上 下
78 / 129
第三章

76 恋バナ

しおりを挟む


 王子様とお話をした次の週末、レナが我が家にお泊りで遊びに来た。


 お父様もお母様も私が友達を招きたいと言ったら大喜びしてくれて、実際に遊びに来たレナを見て「素晴らしいお嬢さんだ」と大歓迎だ。

 うん、レナは前世から私の自慢の友達なのだ。


「さあ、今日はじっくり聞かせていただきますわよ」


 目がキトキトしていて怖いぞ。爛々を通り越してる。


 スピネルがお茶の支度をしてくれたあと、レナは彼を追いだした。


「女子会なんですの。男性は立ち入り禁止です」


 いや、メイドも追い出したんだけど?メイドは女子なのに。女子会というより尋問するぞって勢いだと思う。私もレナと二人で話をしたい気持ちは山々だけど、身の危険を感じるのは何故だろう。テーブルを挟んで向かい合わせに座っているけど、めちゃ前のめりなんですがー。


 ほんわかおっとりキャラの筈のレナータ様は何処へ行った!?今のレナは肉食獣のようだ。暴れん坊お嬢様の私をビビらせるとは、レナ、侮りがたし。


「それで、あなたとスピネル様はいつからお付き合いをしているの?」

「え……してない」


 直球だ!多分、そういう話をしてくるんだろうなぁと思ってはいたけど、前置きも場を温める会話も無く、貴族特有の遠回しな表現すらない、ど直球だ。


「していないの?なのに、スピネル様はあなたの髪に口付けるの?」


 確かに、あれはお嬢様と傍付きにしては距離感がおかしいと私も思う。


「あんなこと、初めてされたよ」

「まぁぁぁぁ」


 レナが喜んでいる。きらっきらのエフェクトが見えるようだ。


「では、あれが告白でしたのね。親友が告白される場面に立ち会うことが出来て、なんて幸せなのでしょう!」

「え?あれ、告白?」

「でなければ牽制?」

「牽制て」

「第一王子殿下がいらっしゃいましたから」


 王子様とはお茶会で死亡フラグの話をして以来、婚約者云々の立場にはなり得ないとたがいに了承済みの上、スピネルもそれを知っているのに?


「あなたが令嬢らしからぬ素顔を出したから、スピネル様は少し危機感を持ったのかもしれないわね。それだけ気を許しているのだろうと」

「あー……。いつの間にか淑女の仮面が何処かへ行って行方不明だったしなぁ」


 長丁場だったし、話の内容が内容でそちらで頭がいっぱいになっちゃったせいで、令嬢風お嬢様を繕う余裕がなくなっていたんだった。


「あなたはスピネル様をどう思っているの?」

「どうって……スピネルはこの世界で私の最初のお友達になってくれた子で、いつも傍に居てくれて私を大事にしてくれて、あ、私ももちろん大事にしてる――つもりだけど。大好きだけど、そういうんじゃないというか」

「そういうっていうのは、つまり恋かどうかって事かしら?」

「うん。スピネルだって私をそういう目で見ている訳じゃ無いかもだし。あ、プロポーズはされたけど」


 スピネルの名誉の為に嫁発言は内緒にしておこう。


「まぁぁぁぁぁぁ」


 うん、どうしたレナ。きらっきらがギラッギラになってるんだけど。

 そう言えば、前世でまっつんとこういう話はしたことなかった。いや、彼氏いない歴=年齢だったから当然かもだけど。もしかしたら、まっつんには彼氏がいて恋バナとかしたかったかもしれない。


「淡いお付き合いをしている方はおりましたけど、サク達と遊んでいる方が楽しかったので恋人と言えるかどうか。サクだってモテてましたでしょう?先輩後輩同級生問わずに」

「女子高で先輩後輩同級生にモテてどうすんの!?」

「ふふふっ。モテないよりはいいんじゃないかしら?それで、求婚までされたのにどうして”そういう目で見ていない”と思いますの?」


 だって、ねぇ。


 スピネルは私のことを恩人だと思っているだろうし、死亡フラグの話から同情もされただろうし、私に拾われたから刷り込みとかそういう感じかもしれないし、種族も違うし寿命も違うし年も離れすぎてるし。


 前世で色恋とは無縁の脳筋女子やってたから、艶っぽい感情とかピンク色な気持ちの機微とか分かんないし。こっちではまだ12歳だってのもあるし。


 ウダウダと言い訳をしている私を、レナが呆れたように見てる。さっきまでのきらっきらもギラッギラも霧散した。


「理屈で考えているうちはダメですわ。恋は思案の外というでしょう?」

「なら、恋じゃない」


 好きだし大事。

 ”お嫁さんにして”騒動の時は、本気で責任とって娶ろうかと思った位にはスピネルが好き。けど、それが愛だの恋だのになるかは分からん!


 おかしい。いったいなぜこんな話になってんだ。

 スピネルのあの行動を見られたからには、レナはきっと彼の事を聞きたがるとは思っていたけど、ここまで熱心に食いついてくるとは思わなかった。


 二人きりじゃないとできないような話――前世の話とか、マリア様や乙女ゲーの話とか、転生してからこちらでどう生きてきたとか、そういう話をメインにしたかったぞ。


「私たち貴族の娘が好いた方と結ばれるのは難しいでしょう?」


 困った子だとでもいうように私を見てレナが言う。


「スピネル様は公にはされていないけれど、竜王国の第二王子。家格が釣り合って想い想われて伴侶になれたら素敵だと思うの」


 そりゃ、そういう相手と結婚出来たら素敵だとは思う。けど、私は死亡フラグが砕けてからは公爵家の継嗣として生きていくと決めてるから、恋愛結婚だなんて考えもしてなかった。スピネルは大事な友人だけど、プロポーズを仕切り直すと言われ、その件に関しては棚上げして考えないようにしてる。


「マティアーシュ様は、攻略対象者の中ではお勧めの方なのよ?彼の属性は”溺愛”ですもの」


 ……攻略対象者の属性ってなんぞや。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜

橘しづき
恋愛
 服部舞香は弟と二人で暮らす二十五歳の看護師だ。両親は共に蒸発している。弟の進学費用のために働き、貧乏生活をしながら貯蓄を頑張っていた。  そんなある日、付き合っていた彼氏には二股掛けられていたことが判明し振られる。意気消沈しながら帰宅すれば、身に覚えのない借金を回収しにガラの悪い男たちが居座っていた。どうやら、蒸発した父親が借金を作ったらしかった。     その額、三千万。    到底払えそうにない額に、身を売ることを決意した途端、見知らぬ男が現れ借金の肩代わりを申し出る。    だがその男は、とんでもない仕事を舞香に提案してきて……  

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

処理中です...