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06 やられるまえにやれ!がモットーです

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 賑わっている一角へ足を進めると、そこには大きな噴水と公園、その先に市場があった。店舗を構えているのではなく、露店・屋台と言われる店が大通りの両脇に所狭しと並んでいる。


 ハニー・ビーは店先に並んでいる物、それらが売れる様子を確認をする。食料品・日用雑貨・衣類・軽食・装身具などなど。自分の手持ちの物、或いは自作出来る物で売れそうなものを考える。店を出すには元手が必要だけど、その元手を稼ぐにはどうしよう。この国に質屋のようなものは無いだろうか。あったとしても身分証が必要だったら困るな。元の世界だったら、この格好をみて魔女だと知れるし、師匠の名前を出せば話は通しやすい。師匠は良くも悪くも高名で、第三者が名を騙ったりしたらそりゃもう恐ろしい事になるから、名前を出す=知己だと分かりやすいのだ。


 でも、ここではそれが通用しない。


 なにせ、ハニー・ビーは別世界から召喚された人間でこの世界で証明すべき身分なんてない。

 とりあえず、どこかで雇ってもらって働く方がいい?


「お嬢さん、見慣れない格好だねぇ。よその国から来たのかい?」


 今後の動き方を考えていたら、不意にハニー・ビーに声を掛けるものがいた。尤も、彼女は自分を見つめる視線に気が付いていたので、いつ行動に移すのかと待っていたのだが。


「うん、そう。なんか、捜している人と間違われて国から連れてこられんたんだけど、人違いだったみたい」

「それで国に戻してくれることもなくほっぽり出されたのかい」

「うーん。国には戻せないって言われちゃってねー。これからどうしようかなーって思ってたとこ」


 放り出されたのではなく、ハニー・ビー自ら出てきたのだがそれは言わない事にした。国に戻せないと言われたことは本当なのだし。

 話しかけてきたのは四十より上だが五十まではいかないであろう年の、身なりの良い貫禄のある女性だった。髪も肌も手入れされた美しさを持っており、派手な装飾品もハニー・ビーの好みではないが高級そうで、金に不自由しない階級だと知れる。


「その割にあっけらかんとしてる。肝が据わってるね、お嬢さん」

「あたし、ハニー・ビーって言うの。これでも結構修羅場をくぐってんのよ、おねーさん」

「おやおや、そんなに若いのにご苦労なこった。あたしゃグリージョだよ」


 本気にしていないのか、グリージョは軽く笑ってねぎらった。


「けど、他所の国から連れてこられたんじゃ寄る辺も無いやね。よかったらうちで働くかい?お嬢さんくらい若くて別嬪で珍しい色合いで肝が据わってんなら、うちとしちゃ大歓迎なんだがね」

「体を売る気は無いよ?」

「おやおや、勘違いさせちまったかね。うちは売春宿なんかじゃないよ。いや、無理にとは言わないけどさ、困ってんじゃないのかい?」


 心外だと顔に書いてあるようなグリージョに、ハニー・ビーは頷いた。


「そうだね。この国のお金なんて持ってやしないし、真っ当なお仕事なら先ずは見学させてもらえる?」

「なに、困った時はお互いさまさね。善は急げだ。さ、一緒においで」




 優しく笑うグリージョに付いていった結果。



「おー、結構いい稼ぎになった。ありがとね、おねーさん」


 まだ、貨幣の価値も分かっていないが、羽振りの良い様子のグリージョとその手下三人から懐の物を没収したハニー・ビーはそう言った。


「あ……あんた、あたしにこんな事してタダで済むと思ったら……」

「ハイハイ。うん、負け犬は良くそう言うね。いつでもかかって来ていいよ。待ってる。今度はもっと財布を膨らませてきてねっ」


 薄暗い路地でグリージョと荒事に慣れた風な屈強な男三人に対峙したハニー・ビーはホクホク顔である。

 身寄りのない異国の娘で若くて見目もよい。情けごかしで聞こえの良い言葉を連ね、人気のないところで待ち構えていた部下たちに少女を攫わせようとしたグリージョは見事に返り討ちにあった。いいカモだと思えたハニー・ビーは、これまで拐しや人身売買などで身過ぎ世過ぎしてきたグリージョの想像の範疇外の力を持っていたのだが、それを知った時は手遅れ感極まりない。


「おねーさん、横道者の匂いをプンプンさせてイイ人ぶっても駄目だね。あたし、悪意や敵意は肌で分かるし、悪党は匂いで分かるんだ―。凄いでしょ?あ、師匠に教わった事の一つに”悪党に情け無用”と”やられたらやり返せ!”ってのがあるんだけど、どこまでやっていいのかなー」


「あ……あたしらはまだ何もしちゃいないだろうがっ!」


 それは確かである。


 薄暗い路地に連れ込んだハニー・ビーを三人の屈強な男たちで囲い、彼女の容姿がいかに珍しくて金になるかを語り、王の御膝下じゃ拙いだろうから外国に売り飛ばそう、そう謳っただけで、まだ、直接的な危害を加えた訳ではない。それに対しハニー・ビーは「動くな!」と魔力を乗せた声でのたまい、動けなくなった四人の懐を探って財布と金目の物を奪い取った。行動の是非を問うなら、少女の方が犯罪者と言われても仕方がない。


「あー、”やられたらやり返せ”の上級編に”やられる前にやれ”ってのもあるんだー」


 ハニー・ビーはにっこにこであった。



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