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最終章

118 いざ教会 1

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「本当に一緒にいくの?」


 召喚状が届いてから三日。指定された日になり、お母様と屋敷に使用人たちに見送られて(お父様はお仕事)スピネルと一緒に出掛けようと屋敷を出たら、そこにいっちゃんとそうちゃんが待っていた。


 教会でのやり取りの後そのまま出奔――と考えているので、昨日までに友人たちへの手紙を書き、直接は届けられないのでアーノルドに預けたり、常世の森へ行っていっちゃんそうちゃんに別れの挨拶をしたり、出来る限りお父様とお母様とお話ししたりと悔いの残らないように生活していた。


 昨日、別れを告げたはずのいっちゃんたちがなぜここにいる?と不審に思っていたら、二人とも教会へ一緒に行き、その後の旅にも付いてくるという。


「常世の森にいなかったら狭間にも帰れないじゃん。二人とも群れのトップなんだから、そんな気ままな事は出来ないでしょ?」


『何を言っているのだえ。狭間へ戻る事など、何処に居たって出来るに決まっているわえ』

「え?そうなの!?そうちゃん」

『そうよ、かわいい子。この森に狭間へと続く道があるのではなく、あたくしたちに狭間へ行く力があるのだもの』

「知らなかったよ、いっちゃん。じゃ、なんでいつも常世の森にいたの?」

『町中に妾たちが現れても平気かえ?』


 そうちゃんが笑いを含んだ声で言ったが、それは確かに。じゃ、なぜ狭間にいるだけでなくこちらに来るかと言うと、やはり元々こちらで暮らしていたのでたまには様子を見たくなるとのこと。

 その”たまに”が数十年に一度程度だったのが、私やスピネルと知り合って頻繁に来るようになったそうだが、友達に会いに来るのとアップルパイを食べに来るのとどちらが重要だろうね?


 それにしても、その”数十年に一度”が偶々私とスピネルが森に行った日に当たったというのだから、私は強運だと思う。そして、その”数十年に一度”なのに森を壊す勢いで喧嘩していたいっちゃんたちは、困ったちゃんだと思う。理由はリンゴだったし。たかがリンゴと言っちゃいけないかもしれないけど、森を破壊するほどの重大な問題じゃないと思うぞー。


 スピネルはちょっと嫌そうにしているけれど、私はいっちゃんたちが一緒なのは嬉しい。

 旅路を徒歩でするより乗せてもらった方が楽だし、仲間が多いのは楽しいし。屋敷を振りかえると、まだ見送ってくれていた皆に馬具の用意を頼む。さすがに森でちょこっとならともかく、旅をするには裸馬ではキツイ。


 すぐさま整えられた馬具をスピネルが装着してくれている間に、私はいったん部屋に戻ってお着替えだ。今の格好は、シンプルなワンピース。素材はいいものだけど、いかにも貴族のお嬢様と言った華やかな飾りっ気のあるものではなく、市井のちょっといい所のお嬢さんくらいの感じだが、さすがにワンピースで馬には乗れない。


 乗馬服に着替えるが、横乗りするつもりは無いのでパンツスタイルだ。貴族令嬢としてははしたないとか言われそうだが、私は気にしなーい。さっきのワンピースより貴族感が出ている方が気になるよ。


 荷物は全てスピネルがアイテムボックスに入れてくれている。

 出たよ!レナがいう所のファンタジー定番のアイテムボックス!


 この能力はレアで私は習得出来なかったが、スピネルは元々持っていたそうで記憶が戻った時から使っていたんだそうだ。レナも持っていないと言っていたし、お父様やお母様も持っていない能力だが、旅にはお役立ちだから有難く活用させてもらう。


「私の物はシシィの物だから遠慮はいらない」


 とスピネルは言ってくれたが、私が調子に乗って「お前の物はオレの物、オレの物もオレの物」とか言いだしたらどうすんの。そう言っても「その通りだよ」と笑うだけなので、ああ、これが溺愛ってやつ?と遠い目になってしまったら、何故そんな事を不思議がるのか分からないスピネルに懇々と愛情の深さについて説明された。うん、ありがとう。でも、甘やかし過ぎは私の為にならないから程々で宜しくお願いします。


「行ってきます!」


 私はいっちゃんに、スピネルはそうちゃんに跨っていざ出立。挨拶が”行ってきます”なのは当然のことだ。ここは私の家で、私が帰ってくるところ。

 今回は、教会や周囲の思惑から脱却するための旅立ちだが、いつか完全に家を出る事になったとしても、それでも「ただいま」と言える場所。


 だから、見送る皆も悲しそうな顔はしていない。笑顔で見送ってくれる皆にもう一度手を振って、いざ、教会へ。




 ………目立ってる。


 あ、いや、ユニコーンもバイコーンも今となっては伝説の生き物だという事は知っていた。実在したという記録はあるが、もう目撃されることはなくなって久しい生き物だと。

 ただ、私はいっちゃんそうちゃんとの付き合いも長く、その姿を見慣れていたので周囲の反応まで想像していなかったのだ。


 誘拐事件の時、スピネルとお兄さんがいっちゃんたちと一緒に迎えに来てくれた時もこんなんだったかな。あの時は考えることが多すぎて、周囲の視線まで気を配っていなかった気がする。


 スピネルのお兄さんの事やら、ヴィヴィアナ様のメンタルの事、アレキサンドエス先生がちゃんと約束を守るかどうか、誘拐犯の目当てが自分だった事でまきこんでしまった周囲への申し訳なさもあった。


「仕方ない。いっちゃんもそうちゃんも綺麗で恰好いいから、みんなが注目しちゃうよねっ」


 そういう事にしておこう。

 褒められて嬉しそうないっちゃん達に、スピネルがそれは勘違いだとでも言いたそうな目で見ていたけど、そういう事にしておくのっ。




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