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帰路は浄化や正常化の必要もなく、まっすぐ戻ったので半月しかかからなかった。
王子たちに神霊山で出会った神霊獣から聞いたことを説明し、魔脈の異常はほどなく収まるであろうこと、神様の采配次第だけれど今後はこのような厄災は起きにくくなるはずだということを説明した。
私の言葉が真実であることはすぐに判明する。私が回っていない地方でも災害が目に見えて減り、瘴気を目視できる神官からもだんだん薄くなってきているという報告が上がってきたそうだ。
文献に照らし合わせれば、今回の災厄はまだ末期症状ではなく終息まで時間がかかると踏んでいたところに突然の瘴気霧散の報告。私の報告に間違いが無いことを納得したそうだ。
「さすが聖女殿」
実行犯がホクホクの笑顔で言っているが「さすが俺!」と言っているように聞こえるのは気のせいか。
「心から感謝する、聖女殿。あなたには不条理であったことは承知しているが、これで我が国の民は救われる。この恩に報えるよう、帰還の方法については引き続き情報を集積させることを誓う」
王子の弁は「用が済んだから帰っていいよ」ってことか。そもそもちゃんと探してたのか、お前。
「ああ、帰還方法については気にしなくていいよ」
私はそういうと王子は意外に思ったのか目を瞬かせている。いや、もうアンタらに探してもらう必要ないし。
神聖獣から界渡りについて教えを受けたことは言っていない。使えるようになるまであきらめないが、まだ使えもしない魔法を”これを使って帰る”とは言えない。見栄っ張りだとは思うけど、まだできないのかとこいつらに見下されるのは勘弁だ。
「ふん。どうせならわが国だけが災禍から逃れる方法を見つけてほしかったな。他国に優位に立てる」
主犯は自分の国さえ大丈夫ならそれでいいというのか。身勝手極まりない。異世界の人間を召喚した時点でそれは分かっていたことだけど。
「聖女様ならきっとお力を尽くして下さると思っておりましたわ」
キャスリーン、お前がなぜここにいる。そして何気に上から目線。
「で、何の用?」
誘拐犯プラスアルファの話をぶった切って私は聞く。話があるからって呼び出しておいて、まさかお褒めの言葉を与えよう――ってだけじゃあるまい。もしそうなら暴れる。界渡りの初歩の初歩でつまずいている私には、誘拐犯たちに割く時間なんて無いのだ。
神霊獣に難しいって言われたけど、本当に難しい!
誘拐犯たちの話を謹聴しない私に鼻白んだ様子の面々に、私は顎をしゃくって話を促すと口を開いたのは王子だった。
「あー、コホン。聖女殿のおかげをもって国は救われた」
それはもう聞いた。
「聖女殿への感謝と国難を乗り越えたことを祝し、盛大に式典を催すこととなった。ついては聖女殿も――」
「あ、お断り」
「いや、聖女殿のための式典だぞ?参加してもらわなくては困る。主役不在というわけにはいかない」
「最初に言ったよね?私はそういうのに一切かかわらない。そもそも対価として衣食住と帰還方法を探すってことだけなのに、そんな面倒くさい話を持ってこられても」
馬鹿々々しい。自分たちの功績を誇示したいだけだろうに。私を誘拐したことを”功績”とされることに腹は立つが、それはもう仕方のないことと諦めた。実際に召喚のおかげでこの国は危機を脱出したわけだし。
私は認めてないけどな!
周りがそう思っているのはもう、この際どうしようもない。
「お話がそれだけなら……」
「もちろん、褒賞も準備しているぞ?お前が言う対価に相応しいものを」
主犯が言う。誰が褒美をくれって言ったよ?アンタが出すわけじゃないだろうに、なぜそうも偉そうなのかが分からん。
「お前のような者が爵位をもらっても困るだろうから、教会にて教皇猊下から直々に聖女認定をしてもらう。以後はあくせく働かずとも悠々と暮らせるだろう。この国の象徴としてな」
「要らない」
誰がそんなものを欲しがるというのか。私は最初から帰ると言っているのに、この世界で聖女認定されたり財産貰ったりしてどうしろと。
「だが、この国に残るという決意をしたのだろう?」
「ええ、瘴気の浄化と魔脈の正常化という偉業を成した今、特にすべきこともないでしょうに、それでも残って下さる慈悲深い聖女様ですもの。国として十分な補償はすべきですわ。そうですわね。それなりの縁組を用意させていただきましょう」
実行犯と王子婚約者が言うけど、誰がこの国に残るって言った?帰還方法を探さなくていいっていう言葉でか。
「私は元の世界に帰ることを諦めたつもりはない」
実際にその方策は立っている。
「アンタらに期待しないってだけ」
「聖女殿!」
言い捨てて私は部屋を出た。
ドアを閉める前に不遜だとか身分を弁えろとか聞こえたけど知らんぷり。
式典に参加することになったら、やれドレスを作るだの立ち居振る舞いを強制するだのマナーを学べだのという面倒くさいことになるのは目に見えている。この格好のまんまで一言挨拶して終わるわけがない。
そんなことに時間を取られるのはまっぴらだ。
……そう思っていたんだけど、諦めない誘拐犯たちに私が折れた。
毎日毎日何度も何度もやってくるんだよ、あいつら。「お断り」の一言で追い返してはいるけれど、ただでさえ神聖獣が難しいと言った界渡りの修練がそのたびに中断されてはかが行かない。追い返してさてもう一度と思うと、また別の人間がやってくる。
いっそのこと城を出てしまおうかとも考えたけど、いまから住む場所やたつきを求めるのも面倒くさい。すぐにこの世界からいなくなろうという私が生活基盤を作るのはどう考えてもおかしい。
何度断ってもめげずに突撃してくるあいつらに集中力を乱されて修練が進まない状況を改善するには、もう、一回だけと言って式典に出たほうがましではないかと……。
ああ、面倒くさいっ。
私に落ち着いて界渡りの訓練をする環境を寄こせー!
王子たちに神霊山で出会った神霊獣から聞いたことを説明し、魔脈の異常はほどなく収まるであろうこと、神様の采配次第だけれど今後はこのような厄災は起きにくくなるはずだということを説明した。
私の言葉が真実であることはすぐに判明する。私が回っていない地方でも災害が目に見えて減り、瘴気を目視できる神官からもだんだん薄くなってきているという報告が上がってきたそうだ。
文献に照らし合わせれば、今回の災厄はまだ末期症状ではなく終息まで時間がかかると踏んでいたところに突然の瘴気霧散の報告。私の報告に間違いが無いことを納得したそうだ。
「さすが聖女殿」
実行犯がホクホクの笑顔で言っているが「さすが俺!」と言っているように聞こえるのは気のせいか。
「心から感謝する、聖女殿。あなたには不条理であったことは承知しているが、これで我が国の民は救われる。この恩に報えるよう、帰還の方法については引き続き情報を集積させることを誓う」
王子の弁は「用が済んだから帰っていいよ」ってことか。そもそもちゃんと探してたのか、お前。
「ああ、帰還方法については気にしなくていいよ」
私はそういうと王子は意外に思ったのか目を瞬かせている。いや、もうアンタらに探してもらう必要ないし。
神聖獣から界渡りについて教えを受けたことは言っていない。使えるようになるまであきらめないが、まだ使えもしない魔法を”これを使って帰る”とは言えない。見栄っ張りだとは思うけど、まだできないのかとこいつらに見下されるのは勘弁だ。
「ふん。どうせならわが国だけが災禍から逃れる方法を見つけてほしかったな。他国に優位に立てる」
主犯は自分の国さえ大丈夫ならそれでいいというのか。身勝手極まりない。異世界の人間を召喚した時点でそれは分かっていたことだけど。
「聖女様ならきっとお力を尽くして下さると思っておりましたわ」
キャスリーン、お前がなぜここにいる。そして何気に上から目線。
「で、何の用?」
誘拐犯プラスアルファの話をぶった切って私は聞く。話があるからって呼び出しておいて、まさかお褒めの言葉を与えよう――ってだけじゃあるまい。もしそうなら暴れる。界渡りの初歩の初歩でつまずいている私には、誘拐犯たちに割く時間なんて無いのだ。
神霊獣に難しいって言われたけど、本当に難しい!
誘拐犯たちの話を謹聴しない私に鼻白んだ様子の面々に、私は顎をしゃくって話を促すと口を開いたのは王子だった。
「あー、コホン。聖女殿のおかげをもって国は救われた」
それはもう聞いた。
「聖女殿への感謝と国難を乗り越えたことを祝し、盛大に式典を催すこととなった。ついては聖女殿も――」
「あ、お断り」
「いや、聖女殿のための式典だぞ?参加してもらわなくては困る。主役不在というわけにはいかない」
「最初に言ったよね?私はそういうのに一切かかわらない。そもそも対価として衣食住と帰還方法を探すってことだけなのに、そんな面倒くさい話を持ってこられても」
馬鹿々々しい。自分たちの功績を誇示したいだけだろうに。私を誘拐したことを”功績”とされることに腹は立つが、それはもう仕方のないことと諦めた。実際に召喚のおかげでこの国は危機を脱出したわけだし。
私は認めてないけどな!
周りがそう思っているのはもう、この際どうしようもない。
「お話がそれだけなら……」
「もちろん、褒賞も準備しているぞ?お前が言う対価に相応しいものを」
主犯が言う。誰が褒美をくれって言ったよ?アンタが出すわけじゃないだろうに、なぜそうも偉そうなのかが分からん。
「お前のような者が爵位をもらっても困るだろうから、教会にて教皇猊下から直々に聖女認定をしてもらう。以後はあくせく働かずとも悠々と暮らせるだろう。この国の象徴としてな」
「要らない」
誰がそんなものを欲しがるというのか。私は最初から帰ると言っているのに、この世界で聖女認定されたり財産貰ったりしてどうしろと。
「だが、この国に残るという決意をしたのだろう?」
「ええ、瘴気の浄化と魔脈の正常化という偉業を成した今、特にすべきこともないでしょうに、それでも残って下さる慈悲深い聖女様ですもの。国として十分な補償はすべきですわ。そうですわね。それなりの縁組を用意させていただきましょう」
実行犯と王子婚約者が言うけど、誰がこの国に残るって言った?帰還方法を探さなくていいっていう言葉でか。
「私は元の世界に帰ることを諦めたつもりはない」
実際にその方策は立っている。
「アンタらに期待しないってだけ」
「聖女殿!」
言い捨てて私は部屋を出た。
ドアを閉める前に不遜だとか身分を弁えろとか聞こえたけど知らんぷり。
式典に参加することになったら、やれドレスを作るだの立ち居振る舞いを強制するだのマナーを学べだのという面倒くさいことになるのは目に見えている。この格好のまんまで一言挨拶して終わるわけがない。
そんなことに時間を取られるのはまっぴらだ。
……そう思っていたんだけど、諦めない誘拐犯たちに私が折れた。
毎日毎日何度も何度もやってくるんだよ、あいつら。「お断り」の一言で追い返してはいるけれど、ただでさえ神聖獣が難しいと言った界渡りの修練がそのたびに中断されてはかが行かない。追い返してさてもう一度と思うと、また別の人間がやってくる。
いっそのこと城を出てしまおうかとも考えたけど、いまから住む場所やたつきを求めるのも面倒くさい。すぐにこの世界からいなくなろうという私が生活基盤を作るのはどう考えてもおかしい。
何度断ってもめげずに突撃してくるあいつらに集中力を乱されて修練が進まない状況を改善するには、もう、一回だけと言って式典に出たほうがましではないかと……。
ああ、面倒くさいっ。
私に落ち着いて界渡りの訓練をする環境を寄こせー!
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