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14 残念勇者
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「あのー、俺、勇者だったみたい」
翔馬がガーラントに声を掛けそうだと見て取ってハニー・ビーはすばやく防音結界を解いた。
翔馬は結界に気付いていなかったようだが、興奮している翔馬の声が聞こえない時点でさすがに彼らは気が付いただろう。
ハニー・ビー相手に尋ねる勇気はなさそうだし翔馬は口外したくないだろうしで、ガーラント達が今の会話を知る機会は失われたと言っていい。何か言いたげに翔馬を見ているが、翔馬はそれをスルーしている。
よっぽど自分の名前が好きじゃないんだな。
「勇者……でございますか、ショーマ様」
「うん、ハニー・ビーちゃんが鑑定してくれて称号付いてるって。あー、ホント、ごめんね、聖女様じゃなくても、それに近い力があれば良かったんだけど」
「いえ、とんでもない!先ほども申しましたが、謝るべきは当方であり、ショーマ様が謝罪なさることなど何一つございません」
「そりゃそーだ。勝手に召喚していて期待外れだったって言われて、ショーマにーさんは何で謝るかなぁ」
「え、だって、ガーラントさんたちは国の為に問題を解決したくて切羽詰まってんだしさ。出来ることなら何とかしてあげたいじゃん。役に立てなかったら申し訳ないっしょ。分かるでしょ?」
「分からん!」
残念で脳天気な勇者は、随分と心の広いお人好しのようだ。
あたしは魔女だから彼らの頼みを聞けなかったけど、聖女だったとしても聞いてやったかどうか――というか、多分聞いてやらない。
最初に召喚した相手がそんな魔女だったので、ガーラント達の翔馬に対する好感度は高い。
残念勇者ではあるがそれはそれ。
勝手に呼ばれたこの世界で呼んだ自分たちを責めもせず、それどころが労わってくれる相手を、望んだ能力が無いからと言って疎む気持ちなど沸くはずもない。
「ところで勇者ってなにすんの?」
「……さあ?」
ペガサスにーさんも知らないらしい。勇者だーって喜んでいたのに。
「魔王討伐……とか?ドラゴンを倒すとか、戦争とかで活躍するとか……物理的に敵をぶったおす!みたいな。あ、俺、無理だ。平和ボケした日本人で、喧嘩一つしたことないし。武器を扱ったことも武術を習ったこともないし」
ショボンと効果音が付きそうなほどに沈鬱な表情で項垂れる翔馬にガーラントが声をあげる。
「いえ!魔王だのドラゴンだのはこの世界には存在致しませぬ、今現在このランティスにて戦の気配も皆無。ショーマ様がそのように落ち込まれる必要など鮮少たりともございませぬ」
「そ……そっかな?」
「それって昼間のランタンって事かなー」
「昼間のランタン?」
「役に立たないってこと」
ハニー・ビーの空気を読まない発言は、翔馬もガーラントも共に地にめり込むほどの損傷を与えた。
「結構イケズだ、ハニー・ビーちゃん……ハニー・ビーちゃんって長いからビーちゃんでもい?」
「いいよー、じゃあたしはにーさんの事をペガ……」
「それは無しっ!!ビーちゃん凶悪ぅー!」
翔馬がこれほど嫌がるのだから、種族名を個人名にすることはどうやら一般的ではないらしいとハニー・ビーは思った。
この場にいる面々に言っても通じないが、翔ぶ馬と書いてペガサスと読ませるのは押しも押されもせぬ立派なキラキラネームであり、翔馬は幼い頃から名前で揶揄われたり弄られたりしてきたので、元の世界で改名申請中だったりする。
厨二の病持ちの彼は、ペガサスなら天馬だろー?なんで翔馬なんだよっと謎のこだわりも持っていた。
改名後であったら服従の魔法に効果が表れていただろうことから、ペガサスという名前で事なきを得たということを翔馬は知らないままなのだった。
「残念勇者はこれからどうすんの?」
「残念勇者はやめてっ」
「じゃ、ペガ……」
「それはもっとダメっ!……ビーちゃんこそお城から出た後何してた?」
翔馬に問われ、ハニー・ビーはこの二日間の事を話した。聞くうちにどんどんと顔色が悪くなるガーラント達。感心するように頷く翔馬。
「ビーちゃんの方が勇者やれそう。容赦なく殲滅とかしそう」
「あたしは魔女だから」
魔王だのドラゴンだのがあたしをムカつかせたらぶっ潰すけど、世界平和の為にとか冗談じゃないしなーと軽く宣うハニー・ビーの言葉に「頼むから魔女をムカつかせるという暴挙を起こす人間が出てきませんように」と祈るガーラント達。
「とりあえず、ちょっとこの世界を見て回ろうかと思ってるよ。せっかく来たんだしさ。自分の身は自分で守れるし、自分の口を養う位の甲斐性はあるつもりだよ」
逞しい、格好いい、男前……この世界でやっていけるようになるまで頼むとガーラントの支援を求めた翔馬は、自分より十は若いであろう魔女の自信満々な姿に、先ほど聞いた話から分かる実力に、ただただ心の中で賛美の言葉を贈るのだった。
そこで自分の情けなさを嘆くのではなく、魔女って凄い、でも、俺は職業社畜と言う名の一般人だし―と勇者である事を棚に上げておく辺りが、やはり残念勇者の名にふさわしいともいえよう。
翔馬がガーラントに声を掛けそうだと見て取ってハニー・ビーはすばやく防音結界を解いた。
翔馬は結界に気付いていなかったようだが、興奮している翔馬の声が聞こえない時点でさすがに彼らは気が付いただろう。
ハニー・ビー相手に尋ねる勇気はなさそうだし翔馬は口外したくないだろうしで、ガーラント達が今の会話を知る機会は失われたと言っていい。何か言いたげに翔馬を見ているが、翔馬はそれをスルーしている。
よっぽど自分の名前が好きじゃないんだな。
「勇者……でございますか、ショーマ様」
「うん、ハニー・ビーちゃんが鑑定してくれて称号付いてるって。あー、ホント、ごめんね、聖女様じゃなくても、それに近い力があれば良かったんだけど」
「いえ、とんでもない!先ほども申しましたが、謝るべきは当方であり、ショーマ様が謝罪なさることなど何一つございません」
「そりゃそーだ。勝手に召喚していて期待外れだったって言われて、ショーマにーさんは何で謝るかなぁ」
「え、だって、ガーラントさんたちは国の為に問題を解決したくて切羽詰まってんだしさ。出来ることなら何とかしてあげたいじゃん。役に立てなかったら申し訳ないっしょ。分かるでしょ?」
「分からん!」
残念で脳天気な勇者は、随分と心の広いお人好しのようだ。
あたしは魔女だから彼らの頼みを聞けなかったけど、聖女だったとしても聞いてやったかどうか――というか、多分聞いてやらない。
最初に召喚した相手がそんな魔女だったので、ガーラント達の翔馬に対する好感度は高い。
残念勇者ではあるがそれはそれ。
勝手に呼ばれたこの世界で呼んだ自分たちを責めもせず、それどころが労わってくれる相手を、望んだ能力が無いからと言って疎む気持ちなど沸くはずもない。
「ところで勇者ってなにすんの?」
「……さあ?」
ペガサスにーさんも知らないらしい。勇者だーって喜んでいたのに。
「魔王討伐……とか?ドラゴンを倒すとか、戦争とかで活躍するとか……物理的に敵をぶったおす!みたいな。あ、俺、無理だ。平和ボケした日本人で、喧嘩一つしたことないし。武器を扱ったことも武術を習ったこともないし」
ショボンと効果音が付きそうなほどに沈鬱な表情で項垂れる翔馬にガーラントが声をあげる。
「いえ!魔王だのドラゴンだのはこの世界には存在致しませぬ、今現在このランティスにて戦の気配も皆無。ショーマ様がそのように落ち込まれる必要など鮮少たりともございませぬ」
「そ……そっかな?」
「それって昼間のランタンって事かなー」
「昼間のランタン?」
「役に立たないってこと」
ハニー・ビーの空気を読まない発言は、翔馬もガーラントも共に地にめり込むほどの損傷を与えた。
「結構イケズだ、ハニー・ビーちゃん……ハニー・ビーちゃんって長いからビーちゃんでもい?」
「いいよー、じゃあたしはにーさんの事をペガ……」
「それは無しっ!!ビーちゃん凶悪ぅー!」
翔馬がこれほど嫌がるのだから、種族名を個人名にすることはどうやら一般的ではないらしいとハニー・ビーは思った。
この場にいる面々に言っても通じないが、翔ぶ馬と書いてペガサスと読ませるのは押しも押されもせぬ立派なキラキラネームであり、翔馬は幼い頃から名前で揶揄われたり弄られたりしてきたので、元の世界で改名申請中だったりする。
厨二の病持ちの彼は、ペガサスなら天馬だろー?なんで翔馬なんだよっと謎のこだわりも持っていた。
改名後であったら服従の魔法に効果が表れていただろうことから、ペガサスという名前で事なきを得たということを翔馬は知らないままなのだった。
「残念勇者はこれからどうすんの?」
「残念勇者はやめてっ」
「じゃ、ペガ……」
「それはもっとダメっ!……ビーちゃんこそお城から出た後何してた?」
翔馬に問われ、ハニー・ビーはこの二日間の事を話した。聞くうちにどんどんと顔色が悪くなるガーラント達。感心するように頷く翔馬。
「ビーちゃんの方が勇者やれそう。容赦なく殲滅とかしそう」
「あたしは魔女だから」
魔王だのドラゴンだのがあたしをムカつかせたらぶっ潰すけど、世界平和の為にとか冗談じゃないしなーと軽く宣うハニー・ビーの言葉に「頼むから魔女をムカつかせるという暴挙を起こす人間が出てきませんように」と祈るガーラント達。
「とりあえず、ちょっとこの世界を見て回ろうかと思ってるよ。せっかく来たんだしさ。自分の身は自分で守れるし、自分の口を養う位の甲斐性はあるつもりだよ」
逞しい、格好いい、男前……この世界でやっていけるようになるまで頼むとガーラントの支援を求めた翔馬は、自分より十は若いであろう魔女の自信満々な姿に、先ほど聞いた話から分かる実力に、ただただ心の中で賛美の言葉を贈るのだった。
そこで自分の情けなさを嘆くのではなく、魔女って凄い、でも、俺は職業社畜と言う名の一般人だし―と勇者である事を棚に上げておく辺りが、やはり残念勇者の名にふさわしいともいえよう。
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