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第四章
107 狂乱 1
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王子さまから神託の話を聞いてから一週間後。
とうとう国から神の言葉を大々的に発表された。
神託を受けた教会が国に報告をし、先ずは主だった貴族に通達がされ、教会と国とが一斉に発表をしたのだ。
学園でも全校生徒が講堂に集められて神託の発表が行われた。
とは言っても、ほとんどの者は家族なり教会なりで説明を受けてたので、それほどの騒ぎにはならなかず、みな粛々と受け入れていた。
「神託……凄かったですわね」
今日の学園は神託下知のみで解散となったので、私はレナの家にお呼ばれして女子会である。レナがクスクスと楽しそうに笑っているけど、私だって出来るなら無関係な事として笑っていたかった。
「うん、ねつ造し過ぎてて他人事のようだったよ」
王子さまから聞いたときもそう思ったけど、神様の作り話は一般受けする物語のようだと思う。
「聖なる乙女……ですのねぇ」
「勘弁して。レナはヤラセだって分かってるじゃん」
ほとんどの人はスピネルに闇落ちフラグが立っていたことどころか、竜であることも知らないので、聖なる乙女とやらに仕立て上げられたのが私だという事も知らない。
名前とか出されていなくて良かったよ。もしも名前を出されていて「聖なる乙女」と「浄化された竜」として周知されたら、もう、顔出して表を歩けなくなるところだった。
「マリア様、どうなさるのかしら」
それが一番の懸念事項だ。
「今までの行いを反省して大人しくなってくれたりは……」
「しないでしょうねぇ」
「かな、やっぱり」
死に戻りが出来ないと理解した今、無茶は出来ないと思うんだけど。
「そうそう、レナ、お店の評判上々みたいだね。若手実業家って感じだー」
「うふふふふっ、前世でお菓子作りをしていた甲斐がありましたわ」
「商売と屏風は」
「はいはい、広げ過ぎたら倒れるのでしょう?大丈夫ですわ。しっかり土台を固めておけば、180度に広げた屏風だって倒れません。それより、シシィの魔法剣はどうなりましたの?」
「それが、未だに上手くいかないんだよねぇ……」
私は魔力量が膨大でどっかーんと大きな魔法を行使するのは得意でも、繊細なコントロールが苦手だ。剣に魔法を纏わせると、もれなく溶けるか粉々になるかして壊れるのだ。こうなると壊れない剣を見つけるのとコントロールを覚えるのとどちらが早いかの勝負となる気がする。
「ロマンなんだけどねぇ……」
「実用的でないから、魔法剣を使う方も研究する方もいないのではないかしら?」
「ロマンなんだよぅー」
◇◇◇
「え?マリア様、今日もお休みですの?」
神託が発表された翌日から今日で一週間、マリア様はずっと学園をお休みしている。
「どうなさったのでしょう?」
マリア様の前世や前回、そして乙女ゲームの事など知らないテレーザ様が心配そうに言う。
そうだろうとは思ったけど、やっぱりショックだったか……。この一週間、マリア様は何を考えているんだろう。
「明日は出てこられるといいけど、体調でも崩したのかな?」
セバスチアーナ様も気がかりな様子だ。マリア様とはずっと交流も無いのに、みんな優しい。心配している皆には悪いけれど、事情を説明できるわけでもなし、マリア様の復活を待つしかない。
私とレナだけはマリア様の事情を察しているので「仕方ないよね」とアイコンタクト。
正直、マリア様が乙女ゲームを諦めてくれるのが一番いいと思う。攻略対象者が誰一人ゲーム通りの行動をしていないのだから。
王子さまは前回の記憶持ちで、今回がそれがリピートしないように動いた。
フィデリオはその余波でファルナーゼ家に入らなかった。
子熊だったミーシャはムキムキゴリラになり、セバスチアーナ様と婚約。
ドS先生は何故かドMになってしまった。
ダミアンは姉のミシェルを大事にしているが、拗らせたり病んだりはしていない。
勇者は神様のうっかりのせいで(おかげで?)暗黒竜討伐に行くことはなくなった。
あと……暗黒竜になる筈だったマティアーシュことスピネルは私のなんで。
――つらつらと考えてみるに、やっぱり私が諸悪の根源ってことはないぞ。王子さまとフィデリオは私の与り知らぬところで運命が変わったんだし、アレキサンドエス先生の件はもしかしたら……いや、違う、私でなくて私のお父様のせいだ。ミーシャに影響を与えたのはセバスチアーナ様で、ダミアンの件に関しては褒められてもいいくらいだ。
死亡フラグに振り回されていた私がいう事じゃないけど、みんな生きているんだよ、0と1で作られたゲーム世界ではなく、感情があって自分の意思で動いているんだよ。
マリア様の思うようになんてなる訳ないんだ。
マリア様がここで作った環境では、貴族令嬢として生きていくのは難しい。本人が死に戻るつもりだったのだから、やりたい放題だったのだろうが……。
いっそのこと自国に戻るか、他国に行くか、この国にいるなら貴族社会から離れて庶民になるか。
私は、死亡フラグが折れなかったら冒険者になって他国で生きていこうと思っていたし、マリア様だって前世の日本の記憶があるなら貴族でなくなっても生きていけるだろう。というか、その方が生きやすいんじゃないかなぁ。
私が言ったって聞いてくれるわけないから、マリア様がそう結論を出してくれることを祈ろう。
とうとう国から神の言葉を大々的に発表された。
神託を受けた教会が国に報告をし、先ずは主だった貴族に通達がされ、教会と国とが一斉に発表をしたのだ。
学園でも全校生徒が講堂に集められて神託の発表が行われた。
とは言っても、ほとんどの者は家族なり教会なりで説明を受けてたので、それほどの騒ぎにはならなかず、みな粛々と受け入れていた。
「神託……凄かったですわね」
今日の学園は神託下知のみで解散となったので、私はレナの家にお呼ばれして女子会である。レナがクスクスと楽しそうに笑っているけど、私だって出来るなら無関係な事として笑っていたかった。
「うん、ねつ造し過ぎてて他人事のようだったよ」
王子さまから聞いたときもそう思ったけど、神様の作り話は一般受けする物語のようだと思う。
「聖なる乙女……ですのねぇ」
「勘弁して。レナはヤラセだって分かってるじゃん」
ほとんどの人はスピネルに闇落ちフラグが立っていたことどころか、竜であることも知らないので、聖なる乙女とやらに仕立て上げられたのが私だという事も知らない。
名前とか出されていなくて良かったよ。もしも名前を出されていて「聖なる乙女」と「浄化された竜」として周知されたら、もう、顔出して表を歩けなくなるところだった。
「マリア様、どうなさるのかしら」
それが一番の懸念事項だ。
「今までの行いを反省して大人しくなってくれたりは……」
「しないでしょうねぇ」
「かな、やっぱり」
死に戻りが出来ないと理解した今、無茶は出来ないと思うんだけど。
「そうそう、レナ、お店の評判上々みたいだね。若手実業家って感じだー」
「うふふふふっ、前世でお菓子作りをしていた甲斐がありましたわ」
「商売と屏風は」
「はいはい、広げ過ぎたら倒れるのでしょう?大丈夫ですわ。しっかり土台を固めておけば、180度に広げた屏風だって倒れません。それより、シシィの魔法剣はどうなりましたの?」
「それが、未だに上手くいかないんだよねぇ……」
私は魔力量が膨大でどっかーんと大きな魔法を行使するのは得意でも、繊細なコントロールが苦手だ。剣に魔法を纏わせると、もれなく溶けるか粉々になるかして壊れるのだ。こうなると壊れない剣を見つけるのとコントロールを覚えるのとどちらが早いかの勝負となる気がする。
「ロマンなんだけどねぇ……」
「実用的でないから、魔法剣を使う方も研究する方もいないのではないかしら?」
「ロマンなんだよぅー」
◇◇◇
「え?マリア様、今日もお休みですの?」
神託が発表された翌日から今日で一週間、マリア様はずっと学園をお休みしている。
「どうなさったのでしょう?」
マリア様の前世や前回、そして乙女ゲームの事など知らないテレーザ様が心配そうに言う。
そうだろうとは思ったけど、やっぱりショックだったか……。この一週間、マリア様は何を考えているんだろう。
「明日は出てこられるといいけど、体調でも崩したのかな?」
セバスチアーナ様も気がかりな様子だ。マリア様とはずっと交流も無いのに、みんな優しい。心配している皆には悪いけれど、事情を説明できるわけでもなし、マリア様の復活を待つしかない。
私とレナだけはマリア様の事情を察しているので「仕方ないよね」とアイコンタクト。
正直、マリア様が乙女ゲームを諦めてくれるのが一番いいと思う。攻略対象者が誰一人ゲーム通りの行動をしていないのだから。
王子さまは前回の記憶持ちで、今回がそれがリピートしないように動いた。
フィデリオはその余波でファルナーゼ家に入らなかった。
子熊だったミーシャはムキムキゴリラになり、セバスチアーナ様と婚約。
ドS先生は何故かドMになってしまった。
ダミアンは姉のミシェルを大事にしているが、拗らせたり病んだりはしていない。
勇者は神様のうっかりのせいで(おかげで?)暗黒竜討伐に行くことはなくなった。
あと……暗黒竜になる筈だったマティアーシュことスピネルは私のなんで。
――つらつらと考えてみるに、やっぱり私が諸悪の根源ってことはないぞ。王子さまとフィデリオは私の与り知らぬところで運命が変わったんだし、アレキサンドエス先生の件はもしかしたら……いや、違う、私でなくて私のお父様のせいだ。ミーシャに影響を与えたのはセバスチアーナ様で、ダミアンの件に関しては褒められてもいいくらいだ。
死亡フラグに振り回されていた私がいう事じゃないけど、みんな生きているんだよ、0と1で作られたゲーム世界ではなく、感情があって自分の意思で動いているんだよ。
マリア様の思うようになんてなる訳ないんだ。
マリア様がここで作った環境では、貴族令嬢として生きていくのは難しい。本人が死に戻るつもりだったのだから、やりたい放題だったのだろうが……。
いっそのこと自国に戻るか、他国に行くか、この国にいるなら貴族社会から離れて庶民になるか。
私は、死亡フラグが折れなかったら冒険者になって他国で生きていこうと思っていたし、マリア様だって前世の日本の記憶があるなら貴族でなくなっても生きていけるだろう。というか、その方が生きやすいんじゃないかなぁ。
私が言ったって聞いてくれるわけないから、マリア様がそう結論を出してくれることを祈ろう。
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