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最終章

120 いざ教会 3

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 案内されて入った広間で先ず、数段高い所で豪華な椅子にキラキラしい祭服を着て座った男が目に入る。以前に何度か話をした事がある教皇だ。


 現教皇は、あまり威厳とは縁の無さそうなちょび髭の男だ。

 前世で喜劇王と言われていたちょび髭の人の、髪と髭が白いヴァージョン。


 教皇の背後に二人立っているのは警護の人かな?広間の左右の壁にそってずらりと並んでいる人たちは、教皇ほどではないがそこそこ派手目の祭服を着ているところから、ある程度地位がある人たちなんだろう。


 キンキラキンの間に案内してきた男に、膝を付くように言われたがスルーだ。何と言っても私は破門された身なので、教皇を崇める必要を感じない。


「私をお呼びになったのは教皇猊下で宜しくて?」


 挨拶もせずに私は言う。

 スピネルは黙ったままで私の隣に立っている。


 無礼な……とか周囲から声が上がるけど、令嬢言葉で話している分だけ礼を弁えていると思ってほしい。


 教皇が小さく頷いたのを見て、私は頬に手を当てて首を傾げて見せた。


「査問も聴取も無く事実無根の罪状で破門した私に何の御用でしょう?」


 私、分かんなーいってな感じで、可愛子ぶってみる。我ながらムカつく仕草だ。そんな私の態度を見て、教皇その他諸々が動揺したのが見て取れた。


 おそらく教会側は、私は慈悲を乞う筈だと思っていたのだろう。事前通告も無い破門、間をおかぬ召喚に応じれば粗末な部屋に放置。貴族令嬢なら耐えられない仕打ちをした……と思ってたんでしょ?


 残念。


 あんた方がそれをしたのはただの公爵令嬢ではない。黒龍付きの暴れん坊お嬢様、誘拐犯を捕縛したり勇者パーティに推薦されたりと、結構武勇伝はあると思うんだけど知らなかったかな?

 見た目は楚々とした美少女だから、噂を聞いても信じるに値しないとか思ったのかもしれないが、残念ながら私は正真正銘の暴れん坊なのだ。


 これっくらいの”おもてなし”でぶるぶる震えて涙目になっちゃうような可愛げ皆無!


「私が聖女を自称したという事ですが、猊下からの教会に下り聖女となれというお申し出をはっきりとお断りしたことをお忘れになりまして?私は聖女ではございませんと申し上げたことも?当然のことながら教会からのお手紙はすべて保存してございますので、いつなりと公表できましてよ」


 おいおい、想定外!てな顔されても困るぞー。その表情からするに、今までもこうやって破門を盾にやりたい放題していたって事なんじゃないのか?で、皆さま思う所あっても破門されるよりマシだと膝を屈して来たとか。


 そうでないと、この根拠のない破門通達と召喚をしておいて”反抗されるなんて思ってもみませんでした”――というアホ面の説明がつかない。

 強権に膝を屈しなかった人はおそらく、教会に見切りつけて召喚にも応じずに国外へ出奔したのではなかろうか。で、教会の面々は我らを恐れて逃げ出したー!とか思っていそうだ。


 確かにね、真っ向から教会を糾弾するなんて面倒くさい事をやりたい人はそういまい。その気があってやれるだけの力を持っていたとしても、家族にかかる迷惑を考えて二の足を踏むだろう。


 幸い、うちはお父様とお母様が強気に「ファルナーゼ家を敵に回せるもんなら回してみな!」と、根拠のある強気発言をしてくれたので問題ナシ。さすが私の両親!


「そちは教会に逆らうというのか」


 私たちがこの広間に来てから初めて教皇が口を開いた。言っていることは陳腐だが。

 これって勧善懲悪の時代劇で悪役がよく言うセリフっぽい。そんな事を考えていたせいで思わず笑ってしまったら、教皇のこめかみに青筋が浮かんだ。いけね、ヘイト稼いじゃった――って今更か。


「私は破門された身、逆らうも何も無関係でございましょう?その無関係な私を呼び立てておいて、要件も話さずにそのお言葉。何をしたいのか皆目見当がつきかねますわ」


「大人しく頭を垂れるのなら、此方とて鬼ではないのだから寛恕してやろうとおもって呼び出した我らの慈悲を無にしおって……。そちがそのような態度のままであるならば、家にも咎めが行くと思うが良い」


「あら、まぁ」


 おほほほーと、令嬢らしく口元に手を当てて笑い飛ばしてやる。本当なら扇をかざすところなんだが、今は持っていないし乗馬服でそれをやっても格好つかないし。


「我が公爵家を敵に回すなどと……お戯れも過ぎますこと。ファルナーゼ家はこの度、娘である私シシィ・ファルナーゼの破門を恥じ入りまして、教会への献金やバザーや食料・衣服などの寄付といった関わりを一切断つことにすると母が申しておりましたわ」


「え……」

「そんな馬鹿な」

「ファルナーゼ家からの献金が途絶えるとなると、今までのような資金繰りは難しいぞ」

「何を言う。大家といえどたがだか一家の献金が途絶えたくらいで」

「お前こそ何を言っている。ファルナーゼ家からの献金は大聖堂の運営費の一割に達している」

「いや、しかし、一割減くらいなら……」


 そうなんだよね、お母様から聞いたけどファルナーゼ家は毎年かなりの額を献金し、さらに修理だ新しい像の建立だと色々と便宜を図っている。でもって、その運営費の一割というのはファルナーゼ家単体でのこと。


「そうそう、我が家だけでなく分家を含む一門がすべて破門された身内がいては顔向けできないと、教会とは距離を置くしかないと申しておりました。不肖の私のせいで一族が不便をかこつことになるなんて、本当に申し訳ないと思うのですが、破門の理由である聖女詐称に心当たりがございませんので、身を正す事も出来ずに困っておりますわ」


 胸を張って睥睨する私に対し、顔を青くしてなんとか他者に責任を押し付けようと小声で言葉を交わす聖職者たち。


 さあ、どうするんだ?





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