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最終章

116 破門 2

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「見事に誰もいなくなったねー」


 私は人っ子一人いない門の外を窓から見て、今までのあの人だかりは何だったのかと呆れた。

 教会からの破門はそれだけの出来事だったのだ。もちろん、お茶会や夜会の誘い、訪いを強請る手紙も綺麗さっぱり来なくなった。


 教会から私に直接「お前は破門じゃー」と突きつけられたわけではなく、書面……いわゆる破門状?みたいのが届き、教会が信徒に向かって触れを出したのだ。正面切って言われれば抗弁も出来ようが、問答無用の破門状だ。


「私、自分で聖女だなんて言ったことないのにな」


 全く、人の噂と言うのは怖いものである。


「ごめん、シシィ」


 引き籠り始めたばかりの頃は、私を独り占めできるとうきうきしていたスピネルだが、さすがに教会からの破門宣告とその余波を肌で感じて申し訳なく思っているらしい。


「スピネルのせいじゃないし。そもそもマリア様が悪い。あと、神様」


 ここ三ヵ月の間、開かれていなかったカーテンを全開にして外を望む私を、スピネルが後ろから抱きしめている。引き籠り時間が幸いしてか、スピネルとの接触には随分と慣れた。私だけでなく、メイドたちやアーノルド、果てにはお父様とお母様までがスピネルと私の距離感を当然のこととして捉えているが、いいのか、それで。


 私、貴族令嬢。

 まだ、結婚していなくて婚約しているだけ。

 それなのに、いちゃいちゃしていることを誰も咎めないんだけど……。これでもしも婚約破棄になんてなったら立ち直れない。


「神様には是非この事態を収拾する神託を降ろしてほしいもんだけど、暗黒竜問題が片付いちゃったから勇者も連絡とれるかどうか分からないし」


 そもそも勇者とも連絡を取り合っている訳ではないが、彼ならば居場所は分かっているので取ろうと思えば連絡も取れる。


「さて、スピネル君、問題です。この事態を解決するための選択肢は二つ。1.教会をぶっ潰す。2.この国を出る。さあ、どっち?」

「3.教会をぶっ潰してこの国を出る」


 わーお。

 人の事は言えないが、君も大概脳筋だね。


「自分から提案しておいてなんだけど、多くの人の拠り所になっているものを壊すのはあんまりよろしくない」


 そうなのだ。二択と言っては見たものの、国やファルナーゼ家、国民などもろもろの事を考えると、国外脱出一択になってしまうのだ。

 教会は私が頭を下げに来ると思ってるだろうけど、いつまでも首を長くして待ってればいいよ。キリンになるまで首伸ばしとけ。


「私はシシィと一緒なら何処に行くのも構わないが、シシィはそうじゃないだろう?この家や家族、友人と離れがたいのは分かってる」

「私がこの国を出るときはスピネルも一緒?」


 そうなるだろうとは思っていたけど、あっさりと当たり前のように”一緒”と言われて、やっぱり嬉しい。


「当たり前……というか、私を置いていくつもりだった?まさか!?」

「ううん、そうじゃない。来てくれるといいなぁと思ってたけど、何の展望も無いのに一緒にいてって言ってもいいか分からなかった」

「馬鹿なシシィ。例え置いていかれても追いかけるし捕まえるし離さない」


 うん。そうだと思った。

 私が、体の力を抜いて背後にいるスピネルにもたれると、つむじにキスが降ってくる。甘いです。空気も気持ちも甘いです。


「死亡フラグがあったから、ファルナーゼ家に迷惑をかけないように家を出るって言う覚悟はずっと前からあったし、その為の準備も色々してた。お父様とお母様も、私が出て行く可能性を考えていただろうと思う。最初の頃に思っていた一人で出奔の事を考えたら、スピネルが一緒なら心強いよ。それに……」


 そうなのだ。普通のご令嬢は家を出るなんて嫁に行くとき位なもんだろうけど、私は9歳で前世を思い出したときから、死亡フラグが立ったら逃げ出してやるぜ!と言う気持ちで護身や金銭面の準備をしていたし、市井の情報も積極的に取り込んできた。

 教会の破門くらい、死亡フラグに比べたら鼻で笑えるほどちっちぇーと思ってる。よくあるらしい修道院入りと言うのも不可能だから、国外追放エンドというヤツだろうか。いや、乙女ゲーム関係なくなってるんだから、そういう思考は止めよう。


 お父様とお母様には申し訳ないし、せっかくできた友達と別れるのもつらいけど、生きていればまた会う事だってできるし、そのうち神罰なり神託なりで状況が変化するかもしれない。

 ……神罰や信託にはあまり期待はしていないけど。


「それに、何?」

「うん、ダンジョンに行くチャンスだなーと思って」


 マリア様の持っていた炎の魔法剣である小刀がダンジョン産だと知った時、いくらで買えるかなーと考えたけれど、本音を言えば金銭で購うのではなく、自分でダンジョンに潜って自力でゲットしたいと思っていたのだ。


 それを思えば、破門はチャンス!

 私もそこそこ強いけど、スピネルなんてめちゃくちゃ強い。人間離れした強さだ。――人間じゃなくて竜だから。


 国を出て、冒険者になってダンジョンに潜るのだ!

 ふっふっふっ。なんか滾ってきたー!


「ホント、シシィは前向きで可愛い」


 前向きなところが可愛いって言う理屈は良く分からないけど、スピネルが嬉しそうだから良しとしよう。


 スピネルと今後の事を話した翌日の事。

 何故か私に教会からの召喚状が届いた。



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