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最終章
125 神様にお願い
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正直、マリア様の事は好きではない。積極的に嫌いだと言ってもいい。
けれど。
もしかしたら、マリア様も記憶さえなければ普通に生きて行けたんじゃないのかとも思う。
隣国の王家での扱いは酷いものだったらしく、前回も今回も記憶があることで優位に立ちまわることが出来たらしいが……それでも、記憶があって良かったねというようには思えない。優位に立ち回って上手くやっていると思っていたのは本人だけで、前回も今回も破滅への一本道を突き進んだようにしか思えないからだ。
「神様のミスがあったかどうかは、俺には分からない。けど、それってシシィ様が気にすること?」
「そうだよ、シシィ。前世や前回の記憶があろうがなかろうが、あの女のやったことは許されない事だ」
うん、それは確かだ。前回のシシィ・ファルナーゼを陥れて死に追いやった事、今回のシシィである私に刃を向けた事、どちらも許されるものではない。
「マリア様は今、魔力暴走の影響で心神喪失なんです。その状態では裁判も出来ず罪の確定も出来ない。それを国庫で養っていくのも無駄でしょう?」
「……裁判できなくても、公爵令嬢であるシシィ様に危害を加えようとした時点で、罪は確定できるんじゃ?」
「出来なくはないですね。第一王子殿下も当事者ですから極刑でしょう」
「じゃ、何で?」
うん、放っておけと言われるのは分かってた。
「実は、マリア様は伯爵家の養女ですが、公式に認められてはいないものの隣国の王の子です」
「えっ、いやっ。俺にそんな話しないでっ。こうして国に囲い込まれてはいるけど、俺は政治とか外交とかそいういうのから遠い所にいるんでっ。知らなくていい事は知りたくないっ」
「でも、もう聞いちゃいましたねー」
「酷いっ、シシィ様酷いっ」
「シシィの何が酷い?情報は多ければ多いほどいいだろうに」
「そういう問題じゃないよ、スピネルさん。一般庶民に王族の秘密情報とか知る必要がないどころか害だからっ」
それはそうだろう。けど、神への伝言を頼むなら、なぜ処罰を躊躇うのかは知っておいてもらわないと。勇者が一般庶民かどうかは置いておいて。
「神様へのお願いなのですが、マリア様の魂を回収して浄化していただくことは可能でしょうか?記憶もちゃんと洗い流して、出来ればこことは違う世界への輪廻を願いたいのです」
要望が予想外だったか、勇者が眉をひそめて私を見た。
「それってあの子を助けたいって事?言っちゃなんだけど、それって偽善じゃないかな?神様からのご褒美なんて、滅多に貰えるもんじゃないし自分のために使えばいいと思う」
ああ、そうとったか。
「マリア様の為ではありません。私の為です。私は自分がいつか断罪されて殺されるという未来を恐れ、それを回避するために試行錯誤していました。17歳で死ぬ運命だと思っていましたから。マリア様が前世と前回の記憶を持っているだろうからと、積極的に関わることはしませんでした」
むしろ避けていた。幸いにも王子さまも前回の記憶を持っていたし、乙女ゲームの展開とはどんどんかけ離れていって、断罪どころか幸せいっぱいだ。
だから思う。
あの思い込みの激しいマリア様を、分かってもらうのは無理だからと諦めるのではなく、もっと別に打つ手はなかっただろうかと。
彼女の破滅を避ける手段はあったんじゃないだろうか。助けるなんて言うと烏滸がましいけど、話し合っていれば、あそこまで彼女が壊れることはなかったのではないか。自分の死亡フラグの事ばかりを気にしていたせいで、結果論ではあるがマリア様の邪魔ばかりをしていた。それが悪い事だったとは今も思っていないが、どうしても”私のせいで”という上から目線の感情も沸いてくる。
このまま彼女が処刑され、その後どうなるのか分からないままでは、私はマリア様の事を一生引き摺ってしまう。
だから、マリア様がこの世界から解き放たれて、まっさらになって欲しい。
私の為に。
「なるほど、偽善じゃなくてお人好し、かなぁ」
私の気持ちを説明したら、何故か勇者にお人好し認定されてしまった。いや、そうじゃないよ?私がこれから憂いなく生きていく為のお願いだから、利己的なんだよ?
そう言っても苦笑いするだけの勇者に、私は説明を諦めた。
勇者にお人好しと誤解されたって、別段困ることもない。
「神様がいま生きている人間に対して魂を抜くなんて出来ないというなら、処刑された後でもいい。マリア様がまっさらになることを保証してほしい」
処刑と神による魂奪取とどちらがより残酷で、辛いのかは分からない。処刑はマリア様の行いからして当然だろうとは思うが、知己がそうなるというのは気分がいいものではない。
王子さまが関わって無ければ、被害者である私の陳情で罪一等を減じる位は出来たかもしれないが、私を庇った王子(はっきり言って邪魔だったが)に文句をいう訳にもいかない。
だからせめて。
死後に希望を持たせてほしい。
「分かった。何処まで通るか分からないけど、クソジジイにシシィ様の希望は伝えるよ。――で、これから二人はどうすんの?」
勇者に聞かれ、私はスピネルを見上げてにっこり笑って言う。
「先ずはダンジョン!」
「え?ダンジョン!?」
「そう!マリア様が持っていた魔法剣が、ダンジョン産なんだって!私も入手したいのです」
これはスピネルも了承済み。彼ほど私の魔法剣への熱意と情熱を理解してくれている人はいない。
「あと、この世界をいろいろ見て回ります。スピネルの国に行って、息子さんを私に下さいって挨拶もしなきゃならないし、出来たら海のある国に行って海産物も食べたいし、ずっと行きっぱなしにはならないけど、いっちゃんとそうちゃんに狭間へ連れて行ってもらって、二人の配下に親分をずっと借りててゴメンねってお詫びもしたい」
「したい事がいっぱいだね」
「そうなんですよー」
「全部叶えよう、シシィ。ずっと一緒だから」
「うん、何処に行くのもスピネルが一緒じゃないとダメだし」
「当たり前。シシィが行くところならどこまでも」
ダンジョンにも竜王国にも狭間にも行きたいという気持ちはあるけれど、本当はスピネルが一緒なら何処でもいい。何処へ行っても一緒なら楽しいだろうと思う。
「……フラれ男の前でいちゃいちゃはやめてぇぇぇえええっ」
大丈夫!きっと勇者にもいつかいい人が現れるから!――希望的観測だけど。
「では、勇者様、神様へのおねだりの件宜しくお願いします」
「うん、わかった。二人も気を付けてね」
「ありがとう」
勇者に挨拶をした後、スピネルが私に手を差し出してくれる。
「行こう、シシィ。何処までも一緒に」
うん、スピネル。
どこまでも一緒に。
けれど。
もしかしたら、マリア様も記憶さえなければ普通に生きて行けたんじゃないのかとも思う。
隣国の王家での扱いは酷いものだったらしく、前回も今回も記憶があることで優位に立ちまわることが出来たらしいが……それでも、記憶があって良かったねというようには思えない。優位に立ち回って上手くやっていると思っていたのは本人だけで、前回も今回も破滅への一本道を突き進んだようにしか思えないからだ。
「神様のミスがあったかどうかは、俺には分からない。けど、それってシシィ様が気にすること?」
「そうだよ、シシィ。前世や前回の記憶があろうがなかろうが、あの女のやったことは許されない事だ」
うん、それは確かだ。前回のシシィ・ファルナーゼを陥れて死に追いやった事、今回のシシィである私に刃を向けた事、どちらも許されるものではない。
「マリア様は今、魔力暴走の影響で心神喪失なんです。その状態では裁判も出来ず罪の確定も出来ない。それを国庫で養っていくのも無駄でしょう?」
「……裁判できなくても、公爵令嬢であるシシィ様に危害を加えようとした時点で、罪は確定できるんじゃ?」
「出来なくはないですね。第一王子殿下も当事者ですから極刑でしょう」
「じゃ、何で?」
うん、放っておけと言われるのは分かってた。
「実は、マリア様は伯爵家の養女ですが、公式に認められてはいないものの隣国の王の子です」
「えっ、いやっ。俺にそんな話しないでっ。こうして国に囲い込まれてはいるけど、俺は政治とか外交とかそいういうのから遠い所にいるんでっ。知らなくていい事は知りたくないっ」
「でも、もう聞いちゃいましたねー」
「酷いっ、シシィ様酷いっ」
「シシィの何が酷い?情報は多ければ多いほどいいだろうに」
「そういう問題じゃないよ、スピネルさん。一般庶民に王族の秘密情報とか知る必要がないどころか害だからっ」
それはそうだろう。けど、神への伝言を頼むなら、なぜ処罰を躊躇うのかは知っておいてもらわないと。勇者が一般庶民かどうかは置いておいて。
「神様へのお願いなのですが、マリア様の魂を回収して浄化していただくことは可能でしょうか?記憶もちゃんと洗い流して、出来ればこことは違う世界への輪廻を願いたいのです」
要望が予想外だったか、勇者が眉をひそめて私を見た。
「それってあの子を助けたいって事?言っちゃなんだけど、それって偽善じゃないかな?神様からのご褒美なんて、滅多に貰えるもんじゃないし自分のために使えばいいと思う」
ああ、そうとったか。
「マリア様の為ではありません。私の為です。私は自分がいつか断罪されて殺されるという未来を恐れ、それを回避するために試行錯誤していました。17歳で死ぬ運命だと思っていましたから。マリア様が前世と前回の記憶を持っているだろうからと、積極的に関わることはしませんでした」
むしろ避けていた。幸いにも王子さまも前回の記憶を持っていたし、乙女ゲームの展開とはどんどんかけ離れていって、断罪どころか幸せいっぱいだ。
だから思う。
あの思い込みの激しいマリア様を、分かってもらうのは無理だからと諦めるのではなく、もっと別に打つ手はなかっただろうかと。
彼女の破滅を避ける手段はあったんじゃないだろうか。助けるなんて言うと烏滸がましいけど、話し合っていれば、あそこまで彼女が壊れることはなかったのではないか。自分の死亡フラグの事ばかりを気にしていたせいで、結果論ではあるがマリア様の邪魔ばかりをしていた。それが悪い事だったとは今も思っていないが、どうしても”私のせいで”という上から目線の感情も沸いてくる。
このまま彼女が処刑され、その後どうなるのか分からないままでは、私はマリア様の事を一生引き摺ってしまう。
だから、マリア様がこの世界から解き放たれて、まっさらになって欲しい。
私の為に。
「なるほど、偽善じゃなくてお人好し、かなぁ」
私の気持ちを説明したら、何故か勇者にお人好し認定されてしまった。いや、そうじゃないよ?私がこれから憂いなく生きていく為のお願いだから、利己的なんだよ?
そう言っても苦笑いするだけの勇者に、私は説明を諦めた。
勇者にお人好しと誤解されたって、別段困ることもない。
「神様がいま生きている人間に対して魂を抜くなんて出来ないというなら、処刑された後でもいい。マリア様がまっさらになることを保証してほしい」
処刑と神による魂奪取とどちらがより残酷で、辛いのかは分からない。処刑はマリア様の行いからして当然だろうとは思うが、知己がそうなるというのは気分がいいものではない。
王子さまが関わって無ければ、被害者である私の陳情で罪一等を減じる位は出来たかもしれないが、私を庇った王子(はっきり言って邪魔だったが)に文句をいう訳にもいかない。
だからせめて。
死後に希望を持たせてほしい。
「分かった。何処まで通るか分からないけど、クソジジイにシシィ様の希望は伝えるよ。――で、これから二人はどうすんの?」
勇者に聞かれ、私はスピネルを見上げてにっこり笑って言う。
「先ずはダンジョン!」
「え?ダンジョン!?」
「そう!マリア様が持っていた魔法剣が、ダンジョン産なんだって!私も入手したいのです」
これはスピネルも了承済み。彼ほど私の魔法剣への熱意と情熱を理解してくれている人はいない。
「あと、この世界をいろいろ見て回ります。スピネルの国に行って、息子さんを私に下さいって挨拶もしなきゃならないし、出来たら海のある国に行って海産物も食べたいし、ずっと行きっぱなしにはならないけど、いっちゃんとそうちゃんに狭間へ連れて行ってもらって、二人の配下に親分をずっと借りててゴメンねってお詫びもしたい」
「したい事がいっぱいだね」
「そうなんですよー」
「全部叶えよう、シシィ。ずっと一緒だから」
「うん、何処に行くのもスピネルが一緒じゃないとダメだし」
「当たり前。シシィが行くところならどこまでも」
ダンジョンにも竜王国にも狭間にも行きたいという気持ちはあるけれど、本当はスピネルが一緒なら何処でもいい。何処へ行っても一緒なら楽しいだろうと思う。
「……フラれ男の前でいちゃいちゃはやめてぇぇぇえええっ」
大丈夫!きっと勇者にもいつかいい人が現れるから!――希望的観測だけど。
「では、勇者様、神様へのおねだりの件宜しくお願いします」
「うん、わかった。二人も気を付けてね」
「ありがとう」
勇者に挨拶をした後、スピネルが私に手を差し出してくれる。
「行こう、シシィ。何処までも一緒に」
うん、スピネル。
どこまでも一緒に。
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