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第三章
58 王子と公爵令嬢のお茶会
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王子様から招待状が来ちゃったよ。
”話の続き”とやらをしたいらしいけど、クソッたれ発言の続きってなんなんだろう。
いろいろと考えてしまって食欲も落ち……なかった。夜も眠れない……こともなくぐっすり寝てる。自分のことながらながら神経の太さに呆れる。
物思いにふける時間は長くなったと思うが、食事も睡眠もしっかり摂って、更には王子様からの招待状効果でメイドたちも張り切って私のメンテをしてくれていたので、その日を迎えたときには肌はぷりっぷり髪はつやっつやで、心とは裏腹に外見は人生最高のコンディションの私が出来上がっていた。
そしてお呼び出しの当日。
「詫びるべき私がファルナーゼ家へと赴くべきなのだが、それにより要らぬ噂がたつとファルナーゼ嬢に迷惑をかけるため、こちらに足を運んでいただいた。申し訳ない」
挨拶をした後、また詫びられた。
この王子様、簡単に謝り過ぎじゃね?王子様だからってふんぞり返られるのも困るけど、臣下の娘としての反応をどうしていいか迷う。
「いえ、私のことを慮って下さった事を感謝いたします」
わざわざお父様にも協力してもらって、王宮の父を訪ねた私と王子様が偶然出会いお茶をご一緒するという態を装ってるんだから、念の入った事だと思う。
メイドさんがお茶を淹れてくれたあと、わざわざ人払いをした王子様が私の背後にいるスピネルに目をやった。
彼も席を外させろってことだろうけど、それは私が嫌だ。扉を開けているとはいえ男女二人きりで一室にいるのも拙いし、なにより王子様と二人きりになりたくない。
「彼は大丈夫です。私が誰よりも信頼しているものですし、私のことを誰よりも理解しているものでもあります」
だから、強権発動してスピネルを室外へ追いやったりしないで下さい。
って、おい、スピネル君や。無表情をキープしてよ。その得意げな顔と誇らしげに張った胸を元に戻してよ。可愛くて困るから。
「ファルナーゼ嬢がそこまで言うのなら」
王子様がOK出してくれた。なんだかわからないけど、王子様は私に謝りたいわけだからある程度こちらの希望を汲んでくれるんだろう。ホッとした。
「ファルナーゼ嬢……温室での事なんだが……」
来た、不敬発言のクソッたれ問題。あれ、流してくれたと思ったけど、やっぱりお怒りだったんだろうか。思わず背筋がピンと伸びてしまった私を見て、王子様が視線を逸らした。
「前回の事は、申し開きのしようがない。君が望むならどんな罰でも受ける準備がある。この首をというのなら差し出そう。ただ――できれば、諸々の後始末が済むまで待ってもらいたい」
「くっ……首!?あ、あの第一王子殿下、何をおっしゃっているのです!?」
こわっ。王子様こわっ。背後のスピネルも珍しく動揺している気配がする。そうだよね、王子様が首を差し出すとか、何言ってんだ、ワレ!!って思うよね!?私のクソッたれ発言からの王子様の謝罪だけでも訳わからないのに、どんな罰でも受ける・首を差し出すとか、意味不明過ぎてコワイ。
「冤罪からの断罪……実際には君は病で儚くなったが、それが無かったら毒杯をあおる事になっただろう。前回の――君が17歳の時」
何を言っているか分かる?とスピネルに目をやると首を横に振られる。王子様、ちょっと精神的にアレな人?
あ、でも、ちょっと待った。17歳、冤罪、断罪――って乙女ゲームの話と同じ。温室で私が叫んだ言葉だから、それを覚えているのかもしれない。けれど、誰があんな言葉を真に受けるだろうか。”何の世迷い言か”とか”寝言”としか思えないんじゃないの?
それと、毒杯前に病で儚くなったという「前回」の話。
思いつめた表情の王子様は視線を落としたままだ。
あー、まつげも金髪なんだなー。なんて観察して現実逃避をしている場合じゃない。
「殿下は……”前回”から逆行なさったと理解してよろしいでしょうか?」
答えは多分コレだ。背後のスピネルが纏う空気がひんやりとしている。スピネルにしてみたら訳の分からない事を私が言いだしたと思っているだろう。あとでちゃんと説明するから、この場では落ち着いてちょーだい。
あの日――お茶会の後の王子様の不審な行動が腑に落ちる。
倒れた私を見舞いに来てくれた時、王子様も転生者なのかなーと思ったけどそうじゃなく、今まで零れた言葉を拾い集めるに「乙女ゲームの王子ルートで悪役令嬢が断罪された後に冤罪だと判明」のバッドエンド。ヒロインのステータスが王子攻略の基準を満たしてなかった時に辿り着く終幕。
逆行が起こった理由は分からない。
それを言ったら転生だってそうだけど。
理由はともあれ、王子様はシシィを断罪したものの、それが冤罪だったと知って「謝って許される事ではないが、それでも謝罪することだけは許してほしい」発言か。
そりゃ謝るわ。いくらヒロインちゃんに攻略されたからと言って、9歳の頃からの婚約者の冤罪をまるっと信じて断罪しちゃったんだもん。でもって、処刑前に死んじゃったとは言え、シシィを殺そうとしたわけだし。
けど、私はその記憶はない。
うん、私に謝られても困るね。
私は逆行してきたわけじゃないからさ。
おずおずと視線を上げた王子様が、逆行してきたことを認め僅かに頷いた。
「私は殿下の仰る”前回”の記憶はございません。故に謝罪を受け入れることは出来ません」
王子様が”前回”の記憶がないと言う言葉に衝撃を受けたか、謝罪を受け入れられなかった悲嘆でか真っ青になった。かすかに震えているように見える。
申し訳ない気にさせられるけれど、その謝罪を私が受けちゃったら”前回”のシシィが可哀想だ。
”話の続き”とやらをしたいらしいけど、クソッたれ発言の続きってなんなんだろう。
いろいろと考えてしまって食欲も落ち……なかった。夜も眠れない……こともなくぐっすり寝てる。自分のことながらながら神経の太さに呆れる。
物思いにふける時間は長くなったと思うが、食事も睡眠もしっかり摂って、更には王子様からの招待状効果でメイドたちも張り切って私のメンテをしてくれていたので、その日を迎えたときには肌はぷりっぷり髪はつやっつやで、心とは裏腹に外見は人生最高のコンディションの私が出来上がっていた。
そしてお呼び出しの当日。
「詫びるべき私がファルナーゼ家へと赴くべきなのだが、それにより要らぬ噂がたつとファルナーゼ嬢に迷惑をかけるため、こちらに足を運んでいただいた。申し訳ない」
挨拶をした後、また詫びられた。
この王子様、簡単に謝り過ぎじゃね?王子様だからってふんぞり返られるのも困るけど、臣下の娘としての反応をどうしていいか迷う。
「いえ、私のことを慮って下さった事を感謝いたします」
わざわざお父様にも協力してもらって、王宮の父を訪ねた私と王子様が偶然出会いお茶をご一緒するという態を装ってるんだから、念の入った事だと思う。
メイドさんがお茶を淹れてくれたあと、わざわざ人払いをした王子様が私の背後にいるスピネルに目をやった。
彼も席を外させろってことだろうけど、それは私が嫌だ。扉を開けているとはいえ男女二人きりで一室にいるのも拙いし、なにより王子様と二人きりになりたくない。
「彼は大丈夫です。私が誰よりも信頼しているものですし、私のことを誰よりも理解しているものでもあります」
だから、強権発動してスピネルを室外へ追いやったりしないで下さい。
って、おい、スピネル君や。無表情をキープしてよ。その得意げな顔と誇らしげに張った胸を元に戻してよ。可愛くて困るから。
「ファルナーゼ嬢がそこまで言うのなら」
王子様がOK出してくれた。なんだかわからないけど、王子様は私に謝りたいわけだからある程度こちらの希望を汲んでくれるんだろう。ホッとした。
「ファルナーゼ嬢……温室での事なんだが……」
来た、不敬発言のクソッたれ問題。あれ、流してくれたと思ったけど、やっぱりお怒りだったんだろうか。思わず背筋がピンと伸びてしまった私を見て、王子様が視線を逸らした。
「前回の事は、申し開きのしようがない。君が望むならどんな罰でも受ける準備がある。この首をというのなら差し出そう。ただ――できれば、諸々の後始末が済むまで待ってもらいたい」
「くっ……首!?あ、あの第一王子殿下、何をおっしゃっているのです!?」
こわっ。王子様こわっ。背後のスピネルも珍しく動揺している気配がする。そうだよね、王子様が首を差し出すとか、何言ってんだ、ワレ!!って思うよね!?私のクソッたれ発言からの王子様の謝罪だけでも訳わからないのに、どんな罰でも受ける・首を差し出すとか、意味不明過ぎてコワイ。
「冤罪からの断罪……実際には君は病で儚くなったが、それが無かったら毒杯をあおる事になっただろう。前回の――君が17歳の時」
何を言っているか分かる?とスピネルに目をやると首を横に振られる。王子様、ちょっと精神的にアレな人?
あ、でも、ちょっと待った。17歳、冤罪、断罪――って乙女ゲームの話と同じ。温室で私が叫んだ言葉だから、それを覚えているのかもしれない。けれど、誰があんな言葉を真に受けるだろうか。”何の世迷い言か”とか”寝言”としか思えないんじゃないの?
それと、毒杯前に病で儚くなったという「前回」の話。
思いつめた表情の王子様は視線を落としたままだ。
あー、まつげも金髪なんだなー。なんて観察して現実逃避をしている場合じゃない。
「殿下は……”前回”から逆行なさったと理解してよろしいでしょうか?」
答えは多分コレだ。背後のスピネルが纏う空気がひんやりとしている。スピネルにしてみたら訳の分からない事を私が言いだしたと思っているだろう。あとでちゃんと説明するから、この場では落ち着いてちょーだい。
あの日――お茶会の後の王子様の不審な行動が腑に落ちる。
倒れた私を見舞いに来てくれた時、王子様も転生者なのかなーと思ったけどそうじゃなく、今まで零れた言葉を拾い集めるに「乙女ゲームの王子ルートで悪役令嬢が断罪された後に冤罪だと判明」のバッドエンド。ヒロインのステータスが王子攻略の基準を満たしてなかった時に辿り着く終幕。
逆行が起こった理由は分からない。
それを言ったら転生だってそうだけど。
理由はともあれ、王子様はシシィを断罪したものの、それが冤罪だったと知って「謝って許される事ではないが、それでも謝罪することだけは許してほしい」発言か。
そりゃ謝るわ。いくらヒロインちゃんに攻略されたからと言って、9歳の頃からの婚約者の冤罪をまるっと信じて断罪しちゃったんだもん。でもって、処刑前に死んじゃったとは言え、シシィを殺そうとしたわけだし。
けど、私はその記憶はない。
うん、私に謝られても困るね。
私は逆行してきたわけじゃないからさ。
おずおずと視線を上げた王子様が、逆行してきたことを認め僅かに頷いた。
「私は殿下の仰る”前回”の記憶はございません。故に謝罪を受け入れることは出来ません」
王子様が”前回”の記憶がないと言う言葉に衝撃を受けたか、謝罪を受け入れられなかった悲嘆でか真っ青になった。かすかに震えているように見える。
申し訳ない気にさせられるけれど、その謝罪を私が受けちゃったら”前回”のシシィが可哀想だ。
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