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第三章

50 事件 6

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「今度は何を拾ってきたんだ……いや、これを拾ってきたのか?お前は何を考えている?元の所へ戻しておいで」


 呆れた様子のお父様に物申したい。

 いっちゃんそうちゃんは私のお友達紹介であって拾ったわけではない。私が拾ったのはスピネルだけなので、いつも何かを拾ってくるような発言はどうかと思う。


「いや……拾ってくるにしたってコレは無いだろう」


 頬を膨らませた私の不満を「元の所へ戻しておいで」の部分に関してだと誤解したお父様が、縛られ引き摺られてきた男たちを見て頓珍漢な事を言う。

 ないよ。もしも私が人を拾ってくることがあるとしても、コレは無いよ。


「旦那様、こちらの男たちですが、この娘さんを白昼堂々と誘拐しようとしたところを、私とお嬢様とで捕えて参りました。こちらのご婦人は目撃者でありますので、証言をしていただくため同行をお願いしました」


「ふむ。その向こう見ずな勇気の是非はともかく、なぜうちに連れてきた?官憲に引き渡せば終いだろう」


 お父様の冷たい目を向けられた男たちは、如何にも強勢な貴族です感満載の豪勢な屋敷に委縮していたが、それが最後の頼みの綱とばかりにお父様の足元に危険物を置くような発言をした。


「ふっ……ふんっ。お、俺たちを解放した方が身のためでございますぜ、お貴族様。俺たちのバックに付いて下さってるあのお方が知れば、いくら大きな屋敷に住むようなお貴族様でも、つ……潰されやすから」


 うん、それ地雷だから。


「今すぐに開放してくださるなら、この事はファルナーゼ様には黙っていてやってもようござんす」


 あーあ、地雷を踏んだぞ。


「俺たちのボスはファルナーゼ家継嗣のシシィさまなんですぜ?公爵家で宰相職の父親を持つあのお方を敵に回して無事にいられると思ったら……」


 踏んだ地雷から足を離しました。もう、爆発するしかありません。


 鈍い打撃音がしたかと思ったら、私の名前を口にした男が後ろに吹っ飛んだ。お父様の前蹴りが決まったのだ。

 いやいやいや、宰相様って文系のトップだよね?何故にお父様のヤクザキックにそんな威力がある?


 でも……


「お父様……格好イイ」


 私はうっとりだ。武闘派イケメン宰相なんて惚れるしかないだろー。


 お父様は手を組んで惚れ惚れと見つめる私に、まんざらでもない様子。武闘派イケメン宰相が実は可愛いとか素晴らしすぎる。

 前世の父もムキムキマッチョだったし、イケメンではなかったけど母に弱くて子供に優しくて素敵な父だった。大好きだった。

 私、前世も今世も家族運MAXじゃない?ラッキー。


「私だって成長すれば……」


 父をうっとり見ていると、スピネルが目を眇めて歯噛みした。大丈夫。スピネルは今は可愛い系だけど、大きくなったらちゃんと格好イイ系になるよ、多分。

 それに可愛いは正義だという有名な格言があるじゃないか。


「何か、お嬢様が碌でもない事を考えていそうな気がします」


 失敬だな!スピネルが可愛いってのは碌でもない事ではないぞ。


 そんなやり取りをしているうちに、ヤクザキックでふっ飛ばされた男が鼻血を垂らしながら起き上がった。後ろ手に縛られているのによく頑張った。身を持ち崩しているように見えるが、案外鍛えているのか腹筋はちゃんとあるようだ。

 あー、床に鼻血を垂らさないでね。汚いから。


「こっ、こんな事をしてタダで済むと……」


 言葉に勢いがないのは仕方ないだろう。貴族の家に連れ込まれて味方と言えば同じく後ろ手に縛られている男二人。助けの当ても無ければ退路も無い。

 ここで殺されて埋められても誰も気づかない。


 バックに大物がいると言ったって、連絡手段も無い。


 そもそも、その大物って言うのがうちのお父様と私のことなんだから笑ってしまう。


「ふむ。ただで済むかどうかを君たちに心配してもらうには及ばないが――一応、名乗っておこうか」


 睥睨するお父様が格好イイ。その虫けらを見るような目は、前世で知っている一部女子に人気のドS系ってやつだね。


「私はブライアン・ファルナーゼ。この国で宰相の役職を担っている公爵家当主だ。そして、私の隣にいる天使はシシィ・ファルナーゼ。――さて、君たちが言う後ろ盾とは何のことだね?」


「ひぃっ」

「え……そんな、まさか」

「う……嘘つきやがれっ、俺たちはファルナーゼ様にもシシィ様にもお目にかかった事が……」


 怯える者、虚勢を張る者、どちらも末路は一緒だから安心して吠えなさい。

 君たちに未来はない。


「アーノルド」


「はい、旦那様」


「王宮に使いを出してくれ。私はこの者どもを連れ登城する」


 そう言ったお父様は、私が手を繋いでいる女の子と隣に立って震えているおばさんに優しく笑うと、小さく頭を下げた。


「このような者どもの横行を許していたことを詫びよう。同じことを繰り返さぬよう厳罰に処し、民の生活の安寧を守るための対処を約束する」


 女の子とおばさんはもう声も出ない様子で、真っ青になって手と首を横に振っている。

 貴族と言うだけでも雲の上だろうに、いくら優しい笑みを浮かべていたとしても公爵家当主の宰相に頭を下げられちゃ身の置き所がないだろう。気持ちはわかるよ、私も前世で庶民だったから。


 さて、ここまで来たらお父様に丸投げだ。後は宜しく。


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