102 / 129
第四章
99 公爵令嬢は見られた!
しおりを挟むひと気のない所で良かった……。
「ファルナーゼ様、ご機嫌麗しゅう」
そう言って私の目の前で跪くアレキサンドエス先生を見て、心からそう思った。
放課後、図書館で時間を食ってしまって帰りが遅くなったと慌てて昇降口へと速足で歩いていた私とスピネルは、何故かドエス先生に最上級の礼を取られている。
「アレキサンドエス先生、どうなさったんですか?私にそのような礼を取って……。服が汚れますからお立ち下さいませ」
「滅相も無い。ファルナーゼ様に最上級の敬意を表するのは当然のこと。……出来ましたら、昨日のように蹴って頂きましても――いえ、是非蹴って頂きたく」
変態だー!
いや、もともと変態だった。
しかしなぜ、ドSからドMにメタモルフォーゼしているのだ。
昨日、誘拐された先で確かに私は先生の心を折った。こっちがドSかよって位に、ボキボキに折った。けど、それでMに目覚めるとは思わないじゃないか。
見なくても分かる、隣のスピネルが心底嫌そうな顔をしていることが!
きっとあれだね、お父様の仕業だね。私が家に戻った時にはもう先生はいなかったけど、お父様がいい笑顔で「彼が他言することはないよ、大丈夫」って言って下さったから。
きっと、口止め以外のオプションが付いていたに違いない。
私としては、先生があらぬ噂を立てることでヴィヴィアナ様が傷つくのが嫌だっただけで、下僕が欲しかったわけではない。だから、そっとしておいておくれ……。
何とか立たせて、今後はこういう礼を取らない事、様付けで呼ばずに今まで通りにファルナーゼ嬢と呼んでほしい事をお願いした。
「ファルナーゼ嬢、昨日お約束したことはこの身を賭け他言しない事をお約束いたします。たとえ命を取られても口外は致しません。私は慮外な言動を心から悔い、この先は改めることを誓います。なので――分を弁えずにお願いする非礼をお許しください。あの……是非、お願いではなく命令を……あと、出来れば蹴って頂きたく」
頬を赤らめるな!蹴らないから!ドSも迷惑だけどドMも迷惑だから、開いてしまった扉を閉めて鍵をかけて封印を!
昨日は調子に乗って上官と下士官ごっこに興が乗ってしまったけれど、私はS属性ではないので命令なんてしたくない。心から避けたいと思っている。思ってはいるが……今後、人の目があるところでコレをやられたらたまったもんじゃない。
「今後、私に跪くことを禁止し、教師と生徒として振る舞う事を命ずる。破ったら狭間行き。いっちゃんとそうちゃんに任せるよ?」
「はい、かしこまりました。私はファルナーゼ嬢以外から蹴られたいとは思いませんので、狭間行きにならぬよう気を付けます」
だから仕方なく――仕方なくなんだよっ。スピネル、そんな可哀想なものを見る目はやめてぇぇぇえええ。
いや、私は可哀想だと思うけど、そういう意味の視線じゃ無いよね?残念な子を見る目だよね?
どうにかこうにかドエス先生を追い払う事に成功した。これも命令しなくてはならなかった。もう、改名した方がいいんじゃないかな。アレキサンドエスじゃなくアレキサンドエムに。
「ちょっとあんた!悪役令嬢のくせに何をやっているのよ!?」
心底消耗して、さあ帰ろうとした時に現れたのはマリア様だった。ああ……私はフラグも折れたことだし死に戻りがない事も分かったんだから、ヒロインちゃんにも攻略対象者にも――スピネル以外――関わり合いたくないのに、なんでこんな目に遭ってるんだろう。
「……スピネルの焼いたアップルパイでまったりとお茶したい」
「いいね。丁度昨日パイ生地を作って寝かせてあるし、リンゴもあった筈だからフィリングもすぐ作れる。シシィが望んでくれるなら毎日だって作ろう」
「いや、毎日は要らない。スピネルのアップルパイ美味しすぎて食べ過ぎて太る」
「太ってもシシィは可愛い」
おお、このセリフはアレか?溺愛系の台詞!?
「ちょっと!無視してんじゃないわよっ。アンタねぇ、何がしたいの?アルナルドと婚約しないし、そのせいでフィデリオは養子にならないし、レオナルドは近衛になるはずだったのに、ムキムキのマッチョになって辺境騎士を目指すって言うし!レオナルドは脳筋だけど、体まで筋肉だらけにすることないでしょ!?」
いや、それはどれも私のせいじゃない。
婚約の話を蹴ったわけではなく、そもそも王子さまが婚約者を決めるのを先延ばしにしているだけだ。よって養子の話が出ていないもの私のせいじゃない。ミーシャは私じゃなくてセバスチアーナ様の影響で(というかラブ?)辺境騎士を目指しているんだし、そもそもムキムキマッチョの何が悪い。
「それに、さっきのは何!?アレキサンドエスが何でMになってんの!?」
あ、ごめん。それは私の――正確には私とお父様のせいかも。釈明させてもらえるなら、コウドレイが私を誘拐しようとしなければこんな事態になっていないので、諸悪の根源はコウドレイだと思うんだ。――我ながら言い訳臭いけど。
って、見られてたのかーっ。
0
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。
夜桜
恋愛
【正式タイトル】
屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。
~婚約破棄ですか? 構いません!
田舎令嬢は後に憧れの公爵様に拾われ、幸せに生きるようです~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる