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第四章

99 公爵令嬢は見られた!

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 ひと気のない所で良かった……。


「ファルナーゼ様、ご機嫌麗しゅう」


 そう言って私の目の前で跪くアレキサンドエス先生を見て、心からそう思った。


 放課後、図書館で時間を食ってしまって帰りが遅くなったと慌てて昇降口へと速足で歩いていた私とスピネルは、何故かドエス先生に最上級の礼を取られている。


「アレキサンドエス先生、どうなさったんですか?私にそのような礼を取って……。服が汚れますからお立ち下さいませ」


「滅相も無い。ファルナーゼ様に最上級の敬意を表するのは当然のこと。……出来ましたら、昨日のように蹴って頂きましても――いえ、是非蹴って頂きたく」


 変態だー!

 いや、もともと変態だった。


 しかしなぜ、ドSからドMにメタモルフォーゼしているのだ。

 昨日、誘拐された先で確かに私は先生の心を折った。こっちがドSかよって位に、ボキボキに折った。けど、それでMに目覚めるとは思わないじゃないか。

 見なくても分かる、隣のスピネルが心底嫌そうな顔をしていることが!


 きっとあれだね、お父様の仕業だね。私が家に戻った時にはもう先生はいなかったけど、お父様がいい笑顔で「彼が他言することはないよ、大丈夫」って言って下さったから。

 きっと、口止め以外のオプションが付いていたに違いない。


 私としては、先生があらぬ噂を立てることでヴィヴィアナ様が傷つくのが嫌だっただけで、下僕が欲しかったわけではない。だから、そっとしておいておくれ……。


 何とか立たせて、今後はこういう礼を取らない事、様付けで呼ばずに今まで通りにファルナーゼ嬢と呼んでほしい事をお願いした。


「ファルナーゼ嬢、昨日お約束したことはこの身を賭け他言しない事をお約束いたします。たとえ命を取られても口外は致しません。私は慮外な言動を心から悔い、この先は改めることを誓います。なので――分を弁えずにお願いする非礼をお許しください。あの……是非、お願いではなく命令を……あと、出来れば蹴って頂きたく」


 頬を赤らめるな!蹴らないから!ドSも迷惑だけどドMも迷惑だから、開いてしまった扉を閉めて鍵をかけて封印を!


 昨日は調子に乗って上官と下士官ごっこに興が乗ってしまったけれど、私はS属性ではないので命令なんてしたくない。心から避けたいと思っている。思ってはいるが……今後、人の目があるところでコレをやられたらたまったもんじゃない。


「今後、私に跪くことを禁止し、教師と生徒として振る舞う事を命ずる。破ったら狭間行き。いっちゃんとそうちゃんに任せるよ?」


「はい、かしこまりました。私はファルナーゼ嬢以外から蹴られたいとは思いませんので、狭間行きにならぬよう気を付けます」


 だから仕方なく――仕方なくなんだよっ。スピネル、そんな可哀想なものを見る目はやめてぇぇぇえええ。

 いや、私は可哀想だと思うけど、そういう意味の視線じゃ無いよね?残念な子を見る目だよね?


 どうにかこうにかドエス先生を追い払う事に成功した。これも命令しなくてはならなかった。もう、改名した方がいいんじゃないかな。アレキサンドエスじゃなくアレキサンドエムに。


「ちょっとあんた!悪役令嬢のくせに何をやっているのよ!?」


 心底消耗して、さあ帰ろうとした時に現れたのはマリア様だった。ああ……私はフラグも折れたことだし死に戻りがない事も分かったんだから、ヒロインちゃんにも攻略対象者にも――スピネル以外――関わり合いたくないのに、なんでこんな目に遭ってるんだろう。


「……スピネルの焼いたアップルパイでまったりとお茶したい」

「いいね。丁度昨日パイ生地を作って寝かせてあるし、リンゴもあった筈だからフィリングもすぐ作れる。シシィが望んでくれるなら毎日だって作ろう」

「いや、毎日は要らない。スピネルのアップルパイ美味しすぎて食べ過ぎて太る」

「太ってもシシィは可愛い」


 おお、このセリフはアレか?溺愛系の台詞!?


「ちょっと!無視してんじゃないわよっ。アンタねぇ、何がしたいの?アルナルドと婚約しないし、そのせいでフィデリオは養子にならないし、レオナルドは近衛になるはずだったのに、ムキムキのマッチョになって辺境騎士を目指すって言うし!レオナルドは脳筋だけど、体まで筋肉だらけにすることないでしょ!?」


 いや、それはどれも私のせいじゃない。

 婚約の話を蹴ったわけではなく、そもそも王子さまが婚約者を決めるのを先延ばしにしているだけだ。よって養子の話が出ていないもの私のせいじゃない。ミーシャは私じゃなくてセバスチアーナ様の影響で(というかラブ?)辺境騎士を目指しているんだし、そもそもムキムキマッチョの何が悪い。


「それに、さっきのは何!?アレキサンドエスが何でMになってんの!?」


 あ、ごめん。それは私の――正確には私とお父様のせいかも。釈明させてもらえるなら、コウドレイが私を誘拐しようとしなければこんな事態になっていないので、諸悪の根源はコウドレイだと思うんだ。――我ながら言い訳臭いけど。


 って、見られてたのかーっ。


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