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最終章

123 勇者との再会

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「俺、俺ね、本当に好きだったんだよ……」

「うんうん、そうだよね、好きだったんだよね」

「今度こそ、ちゃんとやらなきゃならない事をやってから、全てが済んでから告白しようと思って……」

「うん、偉いと思う。頑張ったね」


 聖心教会を無事に後にしてから、私とスピネルは勇者を訪ねるために国を出た。


 ……ああ、無事だったのは私とスピネル、いっちゃんそうちゃんで、教会の建物はなんというか……半壊?してしまった。


 やったのは私でもスピネルでもない。いっちゃんとそうちゃんだ。


 建物の外で待っていたいっちゃんたちに、私に魔女の冤罪を着せようとした教皇の話をスピネルがしたもんで、まー、怒り狂ったね、いっちゃんたち。まさか、ファルナーゼ家に修理代請求にいかないよね?行ったら、お父様とお母様が嬉々として教会をいたぶるだろうから、行かない方が身のためだと思って去り際に助言させてもらったけども。


 常世の森で喧嘩しているのを見たときに、馬の二頭で自然破壊!と思っていたけど、あれは仲間内のじゃれ合い程度だったのだと、教会の壊れっぷりで知ることとなりました。自分の目で見たことだけど、なんで二頭の馬で大きく頑丈な筈の教会が壊れたのか、いまだに納得がいっていない。


 そして、勇者との再会。「お久しぶりです、お元気にしていらっしゃいましたか?」と尋ねた私に「元気だよ」と言いつつも彼は憔悴しており、隈を作った青い顔で私たちを迎えてくれたのだ。


 暗黒竜退治は成されなかったけれど、そこは神託を受けた勇者。聖剣持ちということもあり、彼の国ではかなりの好待遇を受けていて、王城の傍に大きな屋敷を構えていた。案内してくれた応接室も落ち着いた雰囲気の良い部屋で、家具も出されたお茶も高級品だ。


 危機は去ったとはいえ、聖剣持ちの神託の勇者が国外に出たらまずいもんね。


 神様のすっとこどっこいのせいで不遇をかこった勇者だけど、人の世界では報われているようで幸いだ。


「前回にね、俺、竜を倒したら伝えたい事があるってラウラに言ったんだ。あ、ラウラっていうのは前回、同じ職場で働いた同僚でさ、俺は彼女の事が好きで彼女もまんざらでもないって感じで、友達よりは近い距離だけどまだ恋人ではない――って感じで」


「それはフラグ……」


「それ!クソジジイも言ってた!死亡フラグって!」


「はぁ……、神様って、私の前世で使われていたスラングとか知ってるんだ」


 もしかして、神様も前世で日本人だったとか?


「シシィ、何、死亡フラグって?」


「あのね、前世の話なんだけど、映画……お芝居で、戦争に行く主人公の同僚兵士の台詞で”この戦争が終わったら結婚するだ”ってのがあって」


「ああ、うん、なんとなく分かった」


「うん、そうなんだ。その台詞を言った兵士は、その十分後に死んじゃった」


 死亡フラグと言う言葉の元になった映画の話をしたら、勇者が目に見えて沈んでいった。物理的に。穴を掘ってでも埋まりたいといった様子でソファに倒れ込み、更には床に崩れ落ちてしまった。


 そうだね、前回の”竜を倒したら伝えたい事がある”って、まんま告白予告で死亡フラグで……実際に暗黒竜に殺されちゃったんだから、勇者が沈没するのも無理はない。


 ここから勇者の愚痴が始まった。


「巻き戻った後は同じ職場に就く訳にも行かなったでしょ?ほら、鍛錬したり能力伸ばしたり諸国回って協力者求めたりしなきゃならなかったから」

「うんうん」

「そのせいでラウラと会う事も無くて」

「だよねー」

「そうやって頑張ってたのに、クソジジイは伝えるべきことをうっかり忘れるし、ラウラには会えないし、ボンクラだから注意不足だからって傍に居るヤツは言うし、ラウラには会えてないし!」

「そうかー」

「でも、竜の件が片付いたから……それもクソジジのうっかりのせいだけど、でも片付いたからラウラに会いに行って」

「ほうほう、それでどうなった?」


 ま、このウジウジっぷりからすると上手くはいかなかったってのは分かる。前回は職場の同僚でいい雰囲気になったとしても、今回においては初めましてなのだから。――いきなり告白とかしていないだろうな?属性真っ当なんだから、それは無いか。


 スピネルはもうすっかり勇者の話に飽きて、私の髪を弄って遊んでいる。気持ちいいからいいけど。


「……結婚してた」

「ええっ!?」

「クソジジイの最初の神託が公式に発表された時、ラウラを好きだった男が”もしもこの世が終わってしまうとしたら、最後はあなたと一緒にいたい”って求婚したんだって……」

「それはまた、何と言ったらいいか」

「俺ね?この世を終わらせないために頑張って勇者やってたんだよ?」

「うんうん、知ってます」

「なのにね?そんな事を全然知らない奴が、この世界が終わるかもしれないってんでラウラを掻っ攫っちゃったんだ」

「……それは辛かったですね」

「ラウラもその男も悪くないのは分かってる。前回の時だって、別に恋人だったわけじゃないし、今回はまだ会った事も無いし、でもね、なんかこう納得いかないというか理不尽だと思ってしまうというか」

「分かります、分かります」


 確かにラウラさんもその旦那さんも悪くない。誰が悪いかと言うと……


「くっそーっ!あのクソジジイのせいでっ!」


 うん、神様だよね、やっぱり。


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