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第三章

78 ベッドの中でガールズトーク

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 それから私たちは時間の許す限り話をした。


 前世の事やこの世界に生まれてからの事、学園生活の事や友人のセバスチアーナ様達の事。17歳までに何をしたいか、17歳から何をしたいか。


 客室を用意するとお父様もお母様も言ったけれど、レナはそれを感謝しつつも断り私と一緒にベッドの中である。流石に、お風呂を一緒にというのはメイドたちに却下された。二人いっぺんではなく、一人一人磨きたいからという理由だった。


「私、日本食普及を始めますわ」


 灯りを落とした部屋のベッドの中。誰も聞いている人はいないけれど内緒話のように声を潜めてレナが言った。


「おー。すごーい。レナ、お料理上手だったもんねー」


 私はダークマター製造機と呼ばれた、農家さんに謝れ!漁師さんに詫びろ!食材の天敵!とも言われてきた女だったけれど、レナは違う。前世のまっつんはお弁当は自作、たまに食べさせてもらった手作りお菓子は絶品と女子力高めの子だった。


「以前から料理に手を出したいと思ってましたのよ。けれど、貴族令嬢が厨房に入る事など許されるわけがないと思って動きもせずに諦めておりました。でも、もう諦めるのはやめますわ。17歳までしかないかもしれないんですもの。両親を説得して、食材と調味料を探して、絶対に日本食を作りますっ」


「なんなら私も手伝……」


「いえ、結構です。ヴィヴィアナ様の伝手は何としてでも使わせていただきたいですが」


 酷い。食い気味にきっぱりはっきりお断りされた。確かにヴィヴィアナ様は夏季休暇の時に外国にお出かけだったから、もしかしたら食材関係でもレナに有益な情報をお持ちかもしれないけど。


「シシィは何をなさいますの?」

「もちろん、魔法剣!」

「……拘りますわね」

「ロマンなのです!」


 実際に魔法剣を振るう機会が私にあるとは思えないけど、剣と魔法の世界に転生したのならやってみたいじゃないか。


「スピネル様とはどうなさいますの?」


 レナはそこに拘り過ぎていると思う。どうするもこうするも、求婚は仕切り直すって言っていたんだし、私に出来るアクションはないではないか。スピネルが動き出しても困るけども。


「17歳までしかないかもしれないとなったら、スピネル様は行動に移されると思いますけど。お好きなのでしょう、スピネル様の事」


「好きだよ。けどさー……」


「けど、なんですの?」


 レナがよしよしと私の頭を撫でてくれる。いや、小っちゃい子じゃないんだから……嬉しいけど。


「スピネルの年、知ってる?」

「え、いえ、存じませんわ。公式にも年齢は記載されていなかったかと」

「……97才」

「えっ……」

「しかも寿命は千年。更に青年期が寿命の八割」


 私がおばちゃんになってもおばーちゃんになってもスピネルは若いままだ。そういう相手と結婚を考えられるか?「愛があれば年の差なんて!」と言われるかもしれないが、年の差あり過ぎ。


 いや、年の差よりも寿命の差の方が大きい。それよりも更に老いていくスピードの差が怖い。見た目が二十歳過ぎのイケメンと60才70才になりおばーちゃんになった人間の私が夫婦でいられる?


「ゲームではその点に言及していなかったので分かりませんが、ラノベでよくある設定として、何かの儀式をしたり、竜の逆鱗を相手に飲ませるなりして寿命を同等とする――可能性もありましてよ?」


「人間だったスピネルのお母さんは亡くなっているのに?」


「ああ……、ええ、そうでしたわね。ごめんなさい、シシィも色々と考えているのに余計な事を言いましたわ」


「いっそのこと、絶対に17歳で”今回”が終わるって分かってたらスピネルの気持ちに応えられるんだけどね」


 それなら寿命の差も老いのスピードの差も関係ない。問題は、今のところ私はスピネルに愛だの恋だのと言う思いを持っていない事で、心の中の事だから解決のしようがない。

 元々、政略結婚をするものだと思っていたので、友人としてだけど大好きなスピネルとの結婚がファルナーゼ家的に問題がないのなら忌避感はない。


 ま、それはそれとしていつものように棚に上げておく。

 レナに聞きたい事があるのだ。


「ねーねー、レナ」

「なぁに?」

「レナの推しって――誰?」

「えっ……」


 擦り寄って甘えるように言った私から、レナは距離を取ろうとしている。だが、ここはベッドの上だ。後退りするにも限度があるぞ。


「ま……まぁ、それは気にしなくても宜しいのよ?私はモブですし」

「これだけ展開変わってるんだもん。モブとか関係ないし」

「展開を変えたのはあなたでしょう、シシィ」

「ねーねー、誰?誰?」


 レナが下がった分だけ私が詰めていくと、観念したように「アルナルド殿下ですわ」と小さな声で答えてくれた。


「え、ヘタレ!?レナ、ヘタレ好きなの!?」


 いいの?あの王子様でいいの!?


「あー、もうっ。そうですわよっ。私はヘタレ好きなのですっ。ヘタレを調教……ではなく、教育して一人前にする、ある意味育成ゲーを楽しみたいのですっ」


 それはそれは……なんというか、変わった趣味だな。人の好みは千差万別とは言え、レナがそういうマニアックな趣味を持っているとは思わなかった。


「レナが将来の王妃様ならこの国も安心だ」


 レナの好みの意外さは置いておいて、王妃様に相応しい女性だと思うので、臣下としては変わった趣味を持っていることに感謝をしよう。


「そっ、それはありませんわ。推しは遠くから推しているのがいいのです」

「え?遠くから見ているだけだと調教できないよ?」

「調教ではなく、育成ですのっ」


 いや、本音は調教でしょ?


「それよりも、明日、シシィは大変なのではなくて?」


 露骨に話題を変えてくるけど、レナの言う大変に心当たりはない。明日、何か予定があったっけ?


「スピネル様ですわよ。今日は除け者にしてしまいましたもの。拗ねてるのではなくて?」

「まさかー、そんな事……ありそうだ」


 レナの言う通り、スピネルはいじけてそうだなぁ。


「ねぇ、レナ。スピネルの属性は”溺愛”じゃなかった?溺愛って愛でて可愛がって甘やかして――ってイメージなんだけど、スピネルはどちらかというと甘えん坊だよ?」


 大事にされているけど、溺愛とはちょっと違う気がする。


「それもシシィが変えてしまった展開の一つなのではなくて?」


 冤罪だー!



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