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最終章

124 ご褒美が戴けるそうです

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「ごめんね、俺の話ばっかりして」


 勇者が申し訳なさそうに言うと、まだ私の髪を弄っていたスピネルがうんうんと頷く。おいおい、お前は聞いてなかっただろうに。


「いえ、勇者様も大変でしたよね。でも、勇者様ならこれからきっと素敵な方と良い出会いがありますよ」


 なんせ”真っ当”な人だからね。ただ、そういう人は得てして恋愛対象にならない事もあるらしい。勇者がいい人止まりで終わらない事を祈る。


「勇者様は、その役目が無くなった今も神様と連絡がついたりします?」


 国を出て旅に出る前のご挨拶もあったけれど、もしもまだ神と連絡が取れるならと思ってここに来たのだ。


「ん?クソジジイ?」

「ええ、どうです?」

「十日にいっぺんくらい愚痴の聞き役にされてる」


 なんと!

 使命を与えておいた時にはうっかり続きで連絡を碌にしてこなかったと聞いているのに、今になって十日に一回――しかも愚痴とは、神って図々しいな。


「ああ、クソジジイからシシィ様に言伝があったんだ。こっちから訪ねていこうと思ってたところだから、丁度良かった」


 あれま。

 勇者から話は聞いているし、私が意図せずに暗黒竜に関して担った役割を知られてもいるだろうけど、まさか、私個人に神からの言葉があるとは思わなかった。


「今回のシシィ様の行動で暗黒竜による危機が未然に防がれた。だから、ご褒美に何かおねだりしていいって」

「ご褒美!」

「うん。クソジジイがそう言った時、お付きみたいな人にギャーギャー言われてたけど、シシィ様だったら後々問題になるような事をお願いしたりしないだろうしさ」

「問題とはどういう意味?」


 過保護スピネルは、私に関することに関しては子供を産んだばかりの母猫のように気が尖る。どうどう、勇者は”そんなことをしない”と言う前提で話してくれてるんだから。


「んー、例えば世界征服、とか?人類最強になりたい、とか?」


 世界征服なんて面倒くさいししたいと思ったこともない。最強になりたかったら自分を鍛えます。神に強請ってズルした世界最強なんて、絶対に詰まらない。そもそも、強く在りたいとは思っているけど、世界最強に憧れも無い。


 勇者の出した例え話を聞いて、スピネルは馬鹿にしたように鼻で笑った。


「ね、無いでしょ?」

「あり得ない」

「シシィ様だったら、他の人が聞いたら細やかだろうと思ったり、みんなの為になったりすることをお願いするんじゃないかなー。或いはスピネルさんの為になる事とか」


 か……買いかぶられても困る。

 神様がご褒美くれるって言うんで、私は、誰のためにもならない細やかではないお願いをしたいと心に決めてしまっているのだ。

 ゴメン、スピネル、期待したような目で見ないで。スピネルのことじゃない。


「あー、お願いの前に、神様から連絡があったら神託の件で滅茶苦茶迷惑を被ってると伝えてください。でっちあげの聖なる乙女が私だとバレたのはこっちの問題なんですが、そこから何故か聖女扱いされて屋敷の前は人だかり、一歩も外に出れないようになりまして」

「ありゃりゃ。勇者の俺でもそこまでじゃないのに」

「勇者様は、脅威が無ければ縋られないでしょうけど、私の場合、病を治してくれだの呪いを解いてくれだのって人たちが来ましてねー。そんな力ないって、私は聖女じゃないって、そう言っても聞いてくれやしない」

「ああ、ありそー」

「それはそれで、屋敷に二人で籠っていられるから問題は無かった」


 いや、あるよ、スピネル。問題だらけだよ。

 勇者も「いいなー、愛する人とお籠り。うっ……ラウラぁ……」とか呟かないで。あなたは”真っ当”属性なんだから、監禁したいヤンデレのような発言はダメだ。


「挙句に私を聖女にしたい、わが国の聖心教会から冤罪掛けられて破門までされて、呼び出し食らったから教会を壊して出奔したんですけど」

「え!?出奔するのに教会壊す必要ある!?」


 そこですか。その前に冤罪とか破門とか気にして下さい。

 実際に教会を壊したのは、スピネルといっちゃんとそうちゃんだけど、原因が私なんで責任は私にあるからなぁ。


「親御さんたちは大丈夫?こっちの国と違って、シシィ様の所は教会と拗れたら生活しにくくなるでしょう?」


 おお、さすが諸国を旅していた勇者。うちの国の事情にも詳しいのか。「国の在り方と宗教関係は知っておかないと話が拗れるから」と言われ、確かにそういうものなのだろうと思った。そして、さすが”真っ当”なだけあって、うちの親の心配までしてくれる。いい人だ。いい人止まりで終わりそうなくらいにいい人だ。


「両親は、ファルナーゼ家を敵に回せるもんなら回してみろ、くらいの勢いでした。国を出る事を考えていた時に背中を押してくれたのも両親です」

「素敵なご両親だね」

「ええ、自慢の親です。ですが、心配をかけて迷惑もかけてしまってますし、その原因はあの神託ですので、もしも神様と勇者様がお話する機会があったら、文句の一つでも言っておいてもらおうと思って」

「うん、了解。そんな目に遭えば、文句の一つや二つや三つ言いたいよね。俺からきっちり伝えとく」

「ありがとうございます。それで、ご褒美なんですが」

「あ、もう、そっちも決まった?」


 最初から神へのお願いありきで勇者を訪ねてきたので、決まったも何もないのだ。けど、スピネルが嫌がりそうなんだよなぁ。


「マリア様のことなのですが……」

「マリア様って……あのいっちゃってる感じの子、だよね?」


 マリア様の名前を出した瞬間に、スピネルから痛いほどの怒りが発せられたけど、無視無視。

 私はスピネルの方を見ずに、勇者に頷いて言葉を続ける。


「マリア様がだったのは、前世の方だかこの世界の方だかは分からないけど、神様によるミスだった……ってことはありませんか?前回のシシィ・ファルナーゼのように、必要な処置がされずに浄化されない状態だったとか」


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