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第三章

63 マリア様の行動は不審

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 なるべくさりげなく振り返ると、ミーシャの言った危険物――マリア様がこっちを睨んでいた。


 今日も今日とて日替わりメニューの男子とランチを取っていたし、休み時間も他クラスに行って色んな男の子とお話ししていたらしいのに、ミーシャは別腹だとでもいうのだろうか。それにしても私を睨んだって仕方ないだろうに。


 子熊狙いか、この間見かけた先輩狙いかしらんけど、誰かを落としたかったら色んな子にちょっかい出すのはやめた方がいいと思う。


 そんな事を考えていたら、マリア様がこちらに向かって歩いてきた。

 ミーシャはもう行っちゃったから、ご用件は私に、かな。


 ちゃんとお話しできたら、マリア様がなぜ私たちを悪者にするような真似をしているか分かるだろうか。それとも、私が気付いていないだけで、マリア様にはマリア様の正当な言い分があるのかもしれない。


「お嬢様、お待たせいたしました」


 腹割って――は無理でもお話しして思う所を聞きだすチャンスかなと思っていたのに、スピネルが戻ってきたのを見たマリア様が踵を返し、私に背を向けていってしまった。うぉう。こんな機会は次にいつ来るか分からないってのに、空気読んでよ、スピネル!と思ったら


「お嬢様、彼女と二人きりで話すのは避けたほうが宜しいかと」


 空気を読んだうえでの行動だったらしい。


「んー。でもさ、周りに人がいたらマリア様もぶっちゃけた話し難くない?」

「しなくてもいいと言ってるんです」

「いや、ほら、なんで流言まくような真似しているのか気になるじゃない。なんか理由があるならさぁ」

「地下組織との繋がりに関しては真犯人が捕えられているので、そのうち噂は払拭されるでしょう。クラスで疎外されていると言いまわっているようですが、見識のある方々は彼女に否定的です。一部、彼女に傾倒している方もいるようですが、その方々のほうこそ諫められているようですので問題ありません」

「うーん……。噂自体を気にしていると言うより、理由が知りたいんだよ」

「世の中には理解できない動機や理念で行動する方もいるそうです。彼女もその一人かと」


 つまり、聞くだけ無駄だと言っている訳か。

 スピネルは相変わらず過保護だ。おかしいなー。私が拾って私が面倒見ていた筈なんだけどなー。主従という間柄ではあるけど友人なのに、お世話するものとされるものの立場がいつのまにか逆転しちゃったような気がする。


「今日はよくしゃべるね?ご機嫌治った?」


 そう言うと、スピネルは苦いものを口に突っ込まれたように渋い顔になった。


「機嫌が悪かったわけではありません」

「でも、あんま話をしなかった。私のこと、ちゃんと見てもくれなかった。」

「それは――ちょっとタイミングを見計らっていたと言うか。申し訳ありません」

「タイミング?」


 何の?


「お嬢様……」

「はいな」

「あの」


 言いよどむスピネルは珍しいな。何のタイミングを見計らっていたのか分からないけど、そんなに言い難いことなのか。


「お話ししたい事があります。お時間を作って頂けませんか?」

「いいよ、いつでも」


 当たり前だ。私の可愛い大事な友達が何を悩んでいるのか分からんけど、そして、悩みを打ち明けられて私が役に立てるかどうかも怪しいけど、出来るだけの事はするさ!


「ありがとうございます」


 ホッとしたようにスピネルが笑ってくれたので、私も安心した。

 大丈夫、私は絶対にスピネルの味方だから。


 あ、これは王子様が私を無条件に信じるって言ったのとは意味合いが違うから!王子様は前回のシシィに負い目があって、そのせいで良く知りもしない私に「罪に落としたりしない」宣言したけど、私はスピネルが好きでスピネルを知っていて、だからスピネルの味方をすると決めているのだ。


 もちろん、間違っているときは叱るし、危ない事をしたら説教かますし、無条件で何をしても受け入れると言う訳ではない。ただ、それでもスピネルの味方だと言う大前提は覆らない。


「ファルナーゼ嬢、貴女も今からお帰りか」


 帰ろうとしていたところに声をかけてきたのは王子様。貴女もっていう事は、王子様もこれから帰るところだったんだろう。


 おおっと。

 王子様の傍らにいるのは、この間マリア様が待ち伏せして運命の出会いを演出したものの、パンを咥えていなかったせいで不発に終わったお相手の先輩じゃないか。


 もしかして、マリア様はどっかから見てる、かも?

 視線も気配も案じないから居ないとは思うけど、ミーシャとのお喋りを見られた後に、この先輩とお話ししているところを見られたら、また、怒りそうだ。


「ごきげんよう、第一王子殿下」


 仰々しい挨拶は不要だと言われているので、スカートの裾を軽く持ち上げて小さく膝を折るにとどめた略式の挨拶をする。


「ファルナーゼ嬢、こちらはフィデリオ・アルカンタ。私の朋輩だ。フィデリオ、こちらはシシィ・ファルナーゼ嬢。宰相のご息女だ」


 フィデリオ!!


 殿下のいう所の”前回”で私の義兄だった方ではないですか!そして、私の立たなかった死亡フラグの関係者!


 う……わー。面識を得たくはなかったなぁ……。


「初めまして、ファルナーゼ嬢。遠くはありますが、我がアルカンタ家はファルナーゼ家の親戚でもあるんですよ」


 にっこり笑う、お義兄さまになるかもしれなかった人。

 がんばれ、私の表情筋。いまこそ分厚い令嬢の仮面をつける時だ。


「初めまして、アルカンタ様。もちろん、アルカンタ家の事は存じておりますが、学園でご子息にお目にかかれるとは思ってもおりませんでした」


 アルカンタ家の事は知っていても、フィデリオがアルカンタ家の人間だとは知らなかった私は、精一杯に余所行きの顔で挨拶する。


 王子様がごめんね?という顔をしているけど、偶々会っちゃったんだから仕方ない。


 フィデリオという名を覚えていたであろうスピネルが、王子様に向かって渋い顔をしてるけど不敬だからね?



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