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最終章

119 いざ教会 2

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 聖心教会の総本山である大聖堂に、予定通りの日にち指定された通りの時間に到着したというのに、もう既に一時間も待たされている。、粗末な部屋に通されたきり、お茶の一杯すら出されずにガタついた、一応は応接セットと言ってもいいかもしれない程度のソファに大人しく座ってはいるが、もうそろそろ帰ろうかなーと思う。


 スピネルは部屋の粗末さと案内してくれた人のぞんざいな態度に腹を立てたが、二人きりで放っておかれると、それはそれで問題ないらしい。ピッタリとくっついて座ったソファがあまりにも座り心地が悪いからと、私を膝の上に乗せようとしたがそれはお断りした。


 アイテムボックスからクッションを出して私に勧めたスピネルは、更に茶器を茶葉を出し水魔法と火魔法を使ってお湯を出してお茶を淹れてくれた。私はこういう繊細な魔法は使えずに、どっかーん!と威力のある力押しタイプの魔法しか使えないので、こういう時は役に立たない。あ、アップルパイもある。


 なんて甲斐甲斐しい。いいお嫁さんになるよ――とは彼の黒歴史なので言ってはいけない言葉だが言いたい。それと、アイテムボックス羨ましい。


「シシィ、先ず何処に行く?行きたい所はある?」


 スピネルの気持ちは既に旅空の下にあるようで、うきうきとこれからの予定を相談しようとしてくるが、私は教会のお偉いさん(多分)とのお話に向けて臨戦態勢なのだ。


「竜王国にもいずれは行こうと思うけれど、それは結婚する時でいいね?シシィが私と同じ竜として生きるか、私が人間になるかをまだ話し合っていないし。私はどちらでもいいんだよ。ただ、私を置いていかないでほしいだけだから、私が竜でシシィが人間のままと言うのは無し」


 竜族が他種族と結婚する時に行われる儀式で、どちらかの種族に合わせることが出来ると聞いた事があったなぁ、そう言えば。これから旅に出るんだから結婚自体がまだ先になるだろうけど、そういう話も詰めていかなきゃならんのか。


 人間である私が竜の寿命を病まずに生きていけるかな?

 かといって長命なスピネルを人の寿命につき合わせるのも申し訳ない気がするし。


「長さは問題じゃないよ、シシィ。貴女とずっと一緒に生きていけるのなら」


 うーん。私に執着しているスピネルが短くてもいいと言うとは。私の気持ちを尊重してくれる優しい人だ――と思ったら


「来世もその次もずーっと一緒なんだから」


 と来たもんだ。え?そんな事できるの?来世で巡り合うとか、天文学的に無謀な確率だと思うぞ。でも、スピネルならどうにかしそうな気がして怖い。話題を変えよう。


「あ、旅に出たら先ず勇者様に会いに行きたい」

「……シシィ?勇者が好きなの?私よりも?何故、私がシシィを他の男と会わせなきゃいけないの?シシィは私が不満?どういう所?言ってくれれば――」

「ちがーうっ。勇者様に会いたいのは、神様との連絡が取れないかなーと思って。神託で迷惑被ってるんだから、恨み言の一つも言いたいのと……」

「後は何?」

「言ったらスピネルが怒りそうな気がする」

「私が怒るような事?シシィは神様に何を言いたい――何を願いたいの?まさか、また逆行したいとかそういうのじゃないよね?私との時間を無かったことにしたいだなんて思って無いよね?」

「ナイナイ。落ち着いて、スピネル。私は――」


 焼き餅スピネルを宥めようとした時にノックの音が部屋に響いた。

 なんだよ、今はスピネルと今後の事を話し合う時間だというのに邪魔すんのは誰だ。


 こちらが言葉を発してもいないのに、勝手にドアは開かれた。


「追放者シシィ・ファルナーゼ。教皇猊下のお召しでる」


 ――ああ、そうだった。私とスピネルが何故ここにいるかと言うと、召喚状が届いたからだった。スピネルが拗ねちゃったから他の事は棚上げ……というか、どうでもよくなっちゃって忘れてた。

 うっかりうっかり、テヘペロ。


 それにしても”追放者”?破門された人間はそう呼ばれるのか。追放された覚えはないんだけど、出て行く気満々なんでどっちにしろ変わら無い気もするから、ま、いい。


 呼びに来た男は唖然としている。

 そりゃそうだ。ささくれだらけだったテーブルの上に真っ白いレースのテーブルクロスが掛かっていること、如何にもお高そうな繊細で美しい茶器から漂う茶の芳香、スピネル作の見た目にも美味しさが滲み出ているアップルパイにアイスクリームも添えられている。


 お、喉がゴクリとしたね。生つばを飲み込んじゃうくらいに美味しそうに見えたか。そう、美味しそうでしょうー?ほんっとに美味しいんだぞー。

 あげないけど。


 スピネルは、二人きりの時間を邪魔されて怒ってる。いやいやいや、放っておかれた時間が長くて忘れてたけど、私たちはここにお茶しに来たわけじゃないから。


「そう、では案内なさい」


 パンツスタイルの乗馬服ながら、令嬢の仮面を被って傲慢に言う私にムッとした男は、こめかみがピクピクしているけど知らん。

 木っ端修道士が公爵令嬢に対してよくもまぁ上から目線で話しかけられるもんだ。教会がそんなに偉いのか?偉いけど。お前は別に偉くないだろうに。




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