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42 不幸自慢大会 2
しおりを挟む腹も満ちて酒も楽しんだ騎士たちは、明日も仕事だという事で一足先に宴会から去る。
メリアは最後に「女神さま、また遠征に行く際は、是非、メリアをご指名ください!」と、ハニー・ビーの手を握って拝んで行った。少々酔っているようである。
ズズとアルヴァは再度謝罪をし、ハニー・ビーが気にしていないというように手を振るのを見てホッとしたようだ。
トティとアーティは口を湿す程度にしか酒を口にしておらず、しっかりとした足取りで聖女たちに辞去の挨拶をしてから部屋を出た。
残っているのは酔っ払いの希、欝々としている谷崎、手酌でまだ飲んでいるご機嫌な樋口の聖女三人と、そこそこ飲んではいたもののほぼ素面の翔馬、案外と飲めるくちだったこちらもほぼ素面のハニー・ビー、重しが取れて気が緩んだのか、ほろ酔いで体が揺れているガーラントの六人だ。
「……小山内さんはいいですよね」
欝々としていた谷崎が、珍しく真っすぐに希を見て言った。
「は?」
「小山内さんはいいですねって言いました」
普段の谷崎からは考えられない喧嘩を売るような発言だ。顔の赤い希や体が揺れているガーラントと違って見た目では分からないが、どうやら酔っているらしい。
「聞こえてるし!どういう意味かって聞いてんの」
「だって、名前が希じゃないですか。羨ましい。望まれて生まれてきたんでしょう?私なんて花子ですよ。親が名前を考えるのも面倒で、役所の見本に書かれている名前をそのまま付けたって言ってました」
「……花子?華じゃなかったっけ?」
あーあ、言っちゃった。秘密にしてほしいと言われ、それを守っていたハニー・ビーは肩をすくめる。
ガーラントに本名がバレたら服従の魔法をかけるかもしれないから、腕輪から服従の陣を削って干渉無効の陣を刻むか。そう考えたハニー・ビーは、この件に関してはガーラントをまるっきり信用していなかった。
「嫌いなんです、名前。親も嫌いです。私、虐待されてたんです。暴力暴言は当たり前、9歳で施設に入るまでずっとです。だから、望まれて生まれて、強くて、自分をしっかり持っている小山内さんが恨めしい。ええ、八つ当たりです。小山内さんが私にイラついていることは知ってますけど、私のように育ったら、自分に自信が無くて人の顔色を窺って物も言えない人間に育つんです。小山内さんには分からないでしょうけど」
「いや、かなりはっきり物申してるよね」
ハニー・ビーが突っ込むも谷崎は聞いていない。相当酒が回っているようだ。
「如月さんのように明るく育ちたかったです。小山内さんのように強く育ちたかったです。樋口さんのように自信を持ちたかったです。でも、親からの愛情を得られなくてスタートで躓いてるから、どうしようもないんです」
「ばっかじゃないの」
「ええ、馬鹿なんで……」
「私の名前は希じゃないの、本当は希典。どんな気持ちでこの名前を付けたかなんて、顔を見たこともない親に聞けないし、生きているかどうかも知らない。産みの母が赤ん坊の私を捨てて、母の妹夫婦に育てられたけど、物心ついてから家族の愛情なんて感じたこともない。実子の妹………本当は従姉妹になる妹ばかり愛されて、何故、自分は愛されないんだろうと思って育ったよ」
谷崎が驚いて希を見つめた。
あーあ、こっちも言っちゃったよ。ハニー・ビーは早急に腕輪を弄らないとならないなと思った。収納魔法を付与してある腕輪に彼らは色々なものを詰め込んである。そのため4人とも常時付けていて外すことはないから、腕輪に保護系の魔法をかければ大丈夫なはずだしね、と、なぜ自分がここまで手を出さなきゃならないんだっけな?と疑問に思うハニー・ビー。
「実子でない事を知ったのは中学の時。妹はそれから私に何をしてもいいと思ったんだろうね。私の物を奪う、壊す、それを言えるものなら親に言ってみろという。学校で姉に虐められてるって噂を流す。否定しても、なぜかみんな妹の味方。可哀想な自分を作るのが上手かったからだろうね。私は可愛げないし」
一息ついて酒の入ったグラスを持つ希を止めようと翔馬が手を出すが、跳ね付けられてしまう。
「18で家を出るまで、私はどこにも居場所は無かった。誰も信じられないし、信じてくれない。だから、強くなるしかなかった。居場所は自分で作らないといけないと子供心に誓って、自分井甘えを許さずに生きてきたよ。誰が望まれて生まれたって!?知らないくせに勝手に決めつけないで!」
グラスを空けた希が叫ぶように言った。
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