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第三章
83 婚約
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仕切り直しの求婚から二年ちょい。私は中等部三年、15歳になった。
スピネルとは、13歳の時に婚約を結んだ。
私としては17歳を過ぎてから後顧の憂いなく――と思っていたのだけれど、死に戻りに不安がある為に時間を無駄にしたくないというスピネルに押し切られた。
スピネルのお父様である竜王とは手紙のやり取りだけで婚約の許しを貰った。
竜王国は周辺の国とすら国交をほぼ持っていない国で、わが国とも所縁はない。あっさりと許可が出たところを見ると、出奔した第二王子などどうでもいいのかもしれない。
「シシィ、お茶が入ったよ」
婚約者となったスピネルだけれど、今日も今日とて私の傍付きとしてアップルパイを作りお茶を淹れ、スケジュールを管理し、ドレスや宝飾品のメンテまでしている。それは婚約者の仕事かいなとも思うのだが、スピネル曰く、私の世話は一から十まで自分でやりたいところなのだそうだ。
流石に湯あみや着替えの世話は困るのでお断りしている。
本当なら食事もすべて自分で作りたいと言っているが、シェフたちからの許可は出ていない。私の体内に入るものは全て手ずから用意したいとか言ってるけど、それがレナの言う溺愛なのか?病んでないのか?ヤンデレ属性ではなかった筈なのに。
或いはいいお嫁さん属性かもしれない。黒歴史だろうから本人には言えないけど。
「ありがとうスピネル」
しかし、以前と違うのは、一緒に座ってお茶を楽しめるという事。背後に立たれている状態で飲食するのも慣れてはいたが、一人でぱくつくよりも誰かと一緒の方が美味しい。
困るのは、スピネルは私に手ずから食べさせたがること。膝に乗せようとすること。どちらもお断りしているが、濡れた小動物のようにしゅんとするのが戴けない。これは罠だと承知しつつもほだされそうになる自分を叱咤する。
「最近はマリア様関連で問題ない?」
一学年の時は悲劇のヒロインしていたマリア様だけれど、二学年に上がったあたりから大人しい。騒ぎが起こらないのは有難いのだが、静かなら静かで不安になるから困った。
「今のところ子熊に接触するのは諦めたようだね。フィデリオ・アルカンタ様は高等部に上がりましたので会う機会も無いだろうし」
「ミーシャはもう子熊って感じじゃなくなったのに、いつまでそう呼ぶの?」
この二年でミーシャはゴリラ系に進化する気配が見え始めている。おじいさまのパディントン先生は大熊って感じだったから、ミーシャもそう育つのかと思ったけど、どちらかというと前世の兄たちのようなゴリマッチョになりそうだ。
もしかして、マリア様はゴリマッチョが嫌いだったりするのかな?レナによれば乙女ゲーのミーシャはすらっとした細マッチョだったらしいし。
王子様の記憶でもゴリゴリに筋肉が付いた騎士ではなく、近衛向きの洗練された容姿だったというので、私はレナに何故か責められている。
「シシィがまたゲームを改変したのね」
と。
けれど、それは私ではなくセバスチアーナ様の影響だと思う。
昨年、大熊先生と一緒にセフリーニ辺境伯の領地へ魔獣討伐に行って、セバスチアーナ様と一緒に魔獣退治に精を出し、それから随分と仲良しになったようだから。
ミーシャは王都の騎士ではなく、セバスチアーナ様も目指している辺境の騎士になるかもしれない。
セバスチアーナ様は元々結婚願望はなく騎士を目指すと言っていたけれど、騎士夫婦ってのもいいよねー、と影ながら応援なう。
王子様の婚約者は18歳まで決めない宣言のせいもあって、私たち世代の婚約率は低い。王子妃、ひいての王妃を目指せる立場の公爵家令嬢である私が婚約を結んだ時には、周囲に驚かれた。
マリア様なんて、Aクラスで居場所がないんですーなんて言っていたのに、満面の笑みで私に近寄って来て「アルナルド狙いじゃないから今はいいけど、次はちゃーんと悪役令嬢やってよね?今回だけ見逃してあげるから、精々短い幸せを楽しんで?」なんて耳打ちしてきた。
腹が立つとかはなかった。むしろ哀れだと思った。
彼女の言う「次」がやって来ることはないのだから。
マリア様以外のAクラスの友人は、それはもう恥ずかしくなるほどの祝福をくれた。レナは勿論だけど、ヴィヴィアナ様たちも私とスピネルは似合うと言ってくれ、結婚式には呼んでほしいとも言ってくれた。
高等部を卒業してからだから、18歳に式をする予定だ。
スピネルがくれる想いほどは返せている自信がないんだけど、それでも友人兼傍付きだった彼は、婚約者兼傍付きとなり距離感も変わって言葉遣いも変わって、なんというか……接触する機会が増えてきたせいで、こちらも意識も大分変化した。
チョロイとレナには言われた。
ご令嬢がそんな言葉遣いしちゃいけませんと突っ込んだら慌てていたので、本当にとっさに出てきてしまった言葉だったんだと思う。チョロさに関しては……スミマセン。前世込みで免疫ないもんで、好き好きオーラ出されて、いつも傍に居てくれるスピネルに絆されない訳が無かったんです。
王子様も祝福の言葉をくれた。前回の事をいまだに負い目に思っているのは分かっているが、幸せを祈っていると言った彼も、こっちの心配だけじゃなく自分の幸せを考えてほしいと思う。
レナとかどうですか、レナとか。
しっかり者だし賢いしヘタレ好きだし家格も年も釣り合うし、ヘタレ好きだし。
この国の未来を思うなら、レナくらいしっかりしたお妃さまを選んだ方がいいですぜ。
これももちろん本人たちには言えないから、陰ながら祈っているところである。
スピネルとは、13歳の時に婚約を結んだ。
私としては17歳を過ぎてから後顧の憂いなく――と思っていたのだけれど、死に戻りに不安がある為に時間を無駄にしたくないというスピネルに押し切られた。
スピネルのお父様である竜王とは手紙のやり取りだけで婚約の許しを貰った。
竜王国は周辺の国とすら国交をほぼ持っていない国で、わが国とも所縁はない。あっさりと許可が出たところを見ると、出奔した第二王子などどうでもいいのかもしれない。
「シシィ、お茶が入ったよ」
婚約者となったスピネルだけれど、今日も今日とて私の傍付きとしてアップルパイを作りお茶を淹れ、スケジュールを管理し、ドレスや宝飾品のメンテまでしている。それは婚約者の仕事かいなとも思うのだが、スピネル曰く、私の世話は一から十まで自分でやりたいところなのだそうだ。
流石に湯あみや着替えの世話は困るのでお断りしている。
本当なら食事もすべて自分で作りたいと言っているが、シェフたちからの許可は出ていない。私の体内に入るものは全て手ずから用意したいとか言ってるけど、それがレナの言う溺愛なのか?病んでないのか?ヤンデレ属性ではなかった筈なのに。
或いはいいお嫁さん属性かもしれない。黒歴史だろうから本人には言えないけど。
「ありがとうスピネル」
しかし、以前と違うのは、一緒に座ってお茶を楽しめるという事。背後に立たれている状態で飲食するのも慣れてはいたが、一人でぱくつくよりも誰かと一緒の方が美味しい。
困るのは、スピネルは私に手ずから食べさせたがること。膝に乗せようとすること。どちらもお断りしているが、濡れた小動物のようにしゅんとするのが戴けない。これは罠だと承知しつつもほだされそうになる自分を叱咤する。
「最近はマリア様関連で問題ない?」
一学年の時は悲劇のヒロインしていたマリア様だけれど、二学年に上がったあたりから大人しい。騒ぎが起こらないのは有難いのだが、静かなら静かで不安になるから困った。
「今のところ子熊に接触するのは諦めたようだね。フィデリオ・アルカンタ様は高等部に上がりましたので会う機会も無いだろうし」
「ミーシャはもう子熊って感じじゃなくなったのに、いつまでそう呼ぶの?」
この二年でミーシャはゴリラ系に進化する気配が見え始めている。おじいさまのパディントン先生は大熊って感じだったから、ミーシャもそう育つのかと思ったけど、どちらかというと前世の兄たちのようなゴリマッチョになりそうだ。
もしかして、マリア様はゴリマッチョが嫌いだったりするのかな?レナによれば乙女ゲーのミーシャはすらっとした細マッチョだったらしいし。
王子様の記憶でもゴリゴリに筋肉が付いた騎士ではなく、近衛向きの洗練された容姿だったというので、私はレナに何故か責められている。
「シシィがまたゲームを改変したのね」
と。
けれど、それは私ではなくセバスチアーナ様の影響だと思う。
昨年、大熊先生と一緒にセフリーニ辺境伯の領地へ魔獣討伐に行って、セバスチアーナ様と一緒に魔獣退治に精を出し、それから随分と仲良しになったようだから。
ミーシャは王都の騎士ではなく、セバスチアーナ様も目指している辺境の騎士になるかもしれない。
セバスチアーナ様は元々結婚願望はなく騎士を目指すと言っていたけれど、騎士夫婦ってのもいいよねー、と影ながら応援なう。
王子様の婚約者は18歳まで決めない宣言のせいもあって、私たち世代の婚約率は低い。王子妃、ひいての王妃を目指せる立場の公爵家令嬢である私が婚約を結んだ時には、周囲に驚かれた。
マリア様なんて、Aクラスで居場所がないんですーなんて言っていたのに、満面の笑みで私に近寄って来て「アルナルド狙いじゃないから今はいいけど、次はちゃーんと悪役令嬢やってよね?今回だけ見逃してあげるから、精々短い幸せを楽しんで?」なんて耳打ちしてきた。
腹が立つとかはなかった。むしろ哀れだと思った。
彼女の言う「次」がやって来ることはないのだから。
マリア様以外のAクラスの友人は、それはもう恥ずかしくなるほどの祝福をくれた。レナは勿論だけど、ヴィヴィアナ様たちも私とスピネルは似合うと言ってくれ、結婚式には呼んでほしいとも言ってくれた。
高等部を卒業してからだから、18歳に式をする予定だ。
スピネルがくれる想いほどは返せている自信がないんだけど、それでも友人兼傍付きだった彼は、婚約者兼傍付きとなり距離感も変わって言葉遣いも変わって、なんというか……接触する機会が増えてきたせいで、こちらも意識も大分変化した。
チョロイとレナには言われた。
ご令嬢がそんな言葉遣いしちゃいけませんと突っ込んだら慌てていたので、本当にとっさに出てきてしまった言葉だったんだと思う。チョロさに関しては……スミマセン。前世込みで免疫ないもんで、好き好きオーラ出されて、いつも傍に居てくれるスピネルに絆されない訳が無かったんです。
王子様も祝福の言葉をくれた。前回の事をいまだに負い目に思っているのは分かっているが、幸せを祈っていると言った彼も、こっちの心配だけじゃなく自分の幸せを考えてほしいと思う。
レナとかどうですか、レナとか。
しっかり者だし賢いしヘタレ好きだし家格も年も釣り合うし、ヘタレ好きだし。
この国の未来を思うなら、レナくらいしっかりしたお妃さまを選んだ方がいいですぜ。
これももちろん本人たちには言えないから、陰ながら祈っているところである。
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