする勢いでガンバろーぜ」
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